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[R18][SakaUra] BL喫茶の店員さんは俺に夢中!?

Author: じゃむおじ

Link: https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=18290889

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- BL喫茶の店員さんは俺に夢中!? -

男に興味なんて無い。


俺はノンケだ。ゲイじゃない。

そう、絶対に。


「.........っ、いってぇ......」

俺、坂田明は目を覚ます。

目覚めは最悪だが。

重い体を上げると同時に、酷い頭痛が走る。
頭が痛い、痛すぎる。完全に飲みすぎた。

くそ、どれもこれも、バイトの店長が俺をまるで使えないやつだと言葉を吐くせいだ。
俺が使えないんじゃない、お前が使いたいように使えないから嫌なだけだろ。

朝から散々な気持ちだ。

頭を抱えながら起き上がると、身につけていたものは下着1枚だけだと分かる。

俺、こんな酒癖悪いやつやったっけ。

服を脱いで下着1枚で起きるなんて今までに1度も経験したことがなかったため、俺は苦笑いを浮かべる。
欠伸をかみ締めながら枕元にあるであろうスマホを探していると、やけに人肌のように暖かいものが手に触れる。


なんやこれ、あったかい。


布団をめくると、その光景をみて俺は絶句する。

「......っ、は?????」

そこには、身に覚えのない1人の男が、すやすやと気持ちよさそうに眠っていた。


____全裸で。


「はい坂田遅刻ーー。20分経ったから欠席扱いな」


全力で走って扉を開けたのに、間に合わなかった。
ぜぇ、ぜぇ、と荒い呼吸を吐いては、間に合わなかったことに更に溜息を吐く。


「せんせぇ!!それはないっすよ、授業じゃないんやし!!」
「アホが。ゼミも授業の一貫だ。ちゃんと出席できるようにしろ」
「ゔ......はぁーい」


ごもっともな言葉を返され、俺はしゅんと顔を枯らしながらとぼとぼと自分の席に着く。


「っふ、やから飲みすぎんなって言ったんに...っ」


面白可笑しく隣の席で笑いやがる男、折原センラ。
俺の高校からの連れの1人で、今の大学も一緒になった。
受けている授業もほとんど被っているため、ほぼ毎日コイツとは顔を合わせている。


「うるっさ!!お前が飲め飲めとか調子乗ったこと言ってきたからやろ!!」
「だって昨日のお前すげぇめんどくさかったんやもん。店長の愚痴で激怒したかと思いきやいきなり泣き上戸になってよぉ」
「なにそれ、坂田酒癖悪い奴なん?」


センラの前の席に座っていた、月崎志麻が揶揄うような笑い方で後ろを向く。
志麻とは大学からの付き合いだが、一緒に居てめっちゃおもろいし、頼りになるかっこいい男だ。
最近はすっかり打ち解けて、センラと同じように俺を揶揄うようになってきた。
ジロ、と睨むと、すまんすまんと肩を叩かれる。


「今度3人で飲もうや。坂田めっちゃ口軽くなるから見てておもろいで?」
「飲みたい飲みたい!!」
「お前ら、俺を揶揄うなよ!!」

「おい、お前ら授業中だぞ」


教卓の前で立っていた、翔太(みんなには翔ちゃんって言われてるけど、呼ばれる度に訂正してる)先生の圧力に、俺たちは即座に正しい姿勢をとる。
俺たちのゼミの先生は、他の先生に比べてかなり冷たいし厳しいが、信頼できるしたまにご褒美くれるし、ほんとに「良い先生」って感じで俺は好き。
周りからも慕われていて、しょーちゃんしょーちゃんと先生に集まる生徒はよく見かける。


「しょーちゃーん、今日何やるんー?」
「翔ちゃんと呼ぶな。今日はとりあえずレポート作成準備のための授業だ」
「えぇレポートぉ!?!」
「やらなかったら単位落とすからな」


俺は単位落としても問題ないと言いたげな涼しい顔で翔ちゃんに告げられ、ゼミの生徒は項垂れる。

 レポート、レポートねぇ。

朝起きたら隣に知らない男の人が寝てました、なんて話書いたりとか、なんて。

結局俺は隣で寝ている男を見て、数分、いや数秒だったかもしれないが、呆然と思考停止状態になることしかできなかった。
 
だって、隣に知らない男が寝てるんやで?
ドラマか、アニメの世界でしか見たことないし、第一そういうのって必ず異性やろ。
なのになんで、男やねん。

すると突然ブーッブーッと携帯のバイブ音が鳴って、俺はビクッと大袈裟に体を反応させてしまう。

そうや、俺はスマホを探すために枕元を探してたんや。

枕元を手で探り、スマホを掴む。
画面を開くと、【センラ】と名前が表示されていた。LINEを開くと、大量のスタンプが送られてくる。

【おっ】

既読がついたためか、センラがスタンプの連打を止める。

【起きた?】
[いま起きた]
【昨日飲みすぎたな】
[今日なんかあるっけ]
【しょーちゃんのゼミある】

センラのLINEの文を見て一気に顔が青ざめる。
そうだ、ゼミや。すっかり忘れてた。


[今家出たら間に合うと思う?]
【全力で走れば俺ならいける】
[お前のその持久力誰にでもあると思うなやクソ]


考えてる暇はない、とにかく全速力で行くしかない。
俺はすやすやと眠っている男をどうしようかと迷ったが、そんな時間ももったいない。

 まぁいい。いずれこの男も知らん家だと気づいて勝手に居なくなっとるやろ。

謎の確信をして俺はその男を起こすこともせず、急いで着替えて家を出た。

...あの人、まじで誰やったんやろ

90分間のゼミの授業を終え、俺はセンラと志麻の歩く後ろ姿を眺めながらそんなことを考える。
あの時は焦っていて考える間もなかったが、今考えてみたらかなりおかしい状況だったことは間違いない。

どういうことだ。まさか何か盗む気でいたとか?

それなら大変だ。犯罪者を放っておいてゼミに向かって全速力で走る奴とか。
いやそもそも知らない人が隣で寝てるのに何もせずに家に置いていくバカがいるのか?アホか俺は。


「そういや坂田、昨日めっちゃかっこええことしとったやんな」


すると、振り向いたセンラがニヤニヤと揶揄うような笑みを向けてくる。


「は?かっこええこと?」
「そうそう。聞いてや志麻くん、こいつ、みんなに酒飲めって強要されとった子のこと助けたんやで?」
「ほぇー、なかなかやるやん坂田も」
「『それ俺が飲むから。いらんねんそういうアホみたいなテンション。困っとるやろ』って!」


なんやそれ、全く覚えちゃいないぞ。


目を点にさせてセンラの話を聞いていると、驚いたようにセンラも俺を見る。


「なんや、それも覚えとらへんのか!?」
「いや、昨日の飲み会って、サークルやったやんな?」
「そうそう、バスケのな。でもしばらく経ってからもう一個サークルが参加してきたんよ、なんのサークルやったっけ。俺も忘れた」


バスケサークルの奴らで飲んでいたことは記憶にあるが、もう1つのサークルが入ってきたことはまるで記憶にない。
バイトの店長への怒りに溢れて初っ端からかなり飲んでいたためだろう。


「その子、その参加してきたサークルの中に居たんやけど、助けた坂田のことめっちゃ驚いた顔して見ててさぁ。坂田が酒一気飲みした後フラフラしながらどっか出てったんやけど、その子が慌てて着いて行っとったんよな」
「えセンラ、それ男?女?」
「それがな志麻くん.........男やねん!!!女の子やったら恋が始まるLove so sweetかかっとったかもしれんのになぁ」


でも顔は可愛かったで、なんて軽く零すセンラは笑っているが、俺はある可能性を見出してしまい青ざめる。

待て。いったいその後、俺とソイツはどうなったんだ。


「な、なぁセンラ」
「ん?...なんや、顔色悪いでお前」
「その後、俺戻ってきたよな?」


戻っていてくれ、頼む。


「いや?戻って来おへんかったよ。そのさっき話してた子だけ戻ってきて、お前のこと送るから荷物くれって言われて」
「っな、それで素直に荷物渡したんか!?」
「そやで!あの時お前を送らなあかんの絶対俺やったから、助かる〜って思って」


お前のこと送るん大変やねんて、帰らへんでとか気色悪いこと言う日もあれば、泣きまくって近所迷惑な時もあるからなぁ。
そんなセンラの言葉は、俺の耳には届いていなかった。


ってことは、今日朝隣におった男は、昨日の飲み会にいたやつで、それで俺が助けて、知らない間に一緒に帰って、目が覚めたらお互い全裸で............

 いやそれ、それって、まるで

「まぁ一言で言えば、『お持ち帰り』され......」
「うわああああああーーー!!!!!!!!!」
「いやうるっさ!!!!」


まじか、まじかまじか、マジかよ、俺......っ!!

頭を抱える俺を見て、何かに勘づいたように目を見開きながらセンラが俺の肩を掴む。


「まさか、お前ガチでお持ち帰りされたん!?」
「っは、はぁああ!?!ちゃうって、絶対されとらん!!!!!起きた時自分の家やったし!!!!」
「昨日の子は!?家におったんか!?」
「.........へっ......っあ、う」


嫌な汗が嫌という程流れてくる。
そんな俺の様子に、センラと志麻は当然だが驚いた様子を見せる。


「え、坂田お前、なん、え、は?」
「おい坂田、よく聞け。お持ち帰りっていうのはな、飲み会とかで出会って意気投合したり、この人かっこええなあ可愛ええなあとか思った2人がこっそり抜け出して、ホテルとか家とかであんなことしたりこんなことしたりすることやぞ」
「っちょ、志麻くん、今の坂田の目死んでるから追い込むなや」
「多分その子は、助けてくれた坂田へのお礼のために送ってくれたんよな?まさか、坂田のこと下心ありで送ってくれたん?」


 知るか。俺に聞くな、そんなこと。


「......お前、まさか遅刻した理由」
「それはちゃう!!!ほんまに寝坊や!!!」
「あっ、なら服は?お互い着とったんやったら、一線越えた可能性は薄いで」
「確かに!志麻くんナイス!」


「............」

「「............」」

「..............................」

「............アウト、やな」「お前まじかよ!!!」


 ああもう、死にたい。


とりあえず情報共有をするためにどっかの店に入ろう、というセンラの提案のもと、俺と志麻、センラは歩く途中で見つけた喫茶店に入った。

それにしても、やけに女の人しかいないカフェやな。

そんなことを一瞬考えたがそんな余裕もなく、俺は空いている席に座って俯くことしかできない。
向かい側に座ったセンラと志麻が、呆れた笑いをしながら俺を見てくる。


「でも、体痛くないんやろ?妹がBL好きでよく強制的に話聞かされるんやけどさ、男同士でする時、尻に突っ込むらしいんやと。マジで想像できひんよな。次の日とか普通痛いやん。想像するだけで腹痛なる」


生々しいこと言うなや、と志麻に零すと、センラもいつにも増して真面目な顔をして腕を組む姿勢をとる。


「...ってことは、シてないか、相手がテクニシャンやったかの2択やな」
「ふざけんな上手いもクソもあらへんわ」


 そんなことあってたまるか。


「いや、もう1つの選択肢あるで」
「...なんや」

「...坂田が挿れる側、とか」

志麻の言葉に、俺もセンラも唖然として口を開ける。
センラが俺を揶揄う時のようなニヤけた顔になるのが分かって、俺はプチ、と怒りで血管が切れそうになるのがわかる。


「え〜っ?お前、お持ち帰りされた挙句自分で助けた子のこと襲ったん?」
「シネ。コロス」
「ちょ、落ち着けって2人とも!ここカフェやぞ一応」


思わずセンラの胸ぐらを掴もうとした手を志麻が宥めるように抑える。
そうやった、カフェにいるんやった、俺ら。


「...それにしても、なんか視線感じぃひん?」


志麻が俺らにしか聞こえないような声で周りを気にしながら聞いてくる。
確かに。そう言われてみると、かなり視線を感じる。
やけに女の人が多いが、もしや女性専用の喫茶店であるのか。


「いらっしゃいませ」


すると、俺らの席の前に店員らしき人がコップやウェットティッシュなどを乗せたトレイを持って現れた。
俺は机に広く置いていた手を瞬時に戻して、ペコリと頭をさげる。
すると、センラが思い出したかのように、あ、と声を出す。


「あんた、昨日の...!!!!」


センラが驚いたように店員の方を向いていたため、俺も思わず店員の顔を見上げる。


あ、こいつ


「ああああああーーーーー!!!!!!!」
「うるっさ!!!!!!」


センラに頭を叩かれるが、それをビクともせずに俺は店員の顔を口を開けて見続けた。


なんで、こんなところに!!!!


ザワザワしていた室内が俺の叫び声のせいで一瞬にして静かになり、注目が一気に集まる。


「...すみません、少し声落として貰えますか」
「はっ、すんません」


店員の言葉に慌てて口を手で覆い、周りの人に謝罪を表すため頭をさげる。


「...あんた、今日俺の部屋おった人、やんな?」
「............」
「...え、あの、えっと」
「............」
「ど、どうして、送ってくれたあと、帰らんかったん...?ですか...?」


俺の混乱したように呟く言葉に、聞くとこそこかよ、なんてセンラのツッコミが聞こえるが気にしない。
ただただ俺をじっと眺めているだけだった店員が、やがて静かに笑った。

俺を揶揄う、いたずらっ子のような笑みで。


「...お前が、帰んなって離さなかったからだろ」

「......は?」

「ブフッ...ッ」
「っく、ちょ、センラ笑うなって...っ」

思考力が低下した俺と、それを見て笑いをこらえる志麻とセンラ。
こいつら、後でシメてやる。


「うらたく〜ん?どうしたの?何やら騒がしいけど.........って」


すると、奥の方から偉い人らしき男の人が現れる。
やけに声が高くて体格も人より大きく、まるで夜のバーにいるママみたいな人やな、なんて思っていると、目をキラキラさせて俺達を見てきた。


「あらぁ〜イケメンくん達ばっかじゃなーいっ♡なぁに、うらたくんのお友達?」
「...店長、静かにしてください」
「やだぁあなた特に男前ねぇっ、私あなたみたいな子タイプよ?」
「は、はぁ...」


どうやらターゲットにされたのは志麻らしい。
男に手をぎゅうっと握られて、志麻は苦笑いを浮かべている。
よかった、とびきり顔の良い奴が居て。


「ちょっとぉ、こんなかっこいい友達いるなら紹介しなさいよぉ」
「友達じゃないっす」
「こら、照れないの!ごめんねぇこの子ツンデレくんだから」
「いや、えっとぉ...」


「でも嬉しいわぁ、こんなイケメンくんたちがまさかのボーイズラブに足を踏み込んでいるなんて♡」


「「「.........は?」」」

いきなり言葉に出された耳が慣れていない言葉に、俺たち3人は呆気に取られる。


「あらやだ、違うのぉ?ここのお店来てくれる人、そんな人しか来ないのに」
「......えっと、ここってまさか」


すると、志麻が何かに気づいたかのように血の気をなくす表情をした。


「そうよ♡ようこそ、BL喫茶店へ♡」


今日は、なにかの厄日なのかもしれない。

「まぁ、そんなことだろうと思ったよ」


さっき座っていた場所だと他のお客さんの邪魔になるだろうからと言って、うらたと呼ばれていた男が俺たち3人を休憩室に連れて行ってくれた。
あの店長からついでに休憩とっていいわよ♡なんて言われていたため、うらたさんも一緒に休憩室で過ごしている。
俺たちがここに踏み入れた事情を話すと、うらたさんは最初から何となく納得していたようだった。


「お前たちの顔見た時は驚いたけどな」
「それはこっちのセリフやで、う...うらたさん?」
「ん」
「うらたさん、ここで働いとるん?」
「...店長と昔から知り合いで、金に困ってるって相談したらいつの間にかこうなってた」
「へぇ〜そうなんや」


なぁ。なんでお前ら普通に喋れるんよ。


さっきから志麻とセンラの2人だけでその男と盛り上がっていて、俺は入る隙もない。
だって、つい今日の朝、この人は俺の隣で寝てたんやで?
しかも、全裸で!!!!!


