Truyen2U.Top - Tên miền mới của Truyen2U.Net. Hãy sử dụng ứng dụng 1.1.1.1 để đọc truyện nhé!

[R18][SakaUra] 【結論】恋愛において、障害はあればあるほど燃えるってこと♡

Author: しおん

Link: https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=18246909

--------------------------------------------------------

ーはぁ、はぁ、はぁ。


荒々しく首元で吐かれる、火傷しそうなくらいに熱い吐息。

男が腰を強く動かす度に大袈裟に響く粘着音と、身体中を貫く鈍痛。

「あぁっ...ふぅ、ふ、さいこー...」

気持ちよさそうに男が耳元で喘ぐ。

...本当に俺、この人の事、好きだったの?
俺の上で汗を垂らす男が一気に気持ちの悪い他人に感じた。
思い出せない。
告白した時のときめきも、この男を愛していた時の感情も...なんで今黙って抱かれているのかも。

痛い、痛い、苦しい、なにこれ、つらい。


己の快楽に必死な男は、引き攣った俺の声にも、頬を伝って流れた涙にも一切気が付く様子は無かった。

「ぅっ......はぁ......わたる...、イ」

「......っ、!!!......はっ、はっ、」

一気に意識が覚醒して、伏せていた頭を勢い良く持ち上げた。
...暑い。
クーラーが効いていて涼しいはずの室内で、異常なほどの量の汗をかいている。
己の荒い呼吸音の後にワンテンポ遅れて辺りの喧騒が耳に入ってきて、大学の食堂で居眠りしてしまっていたことを思い出した。

...空きコマだったからって、硬い机で昼寝はやっぱり良くなかったな。
寝覚め最悪だし、身体中痛いし、なにより、

(...久しぶりに見ちゃった、あの夢、)

思い起こしたらまた脳裏にあの光景が蘇りそうになって、慌てて頬を叩いて振り払う。
もう最悪、この後もまだ講義あるのに。
...まだ囚われたまんまの俺も、ほんと最悪。

暗い思考に陥ると、広い食堂の中にいるのに金魚鉢に落とされたみたいに息が詰まりそうになって、咄嗟に椅子を引いて立ち上がった。
まだ次の講義までちょっと時間あるし、気分転換がてら校内をふらつこう。

「あれ、うらさん?」

向かいの椅子に置いていたリュックを背負ったところで、聞き馴染みのある声に呼び掛けられて肩が跳ねた。

「そか、うらさんこの時間空きコマやったっけ。...どっか行くん?」

ぱちぱち、女子も羨む大きな目と涙袋が瞬く。
赤い髪が揺れて、食堂の中にだけ夕焼けが入り込んでしまったみたいだ。

「...うらさん?どしたん?」
「...あ、あぁ、ちょっと散歩、」
「散歩?ふふ、なんそれ、珍しいやん」
「うっせ別にいいだろ、そんな気分なんだよ」

ぶっきらぼうに返しても、坂田は嬉しそうに笑う。
俺は何だか寝起きの浮腫んだ顔を見られたくなくて、心做しか少し顔を伏せた。

「...お前も空きコマだったっけ」
「そぉ〜、やからレポート済ませちゃお思て!」
「そ。......じゃあな、」
「ぇっ...............あっ、待って!」

パシン、手首を思いのほか強い力で引かれて体が後ろへよろめいた。
ふらついた俺の体を坂田が慌てて支える。
ふわり、坂田の服から香った柔軟剤が鼻腔をくすぐった。

「あ......えと、やっぱり俺もうらさんと散歩行こっかなあ〜...なんて」
「は〜?レポートやるんじゃねぇの?」
「よう考えたら期限明後日までやったし、今急いでやらんでもええわ!...な、行こ?」
「...はいはい。言っとくけどなんも奢んねーぞ」
「な、奢り目的ちゃうわ!!」

無いはずの犬耳としっぽを揺らしながら俺の隣で嬉しそうに顔を綻ばせる坂田。


なぁ、坂田。お前さ、自分で分かってる?

どんなに離れた距離にいても、俺の事だけは一瞬で見つけてくること。
目が合うと心から嬉しそうに、顔を染めながら笑うこと。
今も俺を見つめる瞳が、話す声が、蜂蜜みたいに蕩けていること。

「あ、...ふふ、ここちょっと跳ねてる」
「っ...急に触んな、ビビる」
「あっ、ごめん」

壊れ物を扱うみたいに俺の髪を優しく撫で付ける手のひら。

俺は..."俺のことが好きな坂田"が、苦手だ。


坂田とはこの大学で知り合った。

出会いは至ってシンプル。
入学式のオリエンテーションで隣同士の席だった俺たちは、自然と2人で会話をするようになって。
趣味とか諸々気が合うことに気付いて、そこからはもう仲良くなるのは早かった。
良い親友、相棒。短期間でそんな肩書きが簡単に付いてしまうくらいには、俺たちは打ち解けて。

......そんな坂田との友人関係に影がかかったのは、出会って1年半くらい経ってから。
否、俺が影をかけた、の方が正しいか。発端はあいつの方からだったとしても。


「あ、さかたー。飲み物コーラとジンジャーエールあるけどどっちが良いー?」
「コーラにする〜」
「あいよー」

その日はいつものように坂田が俺の家に遊びに来ていた。
冷蔵庫には坂田がたくさん飲むから、って理由で家に常備してあるコーラと、俺の好きなジンジャーエールが詰め込まれていて、坂田はどうせコーラしか飲まないって分かってても一応選択肢を与えるのは恒例のこと。

「はい」
「あ、ありがとー...っ、」

さわっ。
ペットボトルを渡す時に、少し指先が触れ合っただけ。

ゴトン!!