「......な、なぁ、うらたさん」


とりあえず、どうにかして昨日ゴールインしてしまったのか否かを聞かなければ、俺の情緒がもたない。
俺が声をかけると、ゆっくりと俺の方に顔を移す。
茶色に澄んだ、丸い瞳。


「...えぇっと......」
「......でいい」
「え?」


「わたる、でいい」


何を考えているのか全く分からない。読めない。
そんな表情で言われた後、すぐ顔をそらされる。
なんだこの、こそばゆい感じ。
身体中がくすぐったい。痒い、痒すぎる。


「...いや、だってこいつらもうらたさんって」
「お前はわたるでいいんだよ」
「な、なんで...?」
「......さぁ?知らね。自分で考えろ」


ぷいっとそっぽを向いて、何だか少し不満そう。
なんなんだコイツ、意味がわからん。


「いや、ぇえっと...」
「......んだよ」


文句あんのか、と言いたげな様子で睨まれる。
文句なんてものはないが、頭が混乱して目が回りそうだ。
なんで俺にだけ特別扱いをするのか。
なんで今日、お互い裸だったのか。

果たして一線を、超えてしまったのか。


「......っだから、その」
「...............」
「あの、えと、だから」
「..................」
「っ、ち、ちょお待って............とりあえず『うらさん』でええ?!!?」


「...はぁ?うらさん?」

目を細めて意味が分からないといった顔をされるが、もうどうしようもない。
俺だって状況が掴めないのだから。


「なんか名前呼ぶのはまだちょっとな!!?だから、な!?!!」
「...別にいいじゃねぇか、どうせ他の奴らも名前で呼んでんだろ」
「うんそうやけどね!?!とりあえず今確認しなくちゃいけないとこそこじゃなくない!?!」


パニクって何を言っているのか自分でも分からないが、うらさんの肩を掴んで顔を近づけ、圧をかけるようにじぃっと見つめると、すぐにパッと目を逸らされてしまった。
なんやコイツ、ちょっと赤くなってる。


「......っ、分かったから、離せ」
「へ?...っあ、ごめん」


ちょっと力みすぎたかな、なんて思っていると、思わず殴りたくなるようなニヤけた顔でセンラと志麻が俺の顔を見ているのが分かった。


「...なんやお前ら、気持ち悪ぃ顔して」
「なーんでもないよなぁ?志麻くん」
「そうやなぁセンラくん?」
「はぁ?きっしょ」


なんなん、こいつら。
すると、センラがいきなり椅子から立ち上がって志麻の腕を掴む。


「そういや、俺志麻くんと用事あるんやったわーーー!坂田、あとはよろしく!」
「はぁ!?ちょ、おい!!」
「さかたぁ、うらたさんと仲良くなーーー!!」
「まーしぃまで!!?」


棒読みにも程があると言いたいほどのセンラと志麻の言葉に、2人の後ろ姿を見つめることしか出来ない俺は溜息をつく。
あいつら、好き勝手しやがって。
そもそもあいつらが喫茶店に寄ろうなんて話持ち出さなければ、うらさんと会うこともなくこの話は笑い話に変えられたかもしれへんのに。


「......さかた」
「ひゃいっっ!!!」


後ろから声をかけられ、俺は飛び跳ねて変な声を上げてしまう。
その声に目を丸くしたうらさんが、やがてふわりと笑った。


「ふは、『ひゃい』って。驚きすぎ」


目を細めて、柔らかく優しい笑顔。
さっき見た揶揄うような笑みとは違って、甘くふわふわした笑顔に、俺は胸の奥がキュンと鳴る音がした。
いやいや。キュンってなんやねん、おい。


「......今日、18時上がりなんだけどさ」
「......?うん」
「...よかったら、一緒に夕飯食べない?」


「.........へ」


これは、デートのお誘いだろうか。
んなわけない、違う。だって、そもそも男だし。


「...昨日のこと、何も覚えてねぇんだろ」
「っ、.........はい、そうです」
「それも、ちゃんと話すから」


「だから、先に家帰ってて」


「.........っへ??」


それは、誰の家にですか??


_____________________


パタン、と今までの人生の中でほぼ初めてなんじゃないかというほどにゆっくりと家の扉を閉じる。
まだ思考が冴えていない。何が起こったのか。

自分の家に、うらさんという男がやってくる。

その未来に、俺は頭を抱えるしかなかった。
そもそもなんで俺の家やねん。せめて外で食べて解散でよかったんやないか。
アイツが何考えてんのか、本当に分からない。
まだ時間あるから風呂に入っとけ、なんて言われたが、今の時刻は17時。
そんな時間に風呂なんか入った気しないやろ、俺風呂好きなんに。

ドサリと荷物を置いて、やらなければならない課題を取り出す。
しょーちゃんのいつも出す課題めんどくさいもんな、早めにレポートも手をつけへんと。

なんて思っているが、そう簡単に俺が課題をこなせるわけがなく。
数十分後、俺は眠気に耐えきれずに机に突っ伏して寝てしまった。


ピンポーーーン


「.........ん.........」


明るい呼出音に反応して、俺は意識を戻す。

んん、また寝落ちをしてしまったのか

まだ冴えない頭の中、目を擦っていると、それを急かすかのように何回も呼出音が鳴る。


「んん......あとごふん......」


ピンポンピンポーーーーン


「ん゛...............」


ピンポンピンポンピンポンピンポーーーーン


「ンん゛............ッッッ」

鳴り止まない呼出音に、俺は重い体を起こして玄関に向かい、ガチャリとドアを開けた。


「ふぁい.........」
「おせぇ。どんだけ待たせんだ」
「............え?」


目を擦っていた手をどけると、目の前には数時間前まで一緒にいた男の姿が。
その姿を見て、うらさんが今日家に来ることをようやく思い出す。


「う、うらさん!、?!!!」
「うるせぇ。早く入れろ」
「っは、はい!!」


俺が体を壁に寄せると、まるで自分の家に帰ってきたかのように自然に中へと入っていく。
俺は玄関に鍵をして、うらさんの後に続いた。
うらさんの手には、大きなビニール袋。


「うらさん、なにそれ?」
「...夕飯の材料」
「.........へっ、作ってくれるん!?」


俺が大きな声を上げると、うらさんは少し恥ずかしそうに顔を逸らした。


「...買い物いってたから、ちょっと遅くなった。わりぃ」
「へ?いやいや、大丈夫やで。俺も課題やろうとしたら寝落ちしててさ」
「風呂は?」
「入ってへん!」
「なら風呂入ってきていいよ。その間に夕飯作ってるから」
「..................」


俺が黙ったままでいると、うらさんはハッと何かに気づいたかのように顔を俯かせる。


「...わりぃ、俺......気分悪くしたよな」
「へ?...いや、そんなこと思ってへんで?」
「え?」
「俺も手伝わへんくってもええんかなって思って。一人でやるより二人でやったほうが早いやん?」


でも俺がいたら逆に邪魔かもしれへんなぁ、なんて言いながら苦笑いを浮かべると、驚いた様子で俺の顔を見つめてくる。
それがあまりに長くて、俺は沈黙に耐えきれずに思わず声をかけてしまう。


「...え、おれ、なんか変なこと言った?」
「.........っ別に、1人でできる」
「っあ、そ、そうやんな!!じゃあお言葉に甘えて風呂入ってくるな!」


気まづい空気から逃げるように立ち去り、服を持って風呂場に向かう。
やらかした。まだ出会ってすぐなのに、一気に距離感がおかしいことを言ってしまった。
センラや志麻からは同じような状況になるときに「手伝え」と言われているため、今回もそうしたほうがうらさんも楽かと思っていたが、どうやら本当に邪魔者だったようだ。

ひぇえ、はっっず。気まづすぎやろ。

やはりよく分からない男だ。
まぁでもうらさんとは今日までの関係だろう、俺が昨日最後まで致していない限り。
早く話を聞いて楽になりたい。なんか今、受験終わって合格発表待ってる時みたいな気分だ。


はぁ、と溜息を吐く坂田とは裏腹に、うらたは真っ赤になった顔を冷ますように頬に手を添える。


「...っ...くそ............」


先程の坂田のド天然スパダリ行為に、うらたは頭を抱えるしかなかった。

‥‥‥‥‥‥
‥‥‥‥‥
‥‥‥‥

なんだ、この状況。

風呂から上がった後、俺はうらさんと一緒に夕飯を共にした。
うらさんが作ってくれたのは唐揚げとサラダと味噌汁とご飯。
正直言って、ここ最近の夕飯で1番美味かった。
やけに家庭的なもの作ってくれるのか、なんて最初は驚いていたが、唐揚げを一口頬張った途端そんな感情はどこかへ吹き飛んでいった。
こんな美味い飯を作れるなんてなんてすごい奴なんだろうと、俺は一気にうらさんに対する警戒心が無くなった。

そう。あまりにも無防備すぎたのだ。


今、うらさんにベッドの上で押し倒されている。


「...ええっとぉ、う、らさん?」
「なに」
「いや、こっちのセリフな!?何やねんこの状況」


俺の冷や汗を垂らした顔をしばらく見つめていたうらさんが、やがてフッと得意げに微笑む。


「わかんねぇの?押し倒されてんだよ。俺に」
「いやいやそれは誰でもわかるわ!!!なんで押し倒されてんのかって話や!!!」
「うるせぇなぁ」


面倒くさそうに片耳に手を当てるうらさんに、俺も少し腹が立つ。
こんな状況で叫ばないやつがいるかよ。
だいたいほぼ初対面の男に対してこんなことするやつとか、何者なんよほんま。

すると、うらさんが痺れを切らしたかのように溜息をついて、うらさんが上に着ている服の下に手を交差して掴み、一気に上にあげて肌を晒す。


「っ、はぁ!!?っ、え!!?」


おいおいおい!!!!!
なんで脱いでんねんこいつ!!!!!!!!

予想外、いや予想範囲内かもしれないが、そんな急展開に俺は混乱する。
男相手なのに、目をギュッと強く瞑って両手で顔を覆い隠す。


「...なに顔隠してんだ」
「いやいやなに脱いでんねん!!!!はよ服着て!?!!!」
「はぁ?脱がねぇと汚れんだろ」
「...っはぁ?汚れる?」


すると、俺の両手をうらさんが掴んで、俺の顔を晒される。
薄暗い部屋に、まるで反射するかのような白い肌。
着痩せするタイプらしく、脱いだら結構すごい。
腕の筋肉もしっかりあって男らしさを感じさせるが、それに反比例するかのような小ささに、俺はギャップを感じてしまう。
俺の腹に跨いで座っているが、全くもって重くない。
俺より後に風呂に入って、上がってきた時の艶やかさには目が眩むほどだった。
身体中からいい匂いするし、唇だって心無しかぷるぷるしてるように見えた。
髪だってさらさらで、甘くていい匂いがした。
それなのに、身体まで思わず魅了してしまうなんて。

こんな、綺麗な男の人。はじめてだ。

俺がうらさんの身体を魅入るように見つめているのが分かったのか、満足そうに、そして少し照れくさそうに俺の額を人差し指でつつく。


「急に黙んな」
「っ、ぁ、ごめん」
「......ふ、やっぱりお前童貞だろ」
「へっ?!」


揶揄うように笑って俺の頭をくしゃりと撫でてくる。


「昨日も、同じ反応してた」

______そうだ。昨日の話、まだ聞いてへん。


「き、昨日......」
「...?」
「......どこまで、シたん...?」


ゴクリ、と喉を鳴らす。
こんな綺麗な人を、俺はどんな形で汚してしまったのだろうか。
知りたくない。けど、知らなかったら後悔する。
ずっと罪悪感を持って生きていなくちゃいけないし、きっと今後一切お酒は飲めないだろう。


「......昨日、今と同じようにお前を押し倒して、その気にさせようとした」
「...それ、本人に言える度胸すごいわ」
「......でも、自分の体は大事にしろって言われた」


______________


『......んぅ〜.........?』
『あ、起きちゃった?お前は寝てるだけでいいよ』

目をとろんとさせながら俺の顔を見つめる坂田に、俺は服を脱ぎながら呟く。


『...あれ...さっきの......』
『ふ、そうだよ。覚えてるんだ』
『......酒飲めへんのに...あんなとこ居っちゃあかんよぉ......』
『......ん。そうだな』


酒が抜けずに、顔が火照って赤い坂田の顔にキスの雨を降らせる。


『...なぁ.........シようよ、俺と』
『......んぇ...?』
『...意外と、男にもハマるかもよ?』


あの飲み会の場には強制的に行かされて、帰るための口実を考えている最中に酒を煽られて。
コイツが助けてくれて、俺もそれを利用してあの場から離れたわけだけど。
顔も俺のどタイプだし、あんなに勇気のある人なのにバカそうなのもタイプ。
多分ノンケだけど、今から男でも結構イけるってことを思い知らせてやる。

俺は身にまとっている衣類を全て脱ぎ捨てた。
もちろん、下着も含めて全部。
意識が朦朧としている坂田の服も下着以外全て脱がせて、お腹の上にゆっくりと乗る。
酒がまだ抜けていないせいで、坂田の体が全身熱い。
自身の下半身がふに、と坂田の熱い肌に触れてゾクゾクとそそられる。


『...ぁ、う』
『......ふ、照れてんの?かわいいね』
『.........あんた...』
『...?』


ポツリと呟いた坂田の声に顔を見ると、ぼぅっと俺の身体を見つめたままふにゃりとあどけなく笑う。

『......あんた...きれいなカラダ...してんな...』


『.........っ、?』

いきなりの言葉に何も返せずにいると、坂田が俺の腕を掴んでベッドに横にさせる。


『っ、おいっ』
『そんなきれいなからだ......かんたんにみせたらあかんやん......』


眠気と酔いで舌がとうとう回らなくなったのか、滑舌が悪くなってきている。


『.........だいじにしぃや............』
『.........おい、さかた?』
『............ぐぅ』


どうやら寝てしまったようだ。
ヨダレを垂らして、気持ちよさそうに寝ている。
そんな坂田の顔を見て、俺は残念に思う反面、少しだけホッとしてしまった。
なんでかは、わからないけど。


あったけぇな。こいつ。


俺が煽られた酒も飲んでくれたから、相当飲んでいるだろうし。
こんなにあったかい夜は、いつ以来だろう。
坂田の体温を感じながら、俺もいつの間にか深い眠りに落ちていた。

________________

「......だから、昨日は何もしてない」


勘違いさせてごめん、と俯くうらさんに、俺は詰まっていた喉が一気に通るようにホッとしてしまう。

 よかった、何もしてないんや。俺。

俺が安心した顔をしたのが分かったのか、頬を思い切りつねられる。


「い゛っっ!?!!?」
「んだよその顔。安心しろ、今からちゃんと奪ってやっから」
「は、はぁ!?!!何言ってんねん、意味わか......っん、ぅっ!?!」


ぶちゅ、と唇と唇が乱暴に重なる。
キスなんていつぶりだろう。
高校の時にできた彼女としたのが最後かもしれない。
しかもそれも、ちゅっみたいな、ソフトなキスしかしたことない。

こんな、こんなエッチなキス、知らへん。

舌が入ってきて、俺はビクッと体を揺らす。
すると、うらさんが俺の反応を見てふ、と小さく息を吐く。
熱い、息ができない。

やばいこれ、気持ちいい。


「...っ、ぷはっ...!!」
「...ふ、かわいい。やっぱり童貞だろ」
「な、き、キス、おまえ......っ」


真っ赤な顔をしてワナワナと震える俺を見ながら、ぺろ、と俺の唇を舐める。
ビク、と身体を跳ねさせると、クスクスと小さく微笑む。


「なぁ。俺、お前のこと気に入った」
「っはぁ!?!」

「俺のこと好きになれ、さかた」

「.........っな、なっ......!!」


なれるかああああああああぁぁぁ!!!!!!