坂田が勢い良く手を引いたせいで、行き場を無くしたペットボトルが大きな音を立てて床に落ちた。

「...ちょ、おい!落とすな、よ、」

「...ぁ、ごめ、......あはは、」

それは、今までに見たことのない顔だった。
顔を髪と同じくらい真っ赤にして、汗を流して。

...あ、この表情、知ってる。

(いや、いやいやいやいや。)

気の所為だと思いたくて、理解したくなくて慌てて坂田の顔から目を逸らす。
さも気付いていませんとでも言うように落ちたペットボトルを拾い上げて、今度は手渡しせずに目の前のローテーブルにコトンと置いた。

「ぁ、あの、うらさ、」
「今日何する?マリカー?それか何か映画見る?」
「...あ...じゃあ、マリカーやろや」
「ん、おっけー。...ほれ、コントローラー。」
「...ん、ありがと。」

坂田の隣に座って、ゲームを起動させてからも嫌という程に感じる熱い視線。
なぁ、視線ってお前が思ってるより感じるもんなんだよ。そう隣のヤツにおちゃらけて言ってやりたい。...でも、できない。また変な雰囲気になるのが嫌だった。

嫌だ、やめて。
坂田は俺のこと、好きにならないでよ。

コントローラーを持つ手が震えそうになった。
変な汗さえ出そうだった。

もうその日は、坂田とどんな会話をしたのかすらあまり覚えていない。

俺に恋する坂田は苦手だけど、相棒としての坂田は好きだ。
だからこそ、あからさまに避けて坂田との交友関係を断ち切ってしまうことはできなかった。
この大学でできた、数少ない友人だから。

「おぉー!!海やー!!」
「あぢぃ...」

今も「折角の夏休みなんやから、海でも行こや!」なんて呑気な坂田の誘いに乗っかって、電車に揺られて2人で真っ青な海岸へと来てしまっているのだから本当に世話が無い。自分でも思う。

海に誘われた時、「海なんて野郎2人で行ってどうすんだよ」って茶化してやろうとして、やめた。
家でのあの出来事から、変な雰囲気になりそうな言動をあからさまに避けていることは自分でも分かっていた。
流石に過敏になりすぎだって、自覚はしてるけどもう反射みたいなものだし。思春期の小学生かよ。...まぁそんな可愛らしいものだったら、どれほど良かったか。

「うらさん、浮き輪持ってきたん?」
「うん。海のど真ん中でぷかぷか浮くの、割と夢だった。」
「んふ、なんそれ、かわええ」

(っ............、)

あーーやめろやめろやめろ。
頼むからそんな甘い声色で話しかけるな、そんな甘い目でこっちを見ないでくれ。
こういうのは深堀しちゃダメだ。「可愛くない」なんてムキになって言い返したら「可愛いよ」って言い返されて、また変な雰囲気になるに決まってる。
...俺、ちょっと考えすぎ?もしかして結構恥ずかしい奴になってる?でも、用心するに越したことはないから。

「...つか泳げねーのはおめぇの方だろうが!浮き輪ちゃんと持ってきたんだろうな!?」
「...あ、やべ」
「なんでだよ!言っとくけど絶対貸さねーからな!」
「えぇ!!おねがぁい貸さんでええから掴まらせてやぁ!俺溺れ死にたくない!」
「浮き輪への接触料、1分につき500円になります」
「高!!!ぼったくりやん!!」
「なるほど、浮き輪なんぞ要らないと。流石ですねさかたさん」
「すみませんすみませんせめてハーゲンくらいにしてくださいうらたさま」

坂田とのテンポの良い掛け合いに、砂浜で騒ぐ人達の声と、波の押し寄せるざらついた音。
レジャーに来たって感じで、俺もなんだか気分が高揚してきた。
まぁ思い悩んでたって仕方ない。折角来たんだし、楽しまないと損だよね。

「早く行くぞ」
「ふふ、はいはぁい」

上がった気持ちのまま坂田の服の裾を掴んで海辺へと引っ張ると、坂田は頬を緩ませて笑った。
その瞳がまた甘く蕩けていることに気が付いて、俺は咄嗟に裾から手を離して坂田の方を見るのをやめた。

...これで坂田が俺の事好きじゃなかったら、完璧だったのにな。

我ながら最低な考えに、折角上がった気分がひとつ下がってしまった気がした。

「うわぁ!!ここ深い!!助けてうらさん!!」
「う゛わぁ゛っ!?バカてめぇ、急に掴むなひっくり返るだろ!!」

結果的に言うと、「坂田と変な雰囲気にならずに帰る」というスローガンは無事達成できそうだった。
なぜってコイツ、とにかくうるさい。
泳げない癖に浮き輪持ってきてないから深いところには俺無しじゃ行けないし、そもそも水に入ることに若干抵抗があったようで最初の10分くらいは海に入らず砂浜で歪な城を作っていた。
無理くり海に引き摺りこんでみたら、海水の冷たさに驚いて女子みたいな悲鳴を上げるわ俺の浮き輪にしがみついてぶるぶる震えてるわで正直情けないの一言。

「いやほんと...お前...なんで海なんか誘ったわけ...??」
「べ、別にええやんかぁ!夏といえば海やん!夏休みに海行かん大学生なんておらへ...ひっ、なんかデカい波来そうなんやけど!怖いて!!」
「......」

まぁ、むしろ良かったのかも。
これでずっと坂田が騒いでいてくれれば特に問題なく終わるだろ。

波にビビり倒す坂田に白い目を向けながら、何となく着ているラッシュガードの袖をいじった、ところで。

「うわぁ゛っっ、変な虫おる!!!!」
「ちょっさか、...!?!?」

ラッシュガードの裾をズボンの中に入れていなかったことを、今日ほど全力で後悔した日は無いだろう。
虫に驚いて急に俺の方へ身を寄せてきた坂田の手のひらが、ガシッ、と。

しっかりと、俺の腰(素肌)を鷲づかんだ。


「っっっっっ!!!!!!!!!ごっ、ごめん!!!うらさっ、」

ビクッ、と肩を跳ねさせた俺と、手のひらに伝わる素肌の感触にワンテンポ遅れて坂田が飛び退いた。
と言っても坂田は泳げないので、浮き輪を掴んだまま上半身だけ仰け反るというだいぶ滑稽な体勢だが。

「......」
「そ、その...うらさん...??」
「......」
「えーと...もしかしてぇ...照れ」
「俺腹減った」
「えっ」
「焼きそば食いたい。戻る」
「え゛っそんな急に!?!?ちょ、待って置いてかんで!!」

ああ、ほんとお前なんか海に置いてってやりたいよ。俺の浮き輪に接着剤のごとく引っ付いてるから剥がすことも出来ないけどさ。

ほんと、男の腰ちょっと触ったくらいで赤くなんなよな。初心にも程があんだろ。
つか隙あらば変な雰囲気に持っていこうとすんなし。ばーか。

脳内で止まらない悪口を零しながらも、何故か熱を持っている気がする顔を冷却するかのように海面に浸した。

そこそこ行列ができていた海の家でやっとのことで焼きそばとかき氷を手に入れて、自分たちの陣地へと足早に戻る。
やっぱり夏真っ盛りだから気温もとても高くて、買ったかき氷がすぐ溶けてしまいそうだったから。

砂浜に敷いたレジャーシートの上に2人並んで座り込む。
目先でキャーキャーと楽しそうな声を上げながらはしゃぐ若者たちの姿を見て、なんだかんだで友達と海って来たこと無かったなぁ、と今更すぎる考えを巡らせた。

「かき氷溶けちゃいそうやから、先食べちゃお。うらさんメロン味よね?」
「うん」
「ほい。」
「ありがとー。お前それいちご?」
「おん。定番やろ?」

かき氷持ち運び係だった坂田から、緑色のシロップがかかった冷たい容器を受け取る。
待ちきれなくていそいそとプラスチックのスプーンを口に運ぶと、口内にキーンとした冷たさが広がった。

「ん゛〜〜!」
「あは、キーンってしとる。」
「...お前も早く食え」
「...ぁ、そうやね。いただきまーす......ん゛ん゛...!!」
「ぶは、お前もキーンしてんじゃん」

この猛暑の中で食べるかき氷は格段に美味しい。目の前に広がる景色が青い海だっていうのもあるだろうけど。

無心でシャクシャク食べ進めていると、隣の坂田がぴたりと急に動きを止めた。

「あんさー...、かき氷のシロップって、実は全部同じ味やって言うよね。」
「...あぁ、まぁ、聞いたことはあるけど。普通に嘘なんじゃね?」
「えーそうかなぁ。なんや気になってきたわ。ね、食べ比べっこしようよ。」

ピタ、思わず俺も動きを止めた。
...まぁ、一口交換するなんて友人間でもよくやる事だもんな。別におかしいことじゃないし。
すぐ考えすぎてしまいそうになる頭を慌てて振り払って、ずいっとかき氷の容器を坂田に差し出した。

「...一口だけだかんな。つかあんま取んなよ」
「もーそんな欲張らへんて!てかそれはうらさんの采配やろ?」
「は?」
「へ?」

.........

「...いやなんで俺の采配なんだよ。好きな量取ればいいだろ」
「え??いや、だって掬うのうらさんやし............あ゛っっっっっ」

ハッ、と何かに気付いて一気に顔を真っ赤にして口を抑えた坂田に、俺も遅れてコトを理解した。

(...こいつ、さてはあーんしてもらおうとしてたな......)

どこまでもリア充思考でほんと呆れる。
俺たちカップルじゃねえし。食べさせてやる必要なんて1ミリも無いわけで。

「ぁ、あはは...俺なんか勘違いしてた...?はずー...」

手のひらでパタパタ顔を扇ぎながら、目線を明後日の方向へ向けてキョドる坂田。
しかしその間もチラ、チラと何かを期待するようにこちらをチラ見してくるので胸の中がムズムズしてくすぐったい。
...ほんと意味わかんない、なんで俺らこんな付き合いたてのカップルみたいなやり取りしてるわけ?
心臓がムズムズする。そのまま叫んで海の中に飛び込みたいくらいだ。

(...違う、これは、嫌なムズムズだから。)

そのまま無意識にスプーンを坂田の口へ運ぼうとして、慌てて止めた。

「...ばーか甘えんな!!とっとと食え!俺ちょっとトイレ行ってくる!!」
「えっ!?ん!?ちょ、それなら俺も」
「お前はかき氷番だ!!保冷しとけ!」
「えええそんな無茶なぁぁぁ」

うらさぁん、なんて背後から聞こえてくるへにゃへにゃな声を無視して、ずかずかと足を進めた。
溶けないうちにかき氷を食べることなんて、最早どうでも良くなっていた。
むしろ今は、かき氷が溶けきってしまうまで坂田の元へ戻りたくなかった。