出会った時の記憶も、この男に気に入られたことをした記憶も一切ございませんが。

どうやらBL喫茶店の店員さんに、俺の恋心を買い取られてしまいそうです。

________________

数日後。

俺はあの日から、浦田渉という男に日々猛アピールをされまくっている。


「さかた、午後空いてたら店来てよ」
「材料買ってくから、勝手に1人で夕飯食うなよ」
「一緒に寝てやろうか?」


もう、どうしたらいいのか分からない。
うらさんの圧に押されて、今まで1度もうらさんの誘いを断ることが出来ていない。
あれから、うらさんはキスも服を脱ぐこともしなくなったが、早く折れろといった圧力は凄まじい。
俺がうらさんに堕ちるまで、自分からは行動しない主義らしいが、逆に怖い。
ここ最近はずっと家にうらさんがいる状態だ。


「ごめん、今日もバイトがあんねん...っ」


両手を合わせて、うらさんに謝る。
バイトがあるのは嘘じゃないし、ほぼ毎回夜遅くまでシフトを入れている。
うらさんにも迷惑をかけてしまうし、そもそもなんで俺が謝らなければならないのかも分からなくなってくるが。


「...別に、俺もバイトあるし。家で待ってる」
「...うん。でも」
「.........迷惑なら、やめる」


小さく呟いたそのか弱い声が、俺は苦手。
もし俺がここで『迷惑だ』と言ってしまったら、二度と会えないような。
迷惑、というわけでもない。むしろ家に1人でいるのはあまり好きじゃないし、うらさんの料理も今では胃袋を完全に掴まれたと言っていいほど好き。
でもうらさんだってバイトのある日は疲れると思うし、やる気のない日だってあるだろう。
それなのにいつも大それたものを作ってくれたり、ゲームをやろうと誘ってくれたりしてくれる。

もっと、素を見せて欲しい。

そう思ってしまうくらい、うらさんが俺の中で大きな存在になっていることを、俺自身既に認めてしまっていた。


「迷惑とかやあらへんし、嬉しい」
「.........なら」
「でも、外でも頑張って、俺の家に帰っても頑張ってるのは疲れるやろ?」
「...そんなことねぇ」
「うそ。ずっと気ぃ張ってる感じするもん」


そう言うと、うらさんがグッと口籠もる。
ほら、また我慢してる。
もっと、素直になっていいんに。


「......もっと、俺に踏み込んできてよ。違う意味ではめっちゃ踏み込んでくるんに、変にライン引いて引っ込んじゃうやん」
「.........」
「......俺は、ちょっとやそっとじゃ、うらさんのこと嫌いにならへんよ。結構助けてもらってることも多いし。まぁ急にキスしてくるんはどうかと思うけどな」
「......てめぇ、さっきから上げて下げんな」
「ふへ、ごめんごめん」


すると、うらさんが俺の肩に頭を乗せてくる。
ゆっくりと息を吐くと、俺の服の裾をそっと掴んだ。


「......俺は......さかたと、一緒にいたい」
「...うん」
「......だから...坂田の家、行かせて、ほしい」


耳まで赤くなっているうらさんを見つめながら、俺もキュンと胸が高鳴る。
いつも積極的なくせに、変なところで消極的。
うらさんの頭に手を置いて優しく撫でると、ホッとしたように息を吐く仕草にも、思わず微笑んでしまう。


「んふ、よく言えました!」
「......っ、うっせ」
「かわええなあ、バイト頑張ろうなぁ〜!!!」
「〜っ、言われなくても全力でやるわ!!!!」


照れ隠しなのか、うらさんに大声で返される。
それが面白くて可愛くて、俺はうらさんのふわふわな頭を何度も撫でた。

___________________


「っだああ!!!いけぇ!!!」


俺の叫び声と共に、テレビ画面には終わりを告げるFinishの文字。
銀色で2位と書かれた文字が浮かんで、俺は項垂れた。


「っもぉお、うらさん強すぎ!!!」
「っは、なめんなよ俺を。ずっとやってきたんだから」
「俺もやってたし!!!てかショートカットうますぎちゃう!?」
「お前は1個できた途端調子乗りすぎなんだよ」


ケタケタ笑ううらさんを頬を膨らませて睨みながら、俺は床に寝転んで時計を見る。
いつの間にかかなり時間が経っている。もう日付を超えてしまいそうだ。


「うらさん、今日帰る?」
「............」


うらさんにそう言うと、無言になって俯いてしまう。
ここ最近、うらさんはずっと俺の家に泊まりきりだ。
服もいつの間にか持ってきているし、日用品も最低限のものは持ってきているらしい。
なにか帰りたくない理由でもあるのだろうか。


「泊まってくなら、そろそろ寝ぇへん?」
「......ん」


こくりと頷いたうらさんを確認したあと、ベッドへ向かう。
俺のベッドはもちろん2人用ではないため、俺とうらさんが横になるとだいぶ狭い。
最初は俺が床で寝るからうらさんはベッドで寝て、なんて言ったら、俺が床で寝ると言って聞かなかったため、最終的には2人でベッドを使う羽目になったのだが。


「ふぁ〜ぁ......明日うらさん何限から?」
「3限から」
「ほんま?一緒やん、朝ゆっくりできるなぁ」


他愛のない話をした後、寝落ちするように眠るのがいつものこととなってしまっている。
うらさんの声は俺よりも少し低くて、それがやけに落ち着いて聞こえてしまうのだ。


「.........なぁ」
「んー?」
「......俺のこと、気持ち悪いとか思わねぇの」
「...え?なんで?」


天井をずっと眺めていたが、うらさんに突然そんなことを言われて、俺はうらさんに目を向ける。


「...お前、別に男のこと恋愛対象として見てるわけじゃねぇだろ」
「...まぁそうやなぁ」
「......俺はお前のことそうやって見てるし、あんなよくわかんねぇとこで働いてるし、そんな男がずっと家に居座りついてるとか、普通嫌だろ」
「......ん〜」


そういうことか、と納得して、俺はまた天井を見上げる。


「...まぁ、好きなものとか人それぞれやし、俺別に男同士の恋愛に偏見あらへんよ?」
「......やじゃねぇの?」
「んー最初はびっくりしたけど、普通に俺うらさんとおって楽しいし。むしろ今はちょっと嬉しい」
「............そっか」


少し声が小さくなったうらさんの方にもう一度顔を向けると、柔らかくふわふわした笑顔がそこにあった。
俺はそんなうらさんを見た瞬間、時が止まったかのようにドキリと大きく胸が鳴って、息が出来なくなる。


「...よかった」

さかたに嫌われなくて、よかった

そう言って、安心したように微笑む。
ずっと、不安だったのかな。
俺に嫌われないように、料理も頑張って。
でも口は素直じゃないけど、目や仕草は素直だってことも、もう知ってる。


____愛おしい。

もっと、知りたい。


ふと、そう思った。
うらさんの頬にそっと手を伸ばすと、うらさんが俺の行動に驚いたように目を見開く。
すり、と指で撫でると、くすぐったそうに目を細めた。
頬を撫でていた指で柔らかそうな唇にそっと触れると、うらさんが俺の顔を見つめてくる。
期待しているかのような熱い瞳に、思わず吸い込まれそうになる。

すると、うらさんがゆっくりと頬に触れている俺の手に自分の手を重ねて、小さく握ってきた。
上気した頬に、潤んだ瞳。

目が離せない。

無意識にゆっくりと近づくと、うらさんも近づきながらそっと目を閉じる。


音も立てずに、唇が重なった。

この前のディープなのじゃなくて、触れるだけのキス。
ゆっくり離れるとうらさんと目が合って、その目が少しだけ伏せられる。
まつげ長いんやなぁ、なんてどうでもいいことも考えてしまう。
もう一度顔を近づけると、躊躇もなく受け入れてくれる。
再度触れて、柔らかい温もりを感じながら、頬に触れている手で優しく髪を撫でた。


「.........は...」
「ん......さかた、こっちのキスのが好きなの?」
「...へ?」
「......舌、入れてこないから」


少し照れくさそうに言われて、俺も思わず顔を赤く染めてしまう。


「い、や.........そういうわけや、ない」
「......」
「...俺、実は...高校でできた時の彼女が最後で......その、これ以上したことないっていうか」


あーあ、ついに俺が童貞だとバレてしまった。
いや、もっと前から気づかれてるか。
驚いた顔をしてうらさんが俺の顔を見てきて、俺はさらに恥ずかしくなってしまう。
キッとうらさんを睨むと、クスクスと笑いながら頭を撫でられる。


「ごめんごめん、まさかほんとに童貞だとは思わなかった」
「うぅ、ひでぇよぉ〜......」


シクシクと泣いているふりをしていると、うらさんが俺の頬を掴んで唇が重なる。
すぐに離れると、ニヤリと微笑まれる。


「安心して。俺が全部貰ってあげるから」
「っな、ちょっとまっ、んぅ......っ」


触れるだけのキスだったのが、ゆっくりと舌を入れられて甘く深いキスに変わる。
体を押されて、うらさんが俺の上に跨ってキスを続ける。
うらさんの舌が熱くて、甘くて。
意識が朦朧としてくる。
やばい。このままだと、また流されてしまう。

でも

初めてがうらさんなら、別にこのままでも


そう思ってしまう自分に驚いて、俺はうらさんの体を押して離す。


「ぷはっ」
「......なんだよ、抵抗すんな」
「や、やっぱり、ダメやこんなの」


付き合ってもないのに、こんな。
不純だ。いや、もう純粋とは呼べない関係なのかもしれないけど。


「...お前、自分からキスしといてそれ言うか普通」
「うぐ......」
「...これでも俺、結構我慢して待ってるんだけど」
「......ゃ、やって......自分ですら、どうすればええんか分からへんのやもん」
「......さかた。やっぱり1回シてみようよ」
「.........は!?」


やっぱり不純だ。
どうしてそういう考えに行く着くんだろう、この男は。


「シてみたら、考え変わるかもしれないし」
「っ、あんたなぁ......!」
「俺、お前のおかげで自分の身体にちょっと自信ついたし。そういう行為も慣れてるし。さかたのこと、満足させられると思う」
「......なぁ、うらさん」


上に跨っているうらさんがバランスを崩さないように引き寄せながら、俺はゆっくりと体を起こす。
うらさんの肩を掴んで、しっかりと目を合わせる。


「うらさんは、俺の身体が欲しくてそんなこと言うん?」
「......?」
「うらさんは、えっちすればゴールやと思っとるみたいやけど、そうじゃあらへんで」
「............」
「俺もちゃんとした恋愛したことあらへんから何とも言えんけど......俺は、もっと相手のこと知って、気持ちが固まってからそういうことするもんやと思う」


そう言うと、うらさんはキュッと唇を噛み締めて下を向く。


「......俺は...今まで、ずっとこうやってしてたから」
「......今までの人と、俺は一緒なん?」
「っな、ちがう...!!ッ、さかたはそんなんじゃない」
「............」
「......こんな...こんなに、欲しくなったのは...さかたが初めてで...」


必死になって俺の服をキュッと掴むうらさんに、俺は思わず微笑んでその体を優しく包む。

うらさんがこんなにも欲しくなったのは、俺が初めて。

自分の中で感じる、確かな優越感。
そんな感情にずっと向き合えてなかったのは、初めてのことだからけで怖かったから。


「......俺、やっぱり、もっとうらさんのこと知りたい」
「............」
「だからうらさんには、過去じゃなくて今を見てほしい。俺も、ちゃんと自分の気持ちに向き合うから」


過去にどうやって恋人と接していたのかは、今の俺には分からないけど。
今のうらさんのこと、もっと知りたいって思うから。


「...どうすれば、振り向いてもらえる?」
「......うらさん...?」
「俺......身体あげれること以外に......取り柄なんて何もないのに」


顔は見えないけど、微かに手が震えていて。


「取り柄ありまくりやで。現に俺、うらさんがここに居てくれて楽しいことばっかやし」
「っ、でも、それは友達だからだろ。恋人としてだったら、俺......身体しか、取り柄ないから」
「もぉ、今さっき言ったやんか。今を見てって」


ムッとうらさんを睨むと、眉を下げて目を逸らされる。
その頬を掴んで、無理やり目を合わさせる。


「俺にとって、うらさんは身体だけが取り柄なんかじゃあらへん」
「.........っ」
「もっと自分に自信もって。な?」
「......なら、もっと俺に自信持たせて」


ぎゅっと抱きついたうらさんが、ポツリと呟く。


「...おれ、お前に褒められると...嬉しい」
「.........っ」


可愛い。激カワだ。
世の中の女の子が使ってる激カワは、こういう時に使うのだろう。

そんな可愛いうらさんを、俺も力いっぱい抱き締め返した。

‥‥‥‥‥‥‥‥
‥‥‥‥‥‥‥
‥‥‥‥‥‥

「あの...もしかして、あの店員さんとお付き合いしてるんですか......?」


出た、この質問。


うらさんとちゃんと話をしてから、2週間ぐらい経った。
前まではうらさんに「来てほしい」と言われて何となく来ていたが、静かだし涼しいし、何かと課題とかレポートとかを片付けるのには快適な場所なため、最近はよくここを訪れている。

女の子達がいっぱいいる本棚の周りにはなるべく近寄らずに、うらさんや店長さんがドリンクを作ってる目の前のカウンターで、よくパソコンを開いて課題を進めてたりする。
バスケのサークルがある日は基本寄らないけど、特に用事のない暇な日はこのBL喫茶店とやらに自ら足を踏み入れているのだ。

まぁ、課題も目的のひとつだけど。
ちゃんとした目的は、もっと別にある。


「さかた、今日なに飲む?」


店員の仕事を全うしてる、うらさんに会うため。


「んー、うらさんのおすすめでええよぉ」
「またそれかよ...高くつくぞ」


ブツブツ言いながらも手際よく手を動かすうらさんに、俺はクスリと微笑む。

うらさんが働いているBL喫茶店には、女の子のお客さんの割合が圧倒的に多くて。
その中でカウンターにいる男なんて俺しかいないわけだから。
これにもちょっとした優越感、みたいな。

それに俺がこの店に来ると、バレていないと思っているのかもしれないが、うらさんが嬉しそうに「また来たのかよ」なんて言ってくる。
この前サークルのせいで3日連続して行けなかった日は、結構落ち込んでたって店長さんがこっそり教えてくれた。