(バカ、やめろ、浮つくな。)

俺はもう、マトモに恋できる人間じゃないのに。

「あー楽しかったぁ。やっぱ海はええなぁ!」
「溺れかけてた人が何か言ってる」
「う゛、もう忘れてや...かっこ悪いやん...」

時はあっという間に過ぎて、ふたりで夕暮れの茜色に染まった家路を歩く。
俺たちが仲良くなったひとつの要因で家がとても近いので、最寄りの駅を降りてからも進む方向はふたりとも一緒なのだ。

数分歩いたところで、いつも通る小さめの公園が目に付いた。

「...歩くの疲れたし、ちょっと休んでいかん?」
「ん、いいね。何か自販機で買お」

コーヒーとかカフェオレとか、そんなオシャレなものは買わない。
公園の入口にある自販機でいつも通り坂田はコーラ、俺はジンジャーエールを購入して、木製のベンチに並んで腰掛けた。
既に夕暮れ時だからか、公園には俺たち以外誰もいなかった。
それが余計にリラックス感を増幅させて、足を伸ばしてふぅ、と小さく息をつく。

「んふ、疲れたねぇ。」
「ん。浮いてただけだけど結構体力持ってかれた気がするわ。」
「いやーほんま浮き輪持ってかんかったのは失敗やったわぁ。もうちょい泳げると思ったんやけど」
「お前、でかい波来た時すげぇ顔してたもんな。ふふ、超面白かった」
「あー人の不幸楽しんでるぅ!そんな悪いうらさんにはこうや!!」
「わっ、ちょ、くははっ!!やめろ、突つくな、くふふ」

軽いじゃれ合い。別に珍しいことじゃない。
...珍しいことじゃないのに、海で遊んだ高揚感がまだ抜けきっていないからか。今日はいつもより空気が、甘い気がして。
いつもやかましい坂田がなにも喋らなくなったことに気が付いて、ふ、と顔を見上げてしまった。

(ーーあ、......)

いつもみたいに大口開けて笑っているかと思ったのに、坂田は笑っていなかった。
嫌に真剣な顔つきで、それでいて目付きは柔らかくて。
...腹を決めた、そんな男の顔だった。

雰囲気が、ガラリと変わって。
どくん。血液の巡りが一気に早くなる。

(ダメ、ダメだ、この顔は)

咄嗟に顔を伏せて、必死に言葉を探す。
どうしよう、何か、何かこの雰囲気を壊せる話を。
ぐるぐる思考が巡って、坂田からの熱い視線と雰囲気に目が廻ってしまいそうになる。

「...そ、そういえば!この前俺の弟が面白いことしててさ、」

「.........」

「結構さいきんのことなんだけど、そ、それで、」

「......」

「...ぁ、ぇと、.........ぁ......んぅ、」

頬にそっと手を置かれて、音も無く、掬いとるように重ねられた柔い唇。

その瞬間だけ、周りの虫の鳴く音が一切聞こえなくなった。

時間にしたら、ほんの5秒だけ。
リップ音もたてずにそっと唇を離した坂田は、すり、と俺の目尻を親指でなぞった。

「ま、って、さか、」

「待たん」

また首をゆるく傾けた坂田に、言葉だけの拒絶をする。
伸ばした手は簡単に絡め取られて、無理矢理坂田の背中に回された。
背中に置いた手のひらから伝わる坂田の煩い鼓動。でも俺もきっと、人のこと言えない。

「ぁ...ン、ン...んぅ、」

頬にあった坂田の手が後頭部に移動して、唇を食べるみたいなキスを繰り返される。
舌が入ってこないのは、坂田なりの線引きなのだろうか。がっつりキスしておいて変なところで踏みとどまる奴だ、と酸素の足りなくなってきた脳でぼんやり考えた。
陽も落ちて、薄暗い闇が包み始めた人気の無い公園で口付け合う俺たちを咎めるものなど何も無い。

「...すきや、」

唇を離した坂田は、蒸気した頬のままそう告げた。

「すき、うらさん」

「っ.........、」

見詰めてくる真っ赤な瞳から目を逸らせない。
頷いてしまいたい気持ちが一瞬顔を出しそうになって、それからすぐにハッとした。
ダメだってば。お前はもう綺麗な心も体も持ってないんだよ。
頭の中で悪魔が語りかける。
返事をしない俺に焦れたのか、両手をギュッと強く握り締められて体が跳ねた。

「だ、め」
「......」
「お前とは、付き合えない」

握られた手を押し返して、あからさまに顔を逸らすと坂田が顔を顰めたのが視界の端に見えた。

「......なんで?」
「......」
「俺の自惚れやったら殴ってくれてええんやけどさ。...うらさんも、俺のこと、」
「ちっ、違う!俺は!」
「そんな赤い顔で言うても、説得力無いよ」
「っ......」

ぐいぐい腕を突っ張ってみても、坂田は気にせず距離を詰めてくるばかり。
もう全て話してしまえ、全てさらけ出して汚い奴だって引かれてしまえばいい。
悪魔が、また囁いた。

「...いの」
「え、?」
「っ、俺!!えっちできないの!!!怖いの
!!!嫌いなの!!!!!」

ぽかーん。

そんな効果音が頭上に付きそうなくらい、あほ面で固まってしまった坂田。
そりゃそうだ、このムードで急にこんなこと叫ばれたら固まるに決まってる。
数秒遅れて言葉の内容を理解した坂田は、ボンッと顔から煙を出して慌て始めた。

「えっ、えええええぇえっ、ぇっ??え、っち!?!?!?!?!?!?」
「うるさい!声でかい!」
「いやうらさんの方がでかいと思うけどぉ...」

「高校のとき付き合ってた人とえっちしたらすっげぇ痛いし気持ちよくないし、なんか一気に冷めちゃったし、何が良いのか分かんないの!付き合ったら絶対いつかはえっちしたくなるもんでしょ!それが俺はできないって言ってんの!俺はもう誰とも付き合えないの!分かれ!バカ!」

坂田が悪いわけじゃないのに、意味の無い罵倒が止まらない。もう自分でも何言ってんのか分かってない。
もっと言ってやろうとしたところで、ぎゅ、と温かい体に包まれて、出かけた言葉が喉に詰まった。

「ごめん、辛いこと言わせてもたな」
「っばか、」
「うん、ほんまごめん。ごめんなぁ。話してくれてありがとう」
「......おれも、急に取り乱してごめん」

ずび、と無意識に鼻をすすったところで、自分が今泣いているのだと気が付いた。
俺、泣くほど元彼アイツに囚われてたのか。優しく背中を摩る温かい手のひらに、ドクドクしていた心臓がだんだんと落ち着いてきた。
...なんか、俺めっちゃ恥ずかしい。

「...な、うらさん。俺うらさんに言わなきゃいけんことあるんよ。」
「...ん、なに?」

そっと体を離されて、至近距離で坂田と目が合う。
嫌に緊張した顔つきをしていたので、何か悪いことを言われるのかと自然と身構えてしまった。

「ぉ、おれ、......へんねん、」
「...?ごめん、なんて?」
「お、俺!!勃たへんねん!!!!!」

「........................ほぁ?????????」

...............

「い、一応聞いていい?何がたたないの?」
「なにって、そりゃナニやろ!!!!」
「ちょ、ちょっと落ち着」

何これ、なんかこの展開デジャブなんだけど。
さっきまでの俺ってこんな感じだったのか。自暴自棄良くない、気を付けよ。

「...そういうことするってなっても、何でか俺勃たへんねん...、いや普段は勃つんよ!?でもいざって時だけ...」
「...ふぅん。」

半信半疑の中で、坂田の過去の恋愛やら性事情を聞かされてモヤモヤとする胸の中。
俺だってさっき同じようなこと話したくせにね。
むくれた俺に気が付いたのか、坂田は慌てたように両手を胸の前で振った。

「あ、ちゃ、ちゃうよ!恋人とか別に好きだった人とかやなくて、なんかえっちな先輩に流されかけてそんな雰囲気になったっていうか...まぁ結局勃たんかったけど......お、俺はうらさん一筋やからっ!!!」
「うるせえ!別に気にしてねえしそれはそれでサイテー!」
「ごめん!!!!!」

詰め寄ってくる坂田の頬をべちん!と押し返すと、ハムスターみたいに口をモゴモゴさせるので面白くてぷっ、と笑いが漏れた。
...ぶっちゃけモヤモヤはしてるけど。
少し笑った俺に安心したのか、へにゃりと表情を和らげた坂田は、「そ、それで本題なんですけど。」と謎に仰々しく言葉を紡いだ。

「うらさんは、その、そういうことするのが怖いんやんか。......うわちょっと待って、なんか時差でモヤモヤしてきたわ。うらさん誰と付き合ってたん??男??」
「うわめんど。...それは今度話すから。んで?なに?」
「...うらさんはえっちが嫌い、俺はえっちで勃たない......そうつまり、俺とうらさんは奇跡の相性というわけや!!!」

「............」

「そんな引いた目で見んといて!?!?やってそうやん!俺はうらさんに挿れたくても挿れられんのやからうらさんも変な心配せんでええやr」
「うわぁぁ!!!!!おまえほんと!!変なところでデリカシー無いな!!」
「ぶへっっっ」

反射でつい今度はしっかり頬をビンタしてしまい、坂田が後方へ吹っ飛んだ。
いてて、と腰をさすりながらぶすくれている坂田を横目に、先程の坂田の発言を脳内で反芻させる。

(奇跡の、相性...)

アホなネーミングセンスだって貶すよりも先に、自分の中で嬉しさがじわじわと湧いてきていることに、見て見ぬふりはできなかった。
結局俺だってしっかり坂田に惹かれてしまっていたんだって、今まで必死に目を逸らしてきた事実を噛み締める。

横に座り直して機嫌を伺う犬みたいにこっちの表情を伺ってくる坂田が何だかたまらなく愛しい。

横を見ずに、正面を向いたままそっと坂田の手に自分の手のひらを被せたら、隣のソイツはあからさまに嬉しそうに頬を緩めた。
被せた手を絡め取られて恋人繋ぎにされて、しばらくそのまま薄暗い公園のベンチに座って静かに虫の音を聞いていた。

...お互い顔を見合わないのは、きっと単純な照れ隠し。


.................................

「ねぇ、わたる...良いでしょ...?」

「ゃ...、」

「なに、嫌がるフリ?いいね、逆に燃えるじゃん」

嘘の拒絶と本気の拒絶の違いも分かんないの。
いつもいつもところ構わず絡んできて...

俺、本当にこの人のどこを好きになったんだろう。

「ね?わたるは俺のこと好きだもんね?」

「......うん」

あれ...?そもそも告白って、どっちから...したんだっけ...