不器用で、素直じゃない。
でもそこが可愛くて、もっと知りたくなる。


「前言ってたレポートは完成したのかよ」
「あぁ、ゼミの?しょーちゃんに見せたらそれなりに良い反応くれたから、結構良い評価貰えると思う」
「ふーん、そ」
「うらさんが手伝ってくれたおかげやで。ありがとな、うらさん」
「......ふん」


照れくさそうに、ぷいっとそっぽを向くうらさん。
耳ちょっと赤くなってる。可愛い。


「今日、試しでちょっと作ってみたお菓子あんだけど...味見役してよ」
「ほんまに!?食べる!」
「ん、ちょっと待ってて」


コト、と俺のそばにコーラと、その隣には小さなお皿に乗ったバニラのアイス。
日によって、果物だったりスイーツだったりするけど、今日はアイスらしい。
飲み物はいつもカフェオレとかココアとか、俺の好みの味で出してくれるけど、今日は暑いからなのかソフトドリンクのコーラ。
こういう気の利いたところも、俺のことちゃんと見てくれてるんだなぁって思う。
まぁ、俺の家の冷蔵庫にコーラが常に置いてあるのを見れば、何も言わなくてもわかると思うけど。


「あの.........」


すると、後ろから小さな声が耳に入る。
後ろを振り向くと、2人の女の子が立っていた。


「......ぇっと、俺?」
「っあ、はい」
「ちょっと、聞きたいことがあって」


2人の真剣な眼差しに、俺は何度もこんな目をここで向けられたことがあるな、なんて苦笑いする。


「あの...もしかして、あの店員さんとお付き合いしてるんですか......?」


出た、やっぱりこれか。

ここにいる人たちは、男の人同士の恋愛が好きな子達ばかりが集まっている。
なんせこの喫茶店がそういうコンセプトだからだ。
だから、ただでさえ男の俺がここにいること自体イレギュラーなことなのに、それに増してうらさんと親密そうに話しているのを目撃したら、そう思われるのもおかしくないだろう。


「付き合ってないっすよ。大学一緒で仲良くて」
「!!そうなんですか...!」
「でも、一緒に住んでらっしゃるんですよね?」


すげー情報。どこから知ったんだよそれ。
多分、俺とうらさんがここで話している会話のどこかで漏れた情報だろうけど。


「泊まったりはしてるけど、まだそんなんじゃないよ」
「"まだ"!?」
「ってことは、この先もしかしたらってことも有り得るってことですよね...!!」


圧がすごい。目、すごいキラキラしてるし。
あはは、と苦笑いをしながらどう逃げようか迷っていると、奥からうらさんが戻ってくる。


「......?」
「っぁ、うらさん」


不思議そうに首を傾げるうらさんに声をかけると、女の子達があっという間に立ち去っていく。


「ありがとうございます...!」
「お邪魔しました、ごゆっくり!」


嬉しそうにニッコリ笑って、元いた場所に戻っていった。


「......知り合い?」
「ん?...いや、ただ単に質問されただけ。うらさんと付き合ってるのかって」
「............ふぅん」


女の子に問い詰められて変な汗をかいたため、コーラをがぶがぶ飲む。


「......っぷは、うまぁ〜」
「...これ。カヌレっていうんだけど、結構難しくて」


俺の前に出されたのは、小さいプリンみたいな形をしたお菓子。


「カヌレっていうんや、これ」
「フランスでできた洋菓子なんだけど、そんな量も多くないし飲み物のついでって出したら、食べてくれる人いるかなって思って」
「クッキーとかチョコとかは一緒に提供してるよな」
「そう。でも簡単だし、もっと凝ったもの作ってみたくて」
「食べてもええ?」
「......うん。感想教えて、ほしい」


ぱくりと一口食べると、外はカリッとしてて、中はもちもち。
でも思ってたよりも甘くなくて、少し苦めの味。


「ん、めっちゃうまい」
「ほんと...?」
「でも、思ったより甘くないんやなこれ」
「そ。だから苦手な人も多いんだよこれ」


俺の作り方が問題かも、なんてブツブツ言う仕草に、俺はクスリと微笑む。


「なら、甘いトッピング付けてみたらええやん。生クリームとか、溶かしたチョコとか。このお菓子手に取って、生クリームとかチョコに付けたりして食べたりするんは?」
「.........お前って、たまにすげぇいい案出してくるよな」
「おい。たまには余計やで」
「ふは、うそうそ。今度またやってみる」


ありがと、と言って、すぐメモするところも可愛い。
うらさんがくれたアイスを一口食べると、いつも通り甘くて美味しかった。


「そういや、お前バイト辞めれたの?」
「ん!そうやでぇ、あのクソみたいな店長から逃げきれたわ。店長が機嫌良い時に辞めますって先に言っといて正解やった」
「よかったな」
「でも金ないから、またバイト探さな」
「............」
「ここもし募集してたら、ここがええんやけどなぁ」


快適だし、店長さんも特殊だけど優しいし。
なんたって、うらさんがいるし。


「ここはダメ」


だけど、うらさんの言葉によって綺麗に崩れ落ちた。


「えぇ、なんでやぁ」
「......お前うるさいし、ダメ」
「なんやそれぇ」

「.........変に近寄る女、増えんだろうが」

そう小さく呟いたうらさんの声は、俺の耳には届かなかった。

‥‥‥‥‥‥
‥‥‥‥‥
‥‥‥‥


「かんぱーーーい!!!!!」

今日はバスケサークルの飲み会。
基本的に試合で勝った時によく開催する恒例行事。
もちろん未成年はダメ、なんて言ってるけど、調子乗って飲んでる後輩なんかは普通にいる。
まぁ特に気にしてもいないけど。


「さかた、今日は飲みすぎんなよ〜」
「わぁってるよ。センラも調子乗りすぎんなよ」
「俺はいつも自制してるっての」


いつもサークルの時、当たり前のように隣の席にいるセンラと酒の入ったジョッキを重ねて音を鳴らす。


しばらく楽しんで、自分もほろ酔いくらいの気持ちいい気分になってきた時に、センラとは反対側の隣に甘ったるい香水の匂いが漂ってきた。
隣を見ると、胸元がアホほど開いている女の人。


(......この人、確か1個上のマネージャー......)


この前同じ学年の奴らが、胸がでかいとかいい匂いするとか騒いでた人だ。
その時は同じテンションでバカ騒ぎしてたけど、今となっちゃ胸なんてどうでもいいし、香水もキツすぎる。


「ねぇ、さかたくん」


ギュッと腕に絡みついて、デカい胸に腕が挟まる。
目が点になる俺に対して、周りはそのマネージャーの行動にざわざわし始める。


「...私、ちょっと酔っちゃった」


上気した頬。潤んだ瞳。
ふわふわした感触に、この場所には相応しくない甘ったるい匂い。


「っちょ、おい坂田!!!」
「なに抜け駆けしてんだよクソ野郎め!!!」


向かい側には、小声で血相を変えて叫んでくる男たち。
こんな女の何がいいのが全く分からない。
いつ隣に来たんだ。全く気づかなかった。


「水飲んだ方がいいっすよ」


とりあえずそこら辺にあった水を目の前に出すと、驚いた顔をしたマネージャーがふにゃ、と甘ったるい顔で笑う。


「ふふ、さかたくんって優しいね」
「はぁ......どうも」
「お水いただいちゃうね」
「あと、無駄に抱きつくのやめたほうがいいっすよ......胸当たってます」


絡みついた手を腕から離そうとすると、さらにぎゅっと強く掴まれる。


「ふふ、やだぁえっち♡」
「はっ!?!」


なんだそれ。
もしかして、これってセクハラで訴えられるのか。

助けを求めようと反対側のセンラを見ると、察してくれたのかまぁまぁ、と隣から手を伸ばしてくれた。


「まぁまぁ。さかた、女慣れしてないんで勘弁してやってください」

「えぇ、さかたくん慣れてないんだぁ。ふふ、可愛いところあるんだね」
「は、はぁ......」
「1つ年上のお姉さんが色々教えてあげよっか?」
「え?いや、結構です......」
「ふふ、恥ずかしがらなくていいの。ほら、キャプテンくんが酔い潰れてるうちに、ね......?」


助けて。センラ助けて。
諦めて逃げようとするセンラの腕をマネージャーにバレないようにガシッと掴む。


(なんで逃げようとすんねん)
(いや、なんか必要あらへんかなって)
(どう考えてもいるやろ!?どうにかしてくれ)
(無理やって!!自分でなんとかせえ!!!)


小声で言い合う中、腕に絡みつく強さがだんだんと強くなって、しまいには肩に頭まで乗っけられた。


(うぐ。香水の匂い、強すぎやろ。吐きそう)


今日は酒飲むの控えめにしてたのに、別の原因で吐きそうになるとかたまったもんじゃない。


「......さかたくんさ」
「...はい......?」
「...この前の飲み会の時......男の子のこと、助けてたじゃん?」


うらさんのことかな。
そのことは全く記憶にないけど、おそらくうらさんのことで間違いないだろう。


「...それで......その時のさかたくん見て、かっこいいなぁって思って」
「............」
「バスケの時もずっと見てたけどすごい上手だし、シュートいっぱい決めてるからすごいなって」


頬を赤く染めて様子を伺ってくるマネージャーに、俺はさすがに勘づく。
この人、俺にアピールしてるんやって。


「...俺、今そういうの興味無いんで」
「.........彼女欲しくないの?」
「彼女っていうか......あんまわかんないし」
「......じゃあ、好きな人はいるの?」

_____すきな、ひと。


『さかた』

カァァ、と首から熱が上がってくるみたいに、顔を赤く染める。
バカバカ!!なんでうらさんが出てくんねん!!
酒が変に回ってきたのか、頭がクラクラする。
手でパタパタと顔を仰いで、深呼吸をする。


「...ふぅん、そういう感じかぁ」


ザンネン、なんて零したマネージャーが、するりと簡単に絡みついた腕を外した。


「いいなぁ、さかたくんに好かれる人。絶対幸せじゃん」
「.........?」


「おーい!!キャプテン潰れたからそろそろお開きにするぞー!!!二次会行くやつはいつもんとこなー!!!」


すると、副キャプテンからの声掛けが響く。
その声に色んな返事が飛び交う中、俺もこれが絶好のチャンスだと勢いよく立ち上がる。


「センラ、帰んぞ!」
「はいはい」


センラに向かって大声を出すと、呆れた顔を浮かべたセンラが頷いた。


「えぇ、坂田たち二次会来ないんかよー!」
「センラももうちょい飲もうぜ〜」
「すまんなぁ、俺ら明日一限からやねん」


他のメンバーに駄々をこねられながらも、何とか説得してセンラと一緒に外に出る。
外の空気が美味しい。さっきまで甘ったるい匂いしかしなかったから、余計に。


「あ゛ぁ.........死ぬかと思った......」
「あのマネージャー、結構前からお前に気ある素振り見せとったんに、お前が全く気付かへんからやろ」
「そんなん言われても分からんて!!」


そんなことをセンラとギャーギャー喚き騒ぎながら帰路に着いた。

‥‥‥‥‥‥
‥‥‥‥‥
‥‥‥‥


ガチャ、とドアを開けると、ちょうどお風呂から上がってきたうらさんと鉢合わせる。


「お、うらさん来てたんや!」
「ん。風呂借りてた。思ったより早かったな」
「キャプテン潰れるのがいつもより早かったんよ」
「ふは。お前のサークル、キャプテン潰れたら解散すんのそろそろどうにかしろよ」


クスクスと可笑しそうに笑ううらさんに、キュンと胸が高鳴る。
やっぱり可愛い。
甘ったるくて胸のある女の人より、シャンプーのいい匂いがして楽しそうに笑ううらさんのほうが、よっぽど良い。

___じゃあ、好きな人はいるの?

あの時頭の中に浮かんだのが、うらさんの顔だった。
多分もう、答えは決まってる。
俺はきっと、きっとうらさんのこと。


「___た、さかた。おい、さかた」
「へっ!?!...っな、なに?」
「何ぼーっとしてんだよ。早く風呂入ってこい」
「あっ、そうやな!ごめんごめん」


靴を脱いでうらさんに近づくと、うらさんが驚いた顔をする。


「.........?うらさん?」
「.........お前、今日ほんとにサークル?」
「?そやで、センラも一緒に行ってきた」
「......お前から、女の香水の匂いする」


うらさんの言葉に目を見開いて、慌てて抱きつかれた側の服の匂いを嗅ぐと、確かに匂いが残っている。


「っちが、これ、マネージャーに抱きつかれてん。ちょっとからかわれて、それで......っ」
「別に弁解しなくていい。......俺、坂田と付き合ってるわけじゃないし」
「......っ、でも......!!」
「.........いいんじゃねぇの。楽しそうで」
「............は?」


わけが分からない。
何を言ってるんだ、この人。


「お前顔良いし。性格も好かれやすいから、さぞ女にモテんだろ」
「......なに、いって」
「女の子だったら、隣で歩いてても手繋いでても、変な風に見られないし。嫌味も言われないじゃん」
「............」


「...やっぱり、俺とお前は違うよ」


うらさんのその言葉に、カッとなってうらさんの腕を強く掴む。


「なぁ。それ、本気で言ってるん?」
「.........っ」
「...なぁ」
「.....................」


一向に口を開こうとしないうらさんの腕を、ゆっくりと離す。


「.........うらさんのこと、わからへんくなった」
「..................」
「......ごめん、風呂入ってくる」


うらさんの隣を通り過ぎて、パタンとドアを閉める。

「......俺も、わかんねぇよ............」

その場にしゃがみ込んだうらさんの小さな声は、壁越しの俺には届かなかった。

___________________


「......それで、一言も話さないまま今日になったん?」

次の日。

一限の次が三限で、一コマ空きがあった俺とセンラ、志麻はいつもの空き教室で雑談をしていた。
志麻とセンラに昨日あったことを話すと、案の定というべきか、げんなりした顔で見つめられる。


「お前なぁ......さすがにやってるわ」
「ファブリーズでもしときゃ変わったかもな」
「いやいやなんで俺が責められなあかんねん!!普通あの女やろ!!!俺悪くないもん!!!」
「それでも、うらたん傷付けたのはお前やろ」
「好きな人が家に帰ってきて、服に別の女の匂いべっとりこびりついてたら嫌な気分なるよな」
「ゔ.........」


分かってる。
あの時うらさんは多分、その匂いに嫉妬してた。
分かってたはずだった。

なのに。

『...やっぱり、俺とお前は違うよ』

あんなこと、言ってくるから。


「......嫌われたかな」


机に突っ伏してポツリと嘆いた言葉に、思わず涙が出そうになる。
気づけば、俺の頭の中はうらさん一色で。
こうなるんだったら押し倒されたあの時、綺麗事なんて言わずにそのまま流されておけばよかったんだ。

あの時、身体を繋げていれば。
きっとなにか、変わっていたかもしれないのに。


「坂田。お前は言葉足らずやで」


センラの声に、ギュッと手を握りしめる。


「うらたんは不安やったんちゃうの。ただでさえ男同士なんに、女の子の匂いつけて帰ってきたら不安にもなるで」
「......うらたさんはちゃんと想い伝えてて、坂田の返事待ちなんやろ?そりゃあそうもなるで」
「............ほんま、そうやんな」


なんで俺、こんなアホなんやろ。

後悔しても遅いのに。
あの時も、あの時も。違う選択をしていたらって。


「......とりあえず、ここで泣いててもしゃあないから、仲直りせぇ」


センラが俺の肩をぽんぽんと叩いて慰めてくる。


「坂田の気持ちしっかり伝えたら、うらたさんも分かってくれるやろ」


まーしぃも、俺の頭をくしゃりと撫でて慰めてくれた。


「......優しいなぁ、お前ら」
「んーん。坂田が本調子やないとこっちも気分悪いからな」
「そうやで、バスケもお前居ないと試合中休めへんし」
「授業も坂田居れば罪擦り付けれるしな」
「...お前らなんなん?」


冗談やって、と笑う2人の姿を見て、俺は2人の存在にひどく感謝した。

‥‥‥‥‥‥‥
‥‥‥‥‥‥
‥‥‥‥‥


授業後。


空きコマの時間にうらさんに連絡したけど、既読はついてるくせに返信が帰ってこない。

完全に嫌われた。
既読されてるだけ、まだマシなんだろうけど。
このまま帰ってもうらさん、帰ってこない気がするし。
あの喫茶店も、今日はシフト入ってなかったと思う。


どうしよう、なんて考えながら学校の出口に向かって歩いていると、外で1台の車が止まっていた。
その近くには、見覚えのある人の姿。


(......あれ、うらさんじゃ......)