暗転。

「っ......!!! ......はぁ...またかよ...」

深海からもがいて一気に浮上したみたいな、息苦しい独特の感覚。
前回の反省から学ばずにまた食堂で寝落ちした挙句に、また懲りずに同じ夢を見て。

(...もう顔も朧気なレベルなのに、しっかり記憶には根付いてるんだからタチ悪いよな。)

普通の夢はすぐ忘れるのに、アイツの夢だけは起きてもずっと覚えてる。
頭を軽く振ってみても周りの学生の喋り声に耳を傾けてみても消えないあの顔と声に、終ぞ嫌になって立ち上がった。

気分転換にぶらぶらするか、って考えたところで、この前と同じ展開になっていることに気付いて何だか笑ってしまった。

(前はここにさかたが来て...結局一緒に散歩したんだっけ)

あいつのあほ面がぼんやりと頭に浮かんで、自然と頬が上がる。
マスクしてて良かったな、なんて考えながら、視界の端に写った馴染みのある赤色に目線を遣った。

「あれっ、うらさん。」
「...ふふ。よ、さかた。」
「また寝てたん?あー、ここ跡ついとるぅ」
「ん...さかたもここ、寝癖ついてる。また直してこなかったな?」
「やって直してこんかったら、こうやってうらさんが頭撫でてくれるやろ?」
「...ふは、なにそれ、策士ってこと?」

前と同じ場所、同じ展開。
でも、俺たちの関係は前とは比べ物にならないくらい劇的に変わっていて。
すり、と頬を指でなぞられたので、俺も背伸びして坂田のぴょんと跳ねた寝癖を撫で付ける。
そんなバカップルみたいなやり取りも平然としちゃうような、甘い関係。

「散歩行くん?俺も行くー。」
「ん。...て、繋ぐ?」
「...!!繋ぐ!」
「ちょ、待て荷物持ってから!」

坂田と恋人になってそれまで制御していた感情リミッターが外れた俺は、それはもう坂田も驚くレベルに甘えることが多くなった。
坂田も満更でもない顔で受け入れて、俺の上を行くベタベタを発揮してくるのだから完全に巷じゃ有名なバカップルだ。
俺ってこんな甘えたいタイプだったんだなって、新しい発見をしたのと同時に生まれた疑問。

(俺って元彼にこんな甘えてたっけ...)


「なぁに考えてるん」
「...ん?...いや、前も同じようなことあったなぁって」
「んふ、せやね。......でも、全部同じって訳じゃないやろ?」

ぐい、と繋がった手から引き寄せられた体。

見上げた視界が陰って、ふわり、優しく唇を塞がれる。

「ん......、」
「.........」

坂田の柔軟剤の匂いが香って、どくんと心臓が跳ねた。
...坂田の唇の柔らかさには、いつまでたっても慣れる気がしない。

「...もう、大学内はやだってば、」
「ええやん、こんな裏庭誰も来おへんよ」

誰に見られてるかも分からないところでキスしてくる坂田も坂田だし、しっかり坂田の首に腕を回している俺も俺。


...もはや今の俺たちに無いのは、体の繋がりだけだった。


「ここの信号を右に曲がって...で真っ直ぐ...」

現在時刻、21時。
手元にはいつもお世話になってるマップのアプリ。
画面内で赤いピンが刺さっている到着地に向けて勇み足で向かう俺、うらたわたる。

(あ......ここ、かな)

スマホの画面に表示された【目的地です】の文字を見てから、顔をゆっくり上げる。

洒落た装飾が施された、モノトーンを基調とした外観。
扉に覗き窓は付いておらず、代わりに『open』と書かれた札が下げられていた。
一見すると、何の変哲もないオシャレなバー。

しかし俺の心臓はどくどくと早鐘を打ち始める。
いや、これだけ緊張していても無理はないと思うのだ。

...なんせ初めて、"ゲイバー"なるものに来たのだから。


予め断言しておくが、決して浮気などではない。ここに来たのは、ちゃんとしたふしだらでない目的があってのことだ。
ー最近顕著になってきた疑問を、晴らすため。


ドアノブを握って、ひとつ深呼吸。

(......よし、)

ゆっくり扉を押すと、取り付けられた鈴がカランと音を立てた。
中にいたのは店主らしき人と3人のお客さんたち。ドアの音に気が付いた彼らがさっ、とこちらに目線を遣ったので反射で体がカチンと固まった。

「.........」
「...あ、の...どうも...」

店主さんらしき人が、つかつか無言で近寄ってくる。
うわ、近くで見たらかなりガタイの良い人だ。刈り上げたイカつい髪型に、鍛えあげた筋肉が目立つタンクトップ1枚のなんとも心もとない格好。
眉を顰めてこちらをまじまじと眺めてくる体躯の良い男に、俺はシンプルに恐怖を感じた。えもう既に帰りたい。やっぱ来なきゃ良かった。めっちゃ怖いんだけど。ヤクザ??

「...そ、その...」
「...やぁだ〜!!!!!!!!!超可愛い〜!!!!!!!!!!」
「えっ」

目の前の男から想像もできない猫なで声が聞こえたと思ったら、言うやいなや手首をガシッと掴まれる。
抵抗する間も無く手を引かれるまま「はい、ここ座って♡」と、なんと他の客の間のカウンター席に座らせられ、俺の脳内はもうスペキャ状態だった。

「この店初めてよね〜?お名前は?」
「あ......う、うらたです。浦田、わたる、」
「あら可愛い名前。じゃあわっくんね♡
一応聞くんだけど、この店が"ソウイウ店"だってことは、わっくんちゃんと分かってるのかしら?」
「わ、わっくん...??あ、それは...ちゃんと分かってます。」
「あらそぉ!!嬉しいわぁ〜〜、最近若いお客さんなんて滅多に来ないのよぉ!もう超大歓迎しちゃう、ゆっくりしてってね♡アタシのことはママって呼んで♡」
「ぁ、ありがとうございます、」

カウンター越しに手を差し出されたのでおずおず握り返すと、力強くぶんぶん振られて普通に腕が痛い。
...でも陽気な店主さん...ママで良かった。見た目とのギャップ激しすぎるけど。
少し肩の荷がおりた気がして、ふぅと少し息をついた。
何を飲むかと尋ねられてジンジャーエールをお願いしたら、謎にママからも周りの客からも「可愛い〜」と言われて本気で意味が分からない。俺は本格的に未知の世界に来たのだと、何だか実感させられた気分だ。...ジンジャーエール飲むだけで普通可愛いって言わないし。しかも男に。

「はじめまして」
「...あっ、はじめまして、」
「ゆうたです。気軽にゆうたって呼んでね、わっくん。」
「...その呼び名恥ずかしいんですけど...」

出されたジンジャーエールを吸っていると隣に腰掛けていた男性から急に声を掛けられた。
年は、30くらいだろうか。オシャレなスーツが似合う清楚な感じの男性だった。

「ふふ、いいじゃん可愛くて。...わっくんは彼氏いるの?」
「ブッッッ」

二言目に交わす話題がそれ!?!?
思わず吹き出したジンジャーエールを慌てて拭きながら熱くなった顔を冷ます。
思えば今までまともな恋バナなんて友達とかとしたことなかったから、こういうこと聞かれるの新鮮かも。しかも、"彼氏"って。

「ちょっともーゆうた、わっくん初めてなんだからお手柔らかにしてあげなさいよ〜」
「え〜だってママも正直気になってたろ〜?俺が代表して聞いてあげたんだって!」
「ばーか、シンプルにお前も気になってただけだろ〜??」

「ぃ、ます...一応...」

会話に割り入るように、ボソ、蚊の鳴くような声で小さくそう呟くと、バッと全員の視線が一気にこちらに向いた。
えっ、怖い。

「やだ〜!!!!!可愛い顔してオトコはしっかりゲットしてんのね!?」
「なぁんだ、男持ちかぁ〜」

目を輝かせるママ、あからさまに落胆した様子のゆうたさん。
えーどんな人どんな人?写真とかある〜?と興味津々の様子のママに、俺は今日来た目的を果たそうと向き直った。

「その...ママとか皆さんに、聞きたいことがあって」

ママは最初きょとん、とした顔をしていたが、すぐに「あら、なんでも聞いてちょうだい」と微笑んでくれた。
ママの微笑みに後押しされるように、ゆっくり言葉を紡ぐ。

「......やっぱり"初めて"ってめっちゃ痛いもんですか!?」

一瞬、店内が静まり返った。

「いやんそっち〜!?そっち系のお話しちゃう〜!?やだちょっともう、それならそうと早く言ってよ!ちょっとゆうた、電気の色ピンクにして!」
「もーママ、気分に合わせて電気の色変えるのやめなって〜」

興奮したようにアタシも飲んじゃお、と言いながら自分の分のお酒を作り始めたママに、とりあえず引かれなくて良かったと安心した。
...やっぱりこういう話も結構したりするのかな。

「で、なんだっけ?初めてが痛いかどうかよね?そんなん痛いに決まってるわァ、当たり前じゃない!女も男も初モノ捧げるにはそれなりの覚悟がいるってもんよ」

「わっくんはその今付き合ってる彼氏とシてみたい、ってこと?」

「...いえ、ちょっと違くて」

それから俺は、高校の時の彼氏について赤裸々に話した。
初めてがとんでもなく痛くて怖かったこと、行為後は一気に気持ちが冷めてしまったこと。それから行為が怖くなって、恋愛すること自体避けていたこと。...今は坂田と付き合っていること。
自分でもびっくりするくらいするする言葉が出てきて、俺はずっと誰かにこの事を相談したかったんだって実感する。
話し終わって顔を上げると、ママとゆうたさんは険しい顔をしていた。

「...そりゃ最初からお尻で気持ちよくなるなんてよっっぽど才能のある子以外ありえないし、初めてはもちろん痛いもんよ?でも正直そのわっくんの怖がり方はおかしいわ。」

「ねぇわっくん、ちょっと踏み込んだこと聞くんだけど。挿入する前にちゃんと解してもらった?」

「ほぐす...とは?」

挿入、という直接的な言葉に照れるより先に、聞き慣れない単語が聞こえて思わず首を傾げると、ピシッと2人が固まった。

「え、ちょ、まさか......普通挿れる前に指なり道具なりでおしりの穴柔らかくすんのよ!女相手でも常識よコレは!!」
「え...そんなことしてもらってないです、ちょっと前いじって、すぐ...」
「ギャー!!!!!!そりゃ痛いはずよ!!ありえない!!!その元彼もわっくんも!!!!」

絶叫して酒を煽るママに、やっぱりあの激痛は普通ではなかったんだと少し、いやかなりホッとした。
俺が出来の悪い体のせいだと思っていたけど、やっぱりやり方が悪かったんだ。元彼も、俺も。