嫌な予感がして、冷や汗が背中をつたう。
バレないように隅っこの位置に移動すると、やがてそのドアが開いてうらさんが乗るのが分かった。
慌てて飛び出したけどその車はすでに走り出してしまって、うらさんを呼び止めることができなかった。


「っ、うらさ......」


きっと見間違えじゃなければ、運転席に居たのは男の人。
若めの人で、うらさんもその男の対応に対して手馴れた様子だった。

まさか。元彼とか、だったり。

グッと手を握りしめて、唇を噛み締める。


苦しい。悔しい。
まだ何も、伝えられてないのに。


思い切ってうらさんに通話をかけてみたが、応答が返ってくることはなかった。
迷ってる暇なんてない。
近くで走っていたタクシーを、手を上げて止める。


「あの黒い車、追ってください」


会って、もう一度ちゃんと。話さなきゃ。


‥‥‥‥‥‥‥
‥‥‥‥‥‥
‥‥‥‥‥


side:うらた

「嬉しいなぁ、まさかまたワタルからお呼び出しもらえるなんて思ってなかったよ、俺」


車を走らせる中、運転席にいる男が笑う。


「今回まで結構期間あったけど...好きな男でもできたの?」
「...お前には関係ないだろ」
「えぇ~、ほんとつれないやつだな」


男がクスクスと笑う中、俺はぼんやりと窓の外を眺めていた。


「......好きな人には、ちゃんと伝えられたの?」
「...何を」
「お前の"カラダのこと"」
「.........!」


その言葉にピク、と眉毛を動かすと、ふは、とまた笑われる。


「なぁに、言わなかったの?」
「.........」
「相当純粋な恋してたんですねぇ、今回は」

「.........今回は、じゃねぇよ」

そもそも、今までが恋じゃなかったんだ。

全部、全部違った。
一緒にいる時の鼓動の速さも、ちゃんと向き合おうとしてくれた時の優しさも。
今までにはなかった、初めてのことだらけで。

それもきっと、あいつが最初で最後だ。

だからもう、終わりにしよう。


「はい、着きましたよ目的地」


人気のいない路地。周りも静まりかえっている。
近くのパーキングエリアに入って、シートベルトを外してドアを開け外に出ると、すでに外に出ていた男が俺の腰を手に取って引き寄せた。


「そーんな暗い顔してちゃ、せっかくの気持ちいいことが気持ちよくなくなっちゃうよ?」
「............」
「...全部忘れさせてやるから。な?」


全部、全部。
俺は、坂田がよかった。

俺が女の子だったら。何か違ったかな。

坂田の隣で、幸せに笑えてたかな。

いつもこの男と会う時に訪れるホテルに入って、慣れた様子で男がパネルを指で操作する。
ここに来たのはいつぶりだろう。
気づけば坂田に夢中で、ずっと坂田のことばかり考えてたから。


「今日はどんなプレイをお望みで?」


部屋を選ぶ際、俺の腰を更に近くに寄せた男が耳元で囁いてくる。


「......全部忘れられるような、激しいやつ」
「...俺も久しぶりにワタルのカラダ、わけわかんなくなるくらいに溶かしたい」


耳元でそう囁かれて、悪寒がする。
前までこんなことなかったのに。
全部カラダだけが目的で、気持ちよければ何でも良くて。
自分も気持ちよくて、相手も気持ちよければ欠点もないし。

全身が、震えるほどに冷たい。

アイツと会った時は、最初から暖かくて。
ただ酒飲んで酔い潰れて即寝た男の体に包まれて。
心地よく人の隣で寝れたのは、アイツが初めてで。


「503号室だって。行こっか」


腰を引き寄せられながら、エレベーターに乗る。
どこもかしこも甘ったるい匂い。
気持ち悪くて、吐き気がする。
でもあの時の坂田から香った甘い匂いは、今まで嗅いだ中で1番吐き気がした。

惚れた男から女の匂いがするって、あんなにキツいことだったんだって、初めて知った。


「俺先に家でシャワー浴びてきたから、ワタル入ってきて」
「ん」


部屋に入った後、いつもと同じようにシャワー室に入る。
もちろんのことながら、このホテルは行為の準備をするモノがたくさんある。
シャワーで適温に切り替えた後に、すぐに準備を始めた。
このままずっとこの中に1人でいたら、アイツの顔がすぐに浮かんで泣いてしまうだろうから。


ガチャ、と扉を開けると、モワモワとした蒸気が外に逃げていく。
あの時とは違って、ボディークリームもリップクリームも、ケアなんて言葉は知らないような姿で脱衣所を出る。
髪もタオルで拭いただけで、でかいシャツ1枚とパンツだけ履いてベッドに向かう。


「っふは、相変わらずな姿だな」
「うっせ。はよヤんぞ」
「もうちょい下っぽく甘々した言葉吐けよな〜」


お前みたいなやつに、そんな言葉は必要ない。

ギシ、とベッドに座ると、肩を押されて簡単にベッドに押し倒される。
ここのベッドは広くて、2人なら簡単に寝られる。
坂田の家のシングルベッドとは違って寝やすい分、本当に何も無くて。

全部の仕草で、アイツのことを嫌でも思い出す。


「まぁ、俺に抱かれてる時のお前は、誰にも負けねぇくらい可愛いけどな」
「...キモイな」
「ほんとだって。愛してんぜ?」


そんな軽い言葉、誰にでも吐いてるくせに。


__もっと、俺に踏み込んできてよ。違う意味ではめっちゃ踏み込んでくるんに、変にライン引いて引っ込んじゃうやん。

__俺は、ちょっとやそっとじゃ、うらさんのこと嫌いにならへんよ。


好きよりも、愛してるよりも。
今まで言われたこともなかった、あったかくて優しい言葉。


ギシ、と音を立てて俺の顔に近づいてきた男の唇を、咄嗟に手で覆う。


「...んだよ」
「......キスは、すんな」
「はぁ〜?なんだよお前、そんなんでほんとに忘れられんかよ」


ため息をつきながら、男が俺の大きなシャツ一枚を脱がせるために服の中に手を突っ込む。
すり、と腰を撫でられ、びく、と体が震える。
大丈夫。きっと、きっと大丈夫。
前みたいに、気持ちよくなれるはずだから。


パサ、と脱がされた服が床に落ちて、俺の体をじっくりと見た男がクスリと笑う。


「相変わらず、男に抱かれるためにあるような体してるよなぁ。すげぇ興奮する」


『......あんた...きれいなカラダ...してんな...』

あぁ。やっぱり、やだ。

さかたじゃなきゃ、いやだ。

「............おい、何泣いてんだ」

男のため息混じりの言葉に、ハッと我に返って涙を拭う。

終わりにさせようと自分からしといて、結局何も変えられてない。
俺ばっかり追いかけて、俺ばっかり必死で。
全部、俺の一方通行だったのに。
その背中が、いつか振り返ってくれると信じて、ずっと追いかけてたのに。


「......はぁー.........萎えたわ」


ギシ、と音が鳴って、男が服を着始める。
涙を拭って鼻をすすりながら、俺はゆっくりと起き上がる。


「お前、そのままだと一生恋人もセフレもできねーな」
「............っ」


すると、携帯のバイブ音が響く。
男がスマホを見ると、お、と一気に気分が上がったような声を出す。


「今からここに別の男来るから、お前もう帰れよ。金は来た奴に払わすからとっとと帰って」
「......ん」

『一生恋人もセフレもできねーな。』

服を着る間、エレベーターを待っている間。
さっきの男の言葉が、頭にこびりついて離れなかった。

‥‥‥‥‥‥‥
‥‥‥‥‥‥
‥‥‥‥‥


人気の少ないホテル街。
ホテルから出て、これからどこに行けばいいのだろうと考える。

田舎にある両親の家から離れこの都会に引っ越してきて、小さなアパートで一人暮らしをしていた。
喫茶店のバイトがない日で欲を満たしたい日なんかは、その小さな部屋に色んな男を連れ込んでセックスしたりもしてた。

どんどん心が荒んでいって、こんな人生で本当にいいのかなんて思い始めていた時に。

アイツに。さかたに、出会った。


他の男とのクソみたいな思い出が詰まったあんな家に戻りたくなくて、俺は坂田の家に入り浸った。
2人用のベッドじゃなかったし、坂田は寝返りをよくするやつだから、ベッドから落ちちゃうことも多くて。
音に驚いて飛び起きた俺と、ベッドから落ちた衝撃で起きた坂田が目を合わせて、やっぱり狭いな、なんて笑い合ったことも記憶に新しい。

坂田が眠りについた後、坂田の手を自分の頬に当てたり、キュッと握ってみたり。
終いにはそれだけじゃ我慢できなくて、坂田の腕の中に自分の体を押し込んで抱きついた日だってあった。
だけど夢の中にいるのにその手を握り返してくれたり、背中に手を回してくれたりして、ほんとは起きてたりしないかなって1人でドキドキして。

全部、全部好きで。

「............っ、ふ.........っ」


涙が止まらない。
俺があの時、匂いに気づいてなければ。
匂いに気づいても、何も知らないフリをしておけば。
俺は今日も、あの大好きな家に帰れたのに。

「うらさん......っ!!!」


その声に、振り返る暇もなく手を掴まれた。
振り返らなくても分かる。声と、温度で。


「......さかた......」


は、は、と息を切らして俺の手を掴む坂田の手は、ひどく汗ばんでいた。


「......なんで、なんで泣いてるん」


坂田の言葉に、ハッと我に返って顔を逸らす。
こんな所で会うなんて最悪だ。
まさか、大学で車に乗るところを見られてた?
そうじゃなきゃ、坂田がこんなに汗を流してこんな所にいるなんてありえない。


「...お前には、関係ない」
「.........っ」


そう言うと、坂田の手が震えて、ゆっくりと力が抜けていくのが分かる。

やだ。離さないで。
ずっと、俺にしがみついててよ。

そう思ってしまう自分が、恥ずかしい。
離れてって自分から言うくせに、離れないで欲しいだなんて思う自分は、なんて醜いのだろう。
今だって。
俺を探しに来てくれて、会いに来てくれて嬉しいだなんて喜んでる自分がいる。


「......もう、......ぃ...?」
「......え?」


「......もう...俺のこと、嫌い......?」


ずるい。
ずるい、ずるいずるい。
それはないだろ、お前。


「......っ、ざっけんなよ......!!!」


さっきまで離してほしくなかった手を、無理やり振り払う。


「っ、うらさ」
「もううんざりなんだよ!!!お前は俺じゃなくてもいいくせに、っ、俺は、俺は......っ」


俺はもう、お前じゃなきゃダメになってる。


「...っ、嫌われるくらいなら、振られるくらいなら......っ、いっそ自分から離れた方がマシだと思ったんだよ...!!!」
「......うらさん...」
「なのに、なのに.........っ、くそ...」


あぁ、もう。八つ当たりだ。
逃げたい。1人になりたい。こんな自分、コイツには1番見て欲しくなかったのに。

目に溜まった涙を乱暴に手で拭うと、さっき振り払った手が、もう一度俺の手を掴んだ。
ぎゅ、と両手で、俺の手を包むように。


「......俺......ずっと、女の子が好きだって思ってたのに......気づいたら...うらさんばっかで」


坂田の言葉に、俺は目を見開く。


「前まで友達と一緒に盛り上がってた女の子の話も、共感できずにつまんなくなったし、女の子の匂いもきついし、嫌だし」
「.........っ」
「...それよりも、うらさんの肌の匂いとか、シャンプーの匂いのほうが、ずっと好きで。頭から離れなくて」


うそ。うそだ。


「今更遅いって分かってる。いっぱい待たせちゃったし、たくさん傷つけた。だから、うらさんに許してもらおうだなんて思ってへん」


だけど、と零してもう一度俺の手を握り返した坂田が、まっすぐ俺を見て真剣な顔で告げる。

「俺、うらさんが好き」

「......おれのこと、...すき、なの......?」
「......うん。すき。すきだ」
「...ほんとに.........?」
「うん。............ごめんな。」


「それだけでも、伝えたかったんだ」

俺の手をゆっくりと離した坂田が、眉を下げて小さく微笑む。


「引き止めて、ごめんね」
「...............」
「............じゃぁ」


背を向けた坂田が、ゆっくりと歩いていく。
俺は言うまでもなく、その背中に抱きついた。


「......っ、あほかお前は」
「...う、らさ?」
「俺は、ずっと待ってたのに...っ、勝手に言ったあとに1人で帰んじゃねぇよ...」
「.........っ、え、だ、だって、うらさ」


坂田が振り向いた瞬間、俺はグイッと坂田の胸ぐらを掴んで引き寄せ、少しだけ背伸びをする。

少し乱暴で、無理やりなキスだけど。
思いを伝えるには、1番手っ取り早いから。


「俺も、お前が好きだ」


もう、離してやんない。

‥‥‥‥‥‥‥‥
‥‥‥‥‥‥‥
‥‥‥‥‥‥

その後、俺は無理やり坂田の家に上がって、2人でベッドの上に向き合って座りながら誤解を解いた。

どうやら、この前のは本当にサークルに行っていたらしい。
1個上のマネージャーにしつこく絡まれたらしいが、自分からは決してしてないしセンラを使ってすぐに逃げたと教えてくれた。


「...でもごめんな。女の子の匂い付けて帰ってくるとか...普通嫌よな」
「...お前、顔良いし......しょーがねぇよ」
「関係あらへん。俺が注意すればええ話や」


次から気をつけるな、なんて手を握ってくれて、俺は正直緊張でそれどころじゃない。
なんだコイツ。好きな奴には、こんなスキンシップ強くなるんかよ。


「...俺からも、1個聞いてええ?」
「.........ん」
「.........んー.........あのな.........」


言いにくそうに目を逸らしたり、んん、と言葉を濁す坂田に、はよ言えと急かす。


「...さっきの奴とは......その.........」


その言葉に、俺は坂田が何を聞きたいのか分かった。


「あいつとは、何もしてない」
「.........ほんまに?」
「未遂っつーか......俺が...お前のことずっと考えちゃって」
「......!」
「......だから、キスも、何もしてない」


これ以上、何も誤解したくない。させたくない。
俺は、お前しかいないよ。さかた。


「.........はぁあぁ〜〜〜...!!!!」


すると、急に大声を出して力が抜けたようにベッドに寝転がる坂田に、俺はビクリと反応する。


「......へへ、よかったぁ」


安心したようにへにゃ、と笑う坂田に、きゅうっと胸が締め付けられた。
やっぱり俺は、さかたじゃなきゃいやだ。
俺を、さかただけのものにしてよ。


「風呂、入ってくる」
「へ?あ、うん」


立ち上がった俺を不思議そうに見つめている坂田に、俺は屈んで寝転がったままの坂田にちゅっとキスをした。


「...準備してくるから...待ってて」


真っ赤になった顔で告げると、その意味を理解したのか、坂田もじわじわと顔を赤く染める。
その場から逃げ去るように風呂場に行き、俺は自分のした行動に頭を抱えた。


さかたに抱かれたい。
俺の体に触れてほしい。
一緒に気持ちよくなりたい。

1つになって、さかたを全身で感じたい。


きゅう、と腹の奥が期待するように締め付けているのを感じながら、俺は浴室のドアを開けた。


‥‥‥‥‥‥
‥‥‥‥‥
‥‥‥‥


side:さかた

俺は今、人生で1番緊張している。

風呂場からシャワーの音が聞こえてくる中、俺は何をすればいいのか分からなくて、とりあえず服を部屋着に着替えたり、1人でベッドメイキングをしたり、なかなか落ち着かない様子でいた。


『...準備してくるから...待ってて』


なんなんあれ。可愛すぎへんか。
顔真っ赤にしながら言うんずるいって。
前まですぐに服脱いで、挑発するように俺のこと誘ってきたくせに。
ギャップで死ぬ。ギャップ萌えで死ぬ。


ガチャ、と寝室のドアが開いて、びくっと驚いて思わず姿勢を正す。


「......なんで正座なんだよ」
「っや、やって、うらさんがあんなこというから...!!!」
「ふは、やっぱり童貞極まりねぇなぁ。お前は」


クスクスと笑いながらギシ、とベットの上に上がってくる。
うらさんから香ってくるシャンプーの匂いと、ボディークリームの匂いが鼻をくすぐって、これだと本能が騒ぐ。


「...うらさん」
「ん?」


「俺と、付き合ってください」


ちゃんと言わなきゃ、伝わらないから。
言葉足らずで、誤解なんてさせたくないから。

ずっと、ずっと一緒にいたい。
俺が大事にしたい。
これからのうらさんを、俺が全部ひとりじめしたい。


「.........っ......ふ.........っ」


くしゃりと顔を歪ませて涙を流すうらさんを見て、俺は冷や汗が流れる。


「っぇ、えっ、うらさん?!」
「っ、ぅ、おまぇ、ふざけんなぁ......っ」
「えぇ.........っあ、もしかして嫌やった...?」


不安になって弱気な声を出すと、うらさんが突進するように俺の腕の中に抱きついてきた。


「うぐっ...!!?!ちょ、うらさ、急に」
「...ず...っ、手放したら許さねぇからな......っ」
「..................っ、うん......!!!」


ぎゅう、と抱きしめ返しながら、ばか、ばか、と何度も腕の中で泣きながらブツブツ言っているうらさんに微笑む。


「んへへ、うらさん好きやぁ」
「...っ、俺の方が、ずっと前から好きだし」
「えぇ、でも愛は俺のがおっきいで?」
「ふざけんな、俺の方がでかいわ」


ぐりぐりと肩に顔を押し付けるうらさんが愛おしい。
抱きしめている力を弱めると、うらさんもゆっくりと弱めて、至近距離で目が合う。
どちらからともなくキスをして、しだいに熱く深いキスに変わる。


「......っん、ぅ」


やっぱりうらさん、テクがすごい。
貪るように舌が絡んで、息をするので精一杯。


「...っ、ぷは...!」
「鼻使え、鼻」
「うぅ、うらさんうますぎやって...」
「坂田が経験ないだけだろ。早く慣れろ」
「......じゃあ、いっぱい練習させてくれる?」


こてんと顔を傾けてお願いすると、頬を赤くしたうらさんが耳まで赤くなって、ゆっくり頷いてくれる。


「...練習していいの...俺にだけだから」
「...んふ、うん。うらさんにしかせえへん」
「.........ん、もう1回」


目を閉じたうらさんに、顔を近づけて柔らかい唇に触れる。
甘い息と音が耳に響いて、ひどく艷らしい。


「......っん.........ふぅ、っ、ん...っ」
「......ん............さかた............」


うらさんの唇、柔らかい。
甘くて美味しくて、ずっと食べていたい。
熟した果実のように赤くて甘い舌をかぷりと噛んでぢゅ、と吸うと、ビクンとうらさんの体が跳ねた。
それが可愛くて、俺はもっとうらさんの唇に夢中になってく。


「んぅ......っん、ぁ......っ」


さっきまで余裕そうだった声とは違って、甘く蕩けたうらさんの声に身体が燃えるように熱くなる。

もっと、もっと。
欲しい。うらさんが、全部欲しい。

すると、トントンとうらさんが俺の肩を何回も叩いているのに気づいて、俺は唇を離す。


「っは......!!」
「...うらさん......?大丈夫...?」
「っぉ、まぇなぁ、がっつきすぎだっつの...!」


息を切らして、唇から溢れた2人の絡み合った唾液を拭ううらさんに、俺はぐいっと近づく。


「...うらさん、可愛い」
「......っ」
「もっとしたい、ちゅー」


だめ?と上目遣いでお願いすると、うぐ、と顔を顰めたうらさんが、俺の服を掴む。


「...いいけど、今日はキスだけじゃ終わらせねぇぞ」
「......っえ!、?!」
「.........っ、何驚いた顔してんだよ.........俺準備するって言っただろ」


俺の驚いたように不安になったのか、小さな声で呟くうらさんにキュンと胸が高鳴る。


「いや、俺...その......ご存知の通り、恥ずかしながら経験がなく...」
「............ん」
「...だから......その、タイミングとか、わかんなくて。もっとイチャイチャするもんかと」
「..................!」


ぽかん、と呆気に取られたような顔をするうらさんに、やっぱり違ったのかなんて焦る。


「つ、次は脱げばええんよな?ごめんな気が利かんくて」
「...いい」
「っえ?」


うらさんの言葉に今度は俺が呆気に取られると、服を脱ごうとしていた俺の手をきゅ、と掴まれる。


「もっと、さかたとキスする」
「......うらさん...?」
「......ごめん、俺も...セフレは居たけど...恋人居たことないし...こういうの、初めてだから」
「......っえ、そうなん!?」


恋人、いたことないなんて知らなかった。
経験豊富だと分かっていたし、彼氏もいっぱい居たんだろうななんて思ってた。


「......坂田の方が、そっちの面では経験豊富なんだよ」


むす、と拗ねたように頬を膨らますうらさんが可愛くてぎゅーーーっと強めに抱きしめる。


「んふふ、可愛ええなあ」
「......ムカつく。全部俺が初めてでいいのに」
「俺やってうらさんの初めて欲しかったし。お互い様やで」


それでも納得いかないようなうらさんの頬にキスをして、優しく微笑んだ。


「じゃあ俺はこれからの初めてのもの、全部うらさんにあげる。だから、うらさんのもちょーだい?」
「.........最後も、欲しい」
「んへへ、あげるで全部」
「...なら、俺もあげる」


嬉しそうに頬を緩ませながら抱きついてくるうらさんに、俺はクスクスと笑いながらキスをする。

すき。
だいすき、うらさん。
こんなにも思いが溢れるのは、君が初めてだよ。


‥‥‥‥‥‥‥
‥‥‥‥‥‥
‥‥‥‥‥


side:うらた

しばらく深いキスを交わした後、お互いに呼吸が浅くなって、頬がほんのり赤く染まる。


「......うらさんの体、触りたい」


坂田の熱い瞳にゾクゾクと身体が喜ぶのが分かる。
こく、と頷くと、カチコチになりながら俺の服を脱がせる坂田に、思わず笑ってしまう。


「お前、緊張しすぎ」
「っな、うらさんはしないん!?」
「してるけど、お前の顔見ると緊張の度合い違いすぎて落ち着くわ」
「ぅう、やって......好きな人の身体触れるとか...夢みたいなんやもん......」
「......っ、お前なぁ、率直に言うな。恥ずかしいわ」


お前も脱げ、と急かして、坂田の上の服を脱がす。
そのまま流れるように、胡座をかいて座っている坂田の膝の上に抱っこされるように乗ると、坂田がより一層緊張した顔をする。


「うぅ、うらさんいい匂いする......」
「...ボディークリーム?」
「うん。あと髪の毛も」
「ふ、同じシャンプーだろ」
「そうやけど...うらさんのはなんか違うの〜」
「......ほら、いっぱい嗅いでいいぞ」


きゅ、と坂田の体に抱きつくと、やけに早い心臓の音が聞こえてきて、クスリと笑ってしまう。
ゆっくりと抱きしめ返されて、首元から流れるようにキスを落とされる度にピクンと反応する。


「...うらさん腰細い......内臓入ってる...?」
「入ってるわアホ」
「んふ、俺もボディークリームとか塗ろうかなぁ」
「......この匂い好き?」
「うん、好き。......やけど多分、うらさんが付けてるから好きなんやと思う」
「.........!」
「...俺、うらさんなら甘い香水つけてても好きよ」


恋人に向ける彼氏みたいな、甘く蕩けた顔で顔を覗き込まれて、俺も心臓の速度が早くなるのがわかる。
キスをしながら、こいつは俺の恋人なんだと再確認して、嬉しくてたまらない気持ちになる。

胸を優しく揉まれて、ずっと求めていた甘い刺激に思わず声が溢れてしまう。
舌を熱く絡ませ合いながら、すでに硬くなってしまっている乳首を指でコリコリされて、その刺激にビクビクと身体が悦んだ。


「......ふ、ぁ......っん......っ」
「うらさん...乳首きもち?」
「......っ、ん......っぁ、きもちぃ...」


何度もキスをされながら、腰を撫でられたり胸を弄られたりして、坂田の触れたところ全部が熱く溶けていく。
気持ちいい。もっと、もっと。
すると、ぎゅっと俺を抱きしめた坂田が、キスをしながら優しく俺の体をベッドに沈める。


「......うらさん............」


はぁ、少し息を荒くして、俺を求めるように頬を赤く染めながら見下ろしてくる坂田が可愛くて愛しくて、きゅんっと胸が高鳴る。


「いいよ......さかた......」


両手を坂田に向かって広げると、俺の身体を包むように優しく抱きしめてくれた。
肌と肌が触れ合って、お互いの熱くなった体温ですらも心地よくて。


「...下、脱がせてええ?」
「...ん」


部屋着のズボンに手をかけられて、脱げやすいように少し腰をあげると、あっという間に下着まで脱がされていく。
もう既に熱く反応しているのも、先走りが溢れるように先端からトロトロと流れているのも見られてしまって、羞恥でどうにかなってしまいそう。


「...かわいい......」


それでも坂田に可愛いなんて言われたら、嬉しい以外の感情が消し去られてしまう。

嬉しい。もっと見てほしい。
いっぱい触って。いっぱいイかせて。

頭の理性がどんどんすり減っていきそうな時に、ハッとあることを思い出す。


『好きな人には、ちゃんと伝えられたの?......お前の"カラダのこと"』


「...っ、ちょっと待って、さかた」


腰を撫でていた手が、ゆっくり下に行くのが分かって慌ててその手を止める。


「...?...やだった?」
「っ、ちがう。......その...まだ、もう一個...ちゃんと伝えなきゃいけないことがあって」


そう言うと、坂田が安心したように優しい顔になって頭を撫でてくれる。


「ええよ。なぁに?」


その柔らかい声に安心しながら、俺は今までずっと言えなかったことを打ち明ける。


「......俺.........不感症、なんだ」


ゆっくりそう告げると、目を見開いた坂田が首を傾げる。


「......え......?でも、うらさんのここちゃんと反応してくれてるし」
「...えっと、俺は......自分の手で触れると違和感しかなくて、気持ちよくならないんだ」
「.........えぇっとぉ、つまり?」
「......1人でシようとしても、できないってこと」


その言葉に、坂田が呆気に取られているのが分かる。


「...オナニーできへんてこと?」
「......ん。......だから......溜まったりすると、自分で処理できねぇから......人誘って、性欲処理してた」
「......そうだったんや」
「...だから............っ、さかたと会ってから...っ俺、1回も人に触れられてないから」
「......!」
「すげぇ...敏感だし、早くイッちゃうと思う......」


あぁもう、恥ずかしい。
自分だけじゃ全然満足できなくて、人から触れられないと満足できないとかどれだけ変態だよ。
セフレとするときだって、欲を吐き出すためだけにやっていたことだから、気持ちがノらなくて勃たなかったり、触られるだけで気持ち悪くてできないことも多かった。

でも坂田とは、キスしただけで、少し体を触られただけで、恥ずかしいほどに反応してる。


「...だから、すぐにシたいって言ってたん?」
「...それもあるけど.........」
「.........けど?」
「......好きな人に触られたことないから......絶対気持ちいいだろうなって思って」


ずっと、触られたかった。
わけわかんないくらいに蕩けて、全身敏感になった俺を激しく抱く坂田のことを、何度も想像した。
想像する度にお腹の奥が坂田を欲しがって、痛くて苦しくて。
その甘く官能的な声と、熱くなった赤色の瞳を俺だけに映してほしくて。
ずっと、ずっと坂田が欲しかった。


「.........なんやそれ、可愛すぎやんか」


すると、俺の頬を優しく撫でた坂田が、何かを耐えるような目をしながらニヤリと口角を上げて、その雄味を増した表情にゾクリと全身が痺れる。


「...いっぱい待たせちゃった分、いっぱいイかせてあげるからな」
「.........っ............♡」


キュンキュンと期待する音が身体中に染み込んで苦しくて、はぁ、と甘い息を吐く。

ちゅ、とじゃれ合うような小さなキスを何度も交わしながら、坂田が俺の熱にゆっくり触れたのが分かって、ビクンと大きく反応する。


あぁ、待って。やばい。
想像以上にずっと、気持ちいい。


久しぶりの性的快感と、触られただけなのに初めて感じる刺激の強さ。
やっぱり、他の奴らとは比べ物にならない。
もっと、もっと欲しい。


「っぁ、あっ、ぁああっ、......♡」
「...すご......触っただけなんに...」
「っゃ、こんな、っ、しらなぃ......っ」
「大丈夫、怖くないで。気持ちいいことだけ考えて」


童貞で数ヶ月前までノンケだった坂田に、自分のを扱かれて甘く囁かれて、すでに絶頂寸前の俺。
恥ずかしい。気持ちいい。もっと。こわい。
全身がビリビリと電気が走ったみたいに痺れて、もう既に何も考えられない。


「ッァ、イぐ♡やぁ、イっちゃっ♡♡ッひィッ♡」
「ええよ、いっぱい出して...っ」
「あぐっぅ♡♡んぁ、イっぢゃ、♡♡ぃく、ゃ、ぁあ゛〜〜〜〜ッッッッ♡♡♡」


数回扱かれただけなのに、呆気なく達してしまった。
ビュ、ビュ、と濃い精液が腹を汚して、じわりと腹の表面を熱くさせる。
あまりの強い快感に達した後もピクピクと甘イキを続ける俺に、坂田が頬を撫でる。


「うらさんえっちな顔......かぁいい...」
「ッひ、ぅ......っ♡」
「ここも、まだいっぱい出したそうにしてる...いっぱいビュービューしようねぇ」


イッたばかりの敏感な竿をもう一度優しく包んで、グチュグチュと扱かれる。
甘い蜜と白い精液でさっきより増して滑りも良くなって、艶やかな音と避けられない快感に首を振る。


「ぁぁあ゛〜〜ッッ♡♡らめ、やぁぁ...っ♡♡」
「...んふ、タマもこんなにパンパンにして...」


グチュグチュと強く扱かれながら、もう一方の手でいっぱい精液を溜め込んでるタマも揉まれて、身体が悦んでビクンビクンと飛び跳ねる。


「あ゛ぁ〜ッッ♡♡やぁ、あっあ゛ッ...♡♡ひぅッ、ぐ♡♡たま、っ、タマやらぁッッ♡♡♡」
「嫌やないやろ?ほら、いっぱいよしよししなきゃ......♡」
「ぁあ゛ッッ♡♡も、やぁ...らめっ、ィグ...ッッふ、ぁ゛ッッ♡〜〜〜〜ッッッ♡♡♡」


坂田の容赦ない刺激に、俺は呆気なく2度目の射精をして、腹を再度汚す。
好きな人に触られるって、こんなに頭がおかしくなるくらいに気持ちいいものだったんだ。
ヒュ、ヒュ、と浅くなった呼吸を繰り返していると、坂田が頬や額にキスの雨を降らせる。
それすらも感じてしまって、キスをされる度にピクンと反応する。


「うらさん、体平気...?」
「...っ、ん.........だいじょ、ぶ」
「うらさんえっちすぎて、俺もうちんこ痛い......」


うぅ、と唸りながら顔を俺に擦り寄せてくる坂田が愛しくて、頭を撫でながら頬にキスをする。


「...今度は、俺が気持ちよくする」
「.........っへ?」
「おら、とっとと脱げ」


さっさと急かす俺に、坂田が慌てて俺から離れて下のズボンと下着を脱ぐ。
坂田の下半身を見るのは初めてで、既に反応しきっている姿に嬉しさと興奮できゅうっと唇を噛み締める。


「っ、うらさん......脱いだよ」
「...ん.........おまえ、そのままな」
「......っへ、えっ、ちょ、うらさ......っ!?」


胡座をかいて俺の指示を待っていた坂田にそう言って、慌てた様子の坂田に俺は気にせず坂田の反応しきった一物を咥える。


「ふ、ぅあ......っ!」


初めての快感に、ビクビクと反応してる坂田が可愛くて、裏筋を舐めたり手で扱いたり、持ち前のテクニックを使って坂田を気持ちよくさせようとする。


「あっ、く、ぅっ......ッッ♡っ、は、ぁ、やば、あっ、うらさ、っ、きもちぃ......っ」


俺の髪をくしゃりと撫でながら、快感に耐えるように声を出す坂田に腹の底がきゅうっと締め付けられるのを感じる。


「っ、は、ぁぅ、♡まって、ぁ、はっ、うらさ、も、でる、から......っん、離して......っ」


頭を撫でてくれていた手が俺の肩をくっと強く押されるのがわかって、負けずと抵抗しながら咥え続ける。
セフレだった奴にする時は、気持ち悪かったし苦しかったしで吐きそうになるのをずっと堪えながら、相手の要望に応えていた。
応えないと、最後までシてくれないまま未遂で終わるかもしれないなんて思ったからだ。
性欲処理のためだけにこんなことしてるのに、最後までできないなんてたまったもんじゃない。
ずっと、必死だった。

でも、坂田のはそんなヤツらのモノとは全然違う。
そりゃ男特有の匂いはするし、大きいから苦しいけど、幸福感で満たされて気持ちいい。
触られてもいないのに、俺のも完全に勃ってて我慢汁がトロトロと溢れ出ているのが分かる。

さかた、もっと気持ちよくなって。
俺のことしか、考えられなくなって。


「うぁ......っ、♡っん、あっ、もぉ、い、く......ッッッ♡」
「...っ、ぅぁ...っ!?」


グイッと強く肩を押されて、ずっと咥えていた坂田のが口から離れてしまい、ビュルルッと勢いよく放った坂田の精液が顔に飛び散る。


「...っ、ふぅ............ッッ!?!っ、うらさ...!!!」


満足気に息を整えた坂田が、俺の顔を見て顔を真っ青にする。


「顔、ごめ...!!!ちょっとまって今拭く...っ」
「......口に出してほしかったのに...」
「汚いやん...お腹壊しちゃうよ」
「......さかたの、ごっくんしたかった」


顔を拭かれながらポツリとそう零すと、坂田が見るからに顔を赤くする。


「ごっくんて.........っ、じゃあ、次するとき、お願いしようかな...」
「...!!!約束したからな」
「分かったよ............じゃあ次、俺の番ね」
「は?」


すると、ぐるりと体を回転させられて、あっという間にベッドに沈められる。
顔を下に下げる坂田に、俺は頭を掴んで必死に止める。


「っ、ばか、俺はもういいって......!!」
「ダメ。俺ばっか気持ちいいのやだもん」
「こっちのセリフだっつの...!!!...っ、ひあっ!?!♡」


(こいつ、ほんとにノンケかよ...っ、!!?!!)


何の抵抗もなく咥えられ、さっき俺が坂田にしたみたいに口内で弄ばれる。
俺は人にするばかりで、こんなこと今までされたことなんて無かったから、初めての快感に頭がビリビリする。


「っあ、あっあっ...!!!♡♡ひぐっ、う゛♡♡」


やばい、気持ちいい。
なにこれ。こんなの、すぐにイッちゃう。

何も意識していないのにカクカクと腰が動いて、坂田の頭を思わず掴む。


「ひぎッッ♡♡あっ、やぁ♡♡ッッあ゛ぁッ♡♡」


さっき2回達したばかりなのに、もうイきそう。
俺、こんなに早漏じゃなかったのに。
早い奴って思われたらやだ。嫌われたらやだ。
やだ、さかた。嫌わないで。

キュッと目を瞑って涙が流れると、咥えていた口を離した坂田が、くちゅ、と手で扱き続けながら俺の名前を呼ぶ。


「うらさん」
「っひ♡♡ぁ、う...?♡」
「きもちいの我慢せんで?」
「っ、ん...っき、わらない...っ?」
「なぁんで嫌うん。好きだよ」


どストレートに好きを言われて胸がキュンとなりながら、再度坂田に咥えられて、今度は抵抗せずに受け入れる。


「は、んぁっ♡♡あっ、あ゛ッッ♡♡」


ジュル、と吸われて、だんだんと精子が上がってくるのが分かる。
タマも同時に優しく揉まれて、気持ちよさに俺はすぐに絶頂を迎えた。


「っ、あッッ♡♡♡イグ、ッ、も、いく、から、はなし、ぁああ゛ッッッッ!?!♡♡♡」


イクから離して、と言おうとしたら、勢いよく吸われて呆気なく達してしまった。
ドク、ドク、と脈を打つ中、ゴクリと喉元が動いた坂田に思わず目を見開く。


(こいつ、飲ん...っ)


俺の時には飲ませなかったくせに、自分では飲むのかよ。
思わずそう口に出そうとした時、坂田の顔を見て呆気に取られる。


「ゔぇ.........にがぁ...っ...」


顔を顰めて苦しそうな顔をする坂田に、俺は呆気に取られた後、思わず笑ってしまう。


「ったく、お前なぁ、苦いに決まってんだろ」
「ゔゔ、やってうらさんが飲みたいくらい美味しいんかなって......うらさんのなら美味しいかもって思ったらめっちゃ苦い......っ」
「っ、もぉ......水飲んでくる?」
「うらさんちゅーして...うらさんで緩和する...」
「んな......っ、あぁもぉ......」


なんなんだこいつ。可愛すぎかよ。
坂田の唇に触れて、舌を絡ませ合う。
苦味はあるけど、坂田とのキスが好きだから俺は夢中になって絡める。

ちゅーで緩和するとか可愛いな。
ほんとに俺、コイツに今から抱かれるのかな。

なんて思っていたがそれも束の間。
唇が離れたあと、俺を見る坂田の瞳が熱く鋭くて、その瞳にすぐに抱かれたくなってしまう。


「っ、さかた...っ」
「.........ん...?」
「...うしろ......準備、できてる、から...っいれて.........?」


そう言うと、またしても呆気に取られたような顔をする。
また何か間違えたのか、俺は。
不安になっていると、恥ずかしそうに坂田が目を逸らす。


「......解すの、は?」
「......?ちゃんとしたよ...?」
「...いや、だってうらさん、1人ですると気持ちよくないんやろ...?手で自分で慣らすのも、同じやろ?」
「......まぁ......でも準備ってそういうもんだろ」


そう言うと、やる気に満ち溢れたような表情をした坂田が、俺の臀部に触れる。


「っん、ぁ」
「指でも、気持ちよくしてあげる」
「......っ」
「...これって、そのままいれても痛くないん?...ローションとか付けるん?」


そんな言葉に、俺はふは、と笑ってしまう。
ほんと、どこまでもキマらないやつだな。
俺以外だったら呆れられてるぞ。俺はそんなとこ見ても、可愛く見えてしょうがないだけだけど。


「ちょっと待ってろ」


近くに置いてある棚から、前に持ってきておいたローションのボトルを取り出す。


「っえ、いつの間に置いてたん...!?」
「...泊まり始めたくらいから置いてた。やっぱり気づいてなかったんか」
「そんなとこ、滅多に触らへんし...」


パカ、と音を立てて蓋を開け、坂田の手に垂らす。


「......これあっためたら...いれていいよ」
「...ん。分かった」


坂田がクチュリと音を立てて温ませてる間、俺は横たわりながら行き場のない目線をキョロキョロと動かす。
やがて温め終えたらしい坂田が、ギシ、と俺の方に乗っかってきた。


「...痛かったら...ちゃんと言ってな」
「...ん」


痛いなんて思わないけど。
そんな優しさが嬉しくて坂田の手をキュッと握ると、嬉しそうに握り返してくれた。

つぷ、とゆっくり入ってくるのが分かって、初めて他人の指が挿れられる感覚にゾクリと背中が震える。


「......うらさんの中...めっちゃ熱い...」
「......っ、ん......」
「きもちいいとことか...ある...?」
「......ん...自分でやってても...ぞわぞわするだけだけど...」


ネットや、働いてる喫茶店の本で何度も読んだことがある。
男がナカで感じることのできる場所。
前立腺を何回触っても、玩具でどれだけ弄っても、なんかぞわぞわするみたいな感覚しかなかった。
時間経つとそのゾワゾワが尿意みたいになるし。正直、あんまり好きじゃなかった。

でも、さかたなら。


「......もうちょっと...下のとこ」
「......ここ?」
「んっ.........そう......そこの、腹のほう......」
「............ここ......?」


くんっと指が前立腺に当たって、全身がビリビリと痺れるように電気が走る。


「っぇ...?、っひ......ッッ♡♡」
「...んふ、めっちゃ締まった......きもちぃね、うらさん」
「っ、っ、?♡♡」
「ぷくっとしてる......ずっと、場所教えてくれてたん?」
「ふ、あっ、ひぅ゛ッ♡♡」


何度もその場所を擦られて、体の痺れがおさまらない。
気持ちいい、なにこれ、知らない。


「かわい......うらさん可愛ええなあ...」
「ッひ♡♡っ、んぁ♡や、ば、なんかキちゃ...♡」


こんなにあっという間にイきそうになるなんて。
俺は、今までナカで1回もイッたことなんてない。
いや、何となくこれがナカイキなのかな、なんて思うことはあったけど。
ゾワゾワするだけで大してそんなに気持ちよくはなかったし、前で達するほうがいくらか気持ちよかった。
なのに全部、全部坂田で塗り替えられてく。
全部、全部知らない、ハジメテのことばかり。


「っぅあ、っ、いっちゃ、イ゛ク、ひ、あ゛っ、〜〜〜〜ッッ♡♡♡♡」


ビクビクと大きく痙攣して、ナカで達する。
達しながらきゅう、と坂田の指を締め付けて、その感覚でまた甘く痺れる。
前でイクのとは全然違う快感。
ずっと甘い電気みたいなものがずっと走ってる感覚。
指がゆっくり引き抜かれると、ナカがすぐに欲しがってくぱくぱと動くのが分かる。


「うらさん、俺もう限界...挿れたい......っ」
「っ......♡♡さかぁ、っ♡きて......♡」
「まって、ゴム.........」


坂田が急いで、さっきローションのあった棚に入れておいたゴムを手に取る。


「......っ、なんこれ...全然開かへん...っ」
「...貸して、さかた」


焦ってなかなか開けれなくなっているゴムを坂田から受け取って、ピリ、と破る。
そのまま坂田のモノに見せつけるように被せて、被せたものにちゅっと小さくキスをして坂田に微笑むと、真っ赤な顔をしながらその顔を隠す。


「うぅ、うらさんえっちや......」
「ったりめーだろ。これからもっとえっちになんぞ」
「さっきまで可愛い蕩けた顔しとったんに......漢気溢れすぎやろ......」
「......男らしい俺は嫌いかよ」


目を逸らしてそう言うと、肩をガシッと掴まれる。


「んなわけあらへんやんか!!!好き!!!!」
「〜〜っ......う、っさい。わかってるっての」
「うらさんは?俺のこと好き?」
「............分かってるくせに」
「直接聞きたい。な、好き?」


きゅる、とまるで小さな子犬みたいな目をして首を傾ける坂田がずるい。
可愛い。俺の好きな、大好きな恋人。


「......好き」
「...!んへへ、俺も好き」
「〜〜っ、おら!!とっととすんぞ!!!!」
「うぁっ!?」


溜まったもんじゃない。
ずっと俺がリードしたかったのに。この子犬みたいに可愛い何も知らない男を、俺色に染まらせたかったのに。
結局は、俺が染まってばかりいる。

坂田をベッドに押し倒すと、その上に乗ってそのまま坂田の一物を蕾に押し当てる。
きゅう、と締まって、欲しくて欲しくて堪らない。


「ちょっ、うらさ......っ!」
「うっせ、黙って見てろ。やられっぱなしじゃ嫌なんだよ俺も」
「っでも、俺だってしたいのに......!!」
「...後でいくらでも抱かせてやっから、今は俺に抱かれてろ」


そう言うと、坂田はさっきと同じように「うぅ、男前やぁ......」なんて頬を染めて言う。
まぁ抱かれてろなんて言っといて、実際に挿れられるのは俺なんだけど。
ゆっくり腰を落とすと、坂田の硬くなったソレが入ってくるのが分かる。

これが、ずっと欲しかった。

思わず腰が抜けそうなほどの快感にふるりと体を震わせながら、坂田のモノが最後まで挿入ったのを確認した後、ペタンと足を女の子座りにする。
坂田の下生えが俺の臀部に触れて、ちゃんと繋がってると実感して、思わず泣きそうになる。

嬉しい。俺、坂田と繋がってるんだ。

じわじわと気持ちが温まる心地になりながら坂田を見ると、ボロボロと大粒を流して泣いていた。


「......っ、え......!?ちょ、さかた......?」


坂田の涙を拭うために坂田の頬に触れると、その手に重ねて坂田が俺の手を握る。


「......っごめ......っ、ちょっと、嬉しなって...」
「......!」
「......っ、おれ、しあわせもんやぁ......っ」


涙を流しながらそう告げる坂田に、俺も耐えきれずにポロリと涙が零れる。


「...っ、俺だって......っふ、嬉しぃ......っ」


泣きながらそう言うと、優しく坂田が手で拭ってくれた。


「...ふは、俺ら、えっちして号泣してんのおもろいなぁ」
「......お前が泣いたからだろ......っ、移ったわ」
「んふ、幸せやねぇうらさん」
「......ん」


幸せ。多幸感。充足感。
全部全部満たされてふわふわな気持ちになりながら、それでもそれ以上を求めるように俺は腰を揺さぶる。


「......っん、あっ......♡」
「...はぁ、っやば......すぐイきそ......」
「っ、ん♡......っ、は、はっ......♡」


気持ちいい。
少し体を揺さぶるだけで、ぐちゅ、とナカで蜜が絡みあうのがわかって、ゾクリと震わせる。


(......っ、腰抜けて......っ、上がんね......)


坂田のが挿入ってると自覚した時点で桁違いの快感に溺れてしまった俺は、腰の力が抜けて全く上がらなくなっていた。
でもこのままじゃお互い気持ちよくできないし、でも坂田にばかりさせるのも嫌だ。


「......っ、うらさ......?」
「......さ、かた......腰、持って......」
「...?うん............」


きゅ、と腰を両手で支えてくれた坂田を確認した後、ゆっくりと腰を上げて、とちゅ、と落とす。


「〜〜ッッ......♡♡」
「っ、は...ッ、きもち、やば......ッ」


さかた、気持ちよさそう。
嬉しい。さかた、もっと。もっと、もっと。

坂田に気持ちよくなって欲しくて、思いのままに腰を上げて落とす。
下生えと臀部が当たる度に、ぐちゅ、ぱちゅ、とナカの音が響いて、それだけでゾクゾクと快感をそそらせる。


「......っ、うらさ......」
「っふ、ぁっう♡♡ん、ん......ッッ♡♡」
「〜ッ、うらさんごめん......っ!!」
「ひう゛ッッ!?!!?♡♡♡♡」


いきなり強く腰を掴まれたかと思えば、どちゅッ♡と強く挿れられて、一瞬何が起こったのか分からなくなる。
ぐら、と体が支えきれずに坂田に倒れ込むと、それを気にもせずにガツガツと突かれて、何も出来ずに快感に身を任せることしかできない。


「んあ゛ッッあ゛っ、ん、ひッッ♡♡♡♡」
「っぁ、はぁ......っうらさ、うらさん可愛い......っ」
「あ゛ぐぅッッ♡♡さかぁ、っ♡♡ひ、ッッ、おぐ、おぐぎてるぅ゛......ッッ♡♡」


ドチュッドチュッと生々しい音が響いて、頭までその激しい律動に狂わされそうになる。
テクニックもなしにひたすら腰を動かしてるだけの坂田だけど、体制のせいか俺のイイ所に動く度に当たってしまっていた。
そのイイ所に突かれる度に、足がビクンと震え上がって、喘ぎ声が無意識に出てしまう。


「あぅう゛ッッ♡♡もっイグッッイッち゛ゃ......ッッ♡♡♡」
「っ、あっ、く......ッ♡おれも、俺もイきそ......ッ」
「あ、ひぐッぅ゛ッッ♡♡♡♡イグ、イク゛ッッ♡♡♡♡〜〜〜〜〜〜ッッ、ォ゛♡♡♡」
「っ、イク......ッッ!!」


前立腺を容赦なく突かれて、俺はあまりの気持ちよさに目がぐるんと上を向き、ナカで達してしまう。
ゴム越しにドクン、と坂田の熱が出ているのが分かって、それですら感じてしまう。

「ふ......ッッ♡♡......っぁ......は......ッッ♡♡」
「......っ、はぁ......うらさ......平気......?」


あまりにも強引すぎたと思ったのか、心配そうに俺の頬を撫でて、俺が落ち着くのを待ってくれる。
汗もあまりかかない体質なのに、今や顔が汗でベタベタだ。
前髪もぐしゃぐしゃで、頬を撫でていた坂田が前髪を分けて俺の額にキスをしてくれる。


「......ふ、うらさん......えっちな顔してる」
「ん......♡さかた......ッ、もっとぉ......♡♡」
「んふ、かわええなあ......♡」


ゴム変えるからちょっと待ってて、と言って上に乗っかったままの俺を下ろし、ゴソゴソと取る準備をする。


「さかぁ......ッ♡はやく......っ」
「っ、ちょっと待って......今ゴム縛ってるから......」
「........................」
「......あれぇ......?......固くて縛れへん......」
「......ッッああもう貸せ......!!」


トロい坂田からコンドームを奪い取り、キュッと縛ってゴミ箱に捨てる。
すると、きゅっと体に抱きついてきた坂田が、俺を見ながらありがと、と可愛い顔をして笑う。


「......ったく、ちゃんとできるようになれよ」
「んふ、はぁい」


そんなとこも可愛くて仕方がない。
ちゅ、とキスをされて舌が絡み合うと、さっきの熱が再熱してとろとろと溶かされる。
優しくベッドに落とされて、唇を離した坂田が棚から2つ目のゴムを取り出そうとする手を、ギュッと掴んだ。


「...?うらさん、?」
「ゴム、いらねえから......ナマで、欲しい......♡」
「......ッ、でも......お腹とか...痛くならへん......?」
「掻き出せばいいだけだから......はやく......ッ♡」


早くと急かす俺に、坂田がゴクリと息を飲んで俺の足を手で掴んで股を開かせる。


「もぉ、うらさんもゴムの使い方覚えさせる気ないやんか...♡」
「うっせ......ッッぁ♡♡♡」


ぷちゅ、と先端が俺の蕾に触れて、ビクンと反応する。


「はやく、はやくぅッッ......♡♡」
「んふ、かわええ......なッ......!!」
「お゛、ォ゛ッッッッ♡♡♡」


ドチュッと一気に最奥まで突かれて、足をピンと伸ばしながらナカイキしてしまう。
何も触っていない前方の熱からも、トロトロと精液が溢れ出ている。


「っはぁ......♡あれ、イッちゃった?」
「ォッ、ぅ゛、ふ......ッッ♡♡」


ビクンッビクンッと坂田の熱を締め付けると、ゴムをつけていないからドクドクと脈打っているのが分かって、その動きにまた達しそうになる。


「挿れただけでイッちゃうなんてえっちやなぁ♡」
「っ、ぁぅ......♡♡♡」
「えっちなうらさんには、もっとえっちなことせななぁ」


そう言った坂田は熱をゆっくりと引いて、バチュッと深く突いた。


「〜〜〜ッッあ゛♡♡」
「っうあ、キッツ............ッ」
「あ゛、ぁあ゛〜〜♡♡♡しゃ、かぁッッ♡♡はいっでぇ゛ッッひぅ゛ッッ♡♡♡」


坂田のがドチュッと奥まで挿れられる度に、ガクガクと足が痙攣して、目からは涙、口からは唾液が溢れてしまう。
無意識に腰を引こうとするけど、坂田にグッと足を掴まれて逃げられない。


「んぐぅッッ♡♡はげし、♡むりぃ゛ッッ♡♡♡」
「無理やあらへんやろ?こんな締め付けて離さへんもんなぁ」


ゴチュッゴチュッと奥まで激しく突き上げられ、品のない甘い声が溢れ出てくる。
今まで感じたことの無い桁違いの快感に、俺はもう何も考えられずに、ただただ坂田に抱きついて喘ぐことしかできない。


「ひぐッッ♡♡あ゛ッッォ゛ッッ♡♡♡いぐ、またぉっきい゛のきちゃ゛......ッッ♡♡」
「おれも、やばい......ッ」
「んぉ゛ッッ♡♡なかぁ、なかに゛ッッ♡ナカにだしてぇ゛ッッ♡♡♡♡」


腰が動く度にバチバチと目が眩むのを感じながら快感を与えられ、また瞳がぐるんと天に向く。
ナカに出してほしくて腕と足で坂田にしがみついてホールドすると、より奥深くに突かれて前立腺も何もかもゴリュッと潰される。
チカチカと目が眩んで、ガリ、と坂田の背中を爪で引っ掻いた。


「んぁ、お゛ッ♡♡♡いぐいく゛ッッ、いぐう゛、〜〜〜〜〜〜あ゛、はぁ゛...ッッ♡♡♡」
「うぁ゛......ッ、おれも、い、く......ッッ」


ぎゅうっと坂田を抱きしめて呆気なく果てると、それと同時に坂田が最奥に突っ込んで熱を吐く。
腹の奥で熱いものが注がれているのを感じながら、俺はまた甘く痙攣した。


「あぁ゛............ッ♡♡.........ふ、ぁ...♡」


頭がふわふわして、絡んでいた腕や足が脱力していくのを感じる。
好きな人とするのってこんなに気持ちのいいものなんだと感じながら、ゆっくり息を整える。

ずる、と坂田の熱がナカから抜けていくのが分かって、だんだんと引いていく熱にきゅうっと無意識にナカで締め付けてしまう。
ぬぽっと坂田の熱がナカから抜けると、とろ、とナカに注がれた精液が溢れ出るのが分かって、思わずひくんと痙攣する。


「......うらさん、平気......?」
「......ん..................さかた............」


坂田に向かって力のない腕を広げると、優しく抱きしめてくれた。
多幸感で満たされて、ふわふわと気持ちが浮つく。


「んふ、汗びっしょりやぁ」
「腹の上べたべたできもちわりぃ...」
「お風呂入ってくる?」
「......いっしょにはいろ...」
「......ん......でも、またシたくなっちゃうかもしれへんし。ゆっくり入ってきてよ」


ぽんぽんと俺の頭を叩いて、優しく微笑んでくれる。
きゅぅ、と心が締め付けられるのを感じながら、坂田の肩に擦り寄る。


「......しろよ、存分に襲えよ」
「......うぇぇっ!?いやでも、うらさ」
「そのために誘ってんだよ!!分かれ童貞が!!」
「いやいやたった今卒業したし!!!1番知ってるよね!?!」
「うっせ!とっととつれてけ!」
「〜〜〜ッッもぉ、容赦せんからな!!」


ガバッと俺を軽々お姫様抱っこした後、全力ダッシュで風呂場に向かう坂田。
そのあまりの全力さにクスクスと笑いながら、愛おしいという気持ちを込めてぎゅうっと抱きついた。


‥‥‥‥‥‥‥‥
‥‥‥‥‥‥‥
‥‥‥‥‥‥


「ホットココアですね、かしこまりました」


次の日。
午後一から喫茶店でバイトだった俺は、玄関まで送ってくれた坂田に頭を撫でられた後、ふわふわな気持ちのまま店に居た。
店長にはなぜかすぐにバレて「あらやだおめでとう〜〜♡体無理そうな日はいつでもシフト変更聞くからね♡」なんて言われた。
確かに昨日盛りすぎて少し腰が痛い。
結局、あの後風呂場で2回もしてしまった。最後には俺が風呂場でのぼせちゃって、坂田にはいろいろ手間をかけてしまったけど。

朝起きても夢じゃなかったし。
あまりに幸せすぎて、俺そろそろ死ぬんじゃねって今日ずっと思ってる。
あぁもぉ、早くバイト終われ。
さっきまで会ってたのに、数時間しか経ってないのに。
もう会いたい。坂田が足らない。
でも、アイツも午後から大学だって言ってたし。
今連絡しても返ってくるの遅いよな、てか連絡したら絶対会いたくなるし。


「......あの〜............?」
「...っは、すみません...!!はい、どうぞ」


ホットココアを持ったまま悶々と坂田のことを考えすぎて、お客さんの声で我に返る。

ダメだ、集中しろ俺。

ぺちぺちと頬を叩いて気持ちを切り替えようとする。
カランカランとドアの開く音が響いて振り向くと、その姿に目を見開く。


「......っぇ、さかた......!!?」
「うぃ。おつかれ〜」
「...え、大学は......?」
「一コマ受けて、もう一個は今日休みやで」


当たり前のようにカウンターに座る坂田に、会いに来てくれたのが嬉しくて口角が上がってしまう。


「......な、何頼む?」
「んーうらさんのオススメ!」
「ふは、いっつもそれだなぁ」


今日は少し肌寒いから、温かいココアを淹れよう。
坂田は熱すぎるのが苦手だから、少しぬるめに。


「うらさん、カヌレは?いれれた?」
「ん、今日からメニュー入れてる」
「やった!じゃあそれも食べたい!」
「今日作った試作で残ってるのあるから、それでもいい?」
「ん!ありがとぉ」
「ん、ちょっと待ってて」


嬉しそうに笑う坂田に、キュンと胸が踊る。
奥の部屋に入ってカヌレとココアの準備をしてる間、鼓動を何とかして抑えようとする。
あまりにも好きだ。可愛すぎる。
もともと壊れそうになるくらい好きだったのに、今じゃもうそばに居るだけでフィルターがかかったみたいに坂田の周りがキラキラして見える。

もはや病気だな、俺。

苦笑いを浮かべながら、一番の出来にしようとココアを淹れ始めた。


‥‥‥‥‥‥
‥‥‥‥‥
‥‥‥‥


side:さかた


俺の恋人が可愛すぎる。

早くうらさんに会いたくて、大学終わってすぐに来ちゃったけど、やっぱり何度見ても可愛い。
あんな可愛いうらさんに攻められて昨日まで耐えきれてた自分が信じられない。

うらさんが戻ってくるのを待っている間、スマホを触っていようと携帯を取り出した途端、後ろから声をかけられる。
振り返ると、見覚えのある2人組の女の子だった。


「......っぁ、この前の」

「!覚えててくれたんですか......!」
「この前はありがとうございます......!」


ここの店に訪れた時に、うらさんと付き合ってるのかと聞いてきた2人組だ。


「どしたん?うらさん呼ぶ?」

「あ、いや、えっと......」
「お兄さんに聞きたいことがあって...」

「俺?」


首を傾げると、2人一緒になって興奮した様子でぐいっと距離を縮められる。


「定員さんとどうなったんですか......!?」
「ついにその時が来ましたか......!?」

「え、えっとぉ......?」

「何か店員さん、雰囲気いつもと違うなと思って!!!」
「そうそう!店員さん、お兄さん来る前までどこか上の空って感じだったけど、お兄さん来た後めっちゃ嬉しそうに微笑んでたし!」


よく見てんなぁ、なんて苦笑いを浮かべる。
まぁでも、ちょっとくらい浮かれてもいいかな。

なんて思いながら、唇に人差し指を当てて2人に向かって微笑んだ。


「ないしょ、ね」


「............ッッ!!?!」
「っぁ、は、はぃぃ......っ」
「ありがとうございました......っ」


真っ赤な顔をしてそそくさと立ち去っていく2人組に、またクスリと微笑む。


「?どした、さかた」


奥の部屋からカヌレとココアを手に持って帰ってきたうらさんが、そんな俺を見て不思議そうに首を傾げる。


「んふふ、なんでもあらへんで」


ヘラヘラと笑う俺に、変なの、なんて笑い返される。

『何か店員さん、雰囲気いつもと違うなと思って!!!』
『そうそう!店員さん、お兄さん来る前までどこか上の空って感じだったけど、お兄さん来た後めっちゃ嬉しそうに微笑んでたし!』

女の子の言葉を思い返しながら、俺の机にココアとカヌレの乗ったトレイを置いているうらさんを見つめる。
あまりに無防備なその唇に、俺は他のお客さんに見えないよう、手元にあるメニュー表で俺たちの顔を隠してキスをした。


「......ッッ、な......!!!?!」


真っ赤になって俺を見るうらさんに、俺は笑う。

もっともっと、俺に夢中になればいい。


これからは俺と、初めていっぱいの恋をしよう。


fin.

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