「それはトラウマになるよ...かなり痛かっただろ、可哀想に。」
「はは、かなり...。」
「......で、も〜〜〜〜、わっくんさぁ〜〜、今更それが気になってココに聞きに来たってことはぁ〜、今はえっちシてみたくなっちゃったってことでしょ!!」

ギクッ。

...そう、実はママの言う通りで。
坂田と付き合ってからと言うもの、あんなに怖くて嫌いだったはずの行為に逆に興味が湧いてきて。
もしかしてあれはやり方が悪かったんじゃないか、とか、もしかして坂田となら...とか考え出したらいよいよ止まらなくなってしまった。
...まぁこんなこと考えたところで、坂田は勃起できないから行為できるはずがないんだけど。

「そんなに気を許すくらい、良いオトコってわけね。羨ましいわぁ〜そんな彼氏!」
「...はい」

やばい、ニヤけそう。
彼氏の惚気とかしてみたかったんだよね、俺。

「その気持ちをそのまま彼氏くんに伝えてみたら?喜ぶと思うよ」
「あ.........」

さっと顔を暗くした俺に、ゆうたさんは首を傾げた。
改めて考えてみても、俺ってやっぱりめちゃくちゃ自分勝手だな。行為が怖くてプラトニックな関係を築ける坂田と付き合い始めたのに、やっぱりしたくなりましたー、なんて。
坂田に言ったら、きっと引かれるに違いない。

「その...彼氏...勃たない、みたいで...」

ポロッ。

ゆうたさんが持っていた箸を落とした。

...............

「なるほど...つまり完全にプラトニックな関係でいることを約束した上での関係のようなものだってことか...」

面白い話もあるもんだね、と一周まわって感心し出したゆうたさんに苦笑いする。

「だから俺が悩んだところで結局どうにもならないんですけどね...はは、すみません、いっぱい話聞いてもらったのに、」

なんだか急に申し訳なくなってきて、顔が自然と下を向く。
ママもゆうたさんもこんなに親切なのに、俺この店でずっと俯いてる気がする。すごく暗いやつだと思われてるだろうな。
氷が溶けて薄くなったジンジャーエールをひと口飲んだところで、ぽん、と頭に大きな手のひらが置かれた。

「わっくん、これはアタシの勘だけどね。心配しなくて大丈夫そうよ。きっとうまくいくわ。」

「そりゃ良かった。ママの勘はよく当たるからね」

「そうそう。ゆうたが引っ掛けてきたオトコノコを"悪いこと言わないから関わんの止めなさい"、って忠告したのもママだったもんなぁ。」

「あれ?結局その子スリ常習犯だったんだっけ?気があるように見せかけてホテルで眠らせてめぼしいもの持ってトンズラしちゃうっていう...」

「ワー!!!!!!その話はやめろって言ってるのに!!!!!!」

「...ふふ」

ぎゃあぎゃあ騒ぎ始めた面々に、思わず小さく笑いが漏れた。本当に楽しくて良いお店だなぁ。ゲイバーって閉鎖的っていうか、鎖国的なイメージがあったんだけど完全な偏見だったみたい。
今後もちょくちょくお邪魔したいな。

「あら、笑った方が100倍可愛いわよ。...難しく考える必要無いの。隠しごとばかりの恋愛なんて、シンプルにつまらないじゃない。」

ね!
そんなウインク付きのママの言葉に、何か大きな重荷が体から外れた気がした。
...なんか、坂田に会いたくなってきたな。


彼氏さかたの惚気は今度聞いてもらおう。
椅子を引いて立ち上がると、ママは呆れたように笑って手元のグラスを揺らした。

「ほーんと、言葉じゃない惚気ってあるのねぇ。...お代はいらないわ、初回サービス♡その代わり、次来る時は彼氏との土産話、ちゃんと持ってくるのよ。」


..............................

プルル...プルルル...

「...あ、もしもしさかた?...うん、なんか急に話したくなった。......はー?ばーか。......そー、今外。めっちゃ涼しいよ。...ふふ、うん、......」


チッ、チッ、チッ。

テレビの音も、雑音も一切聞こえない、空調の音のみが微かに聞こえる静かな寝室の、ベッドの上。
壁にかけられた時計の針が淡々と時間を刻む音を立てる中ーーー

「...ほ、ほんとに、ええんやね?うらさん」

「...ん。ものは試しだろ」

正座して緊張した面持ちで(なぜか)正座で向かい合う俺と、坂田。

そう、今夜こそ、決戦の時ーーーーーー...


ゲイバーを訪れてから数日後、俺は勇気を振り絞って坂田に胸の内を明かした。
遠回しに言っても内容的には「さかたとセックスしたいです!!」っていうことだし、正直火を吹きそうなくらい恥ずかしくて終始坂田の顔は見れなかったけど、早口で話し終えて恐る恐る見上げた視界に入った坂田は、ほろほろ静かに涙を流していて。
「嬉しい」、「ありがとう」、「そんな考えてくれてたんやね」って強く強く抱き締められて、なんだか俺も吊られて泣いた。

その後、ほんとにほんとにめちゃくちゃ恥ずかしかったけど、ふたりで一緒にネットで男同士の正しい行為の仕方を調べた。
坂田も顔を真っ赤にしてたけど、大事な事だからって真面目な顔をして記事を見てて。
そんな横顔を見て、前まで心を蝕んでいた行為への恐怖が一気に霧散した気がした。やっぱり、坂田とならどんなことでもしてみたいって。

...まぁ一番の問題は解決してないんだけど。

(そう、何より坂田が勃つかどうか...)

お互いの都合の良い日を教えあって...まぁ大学生の俺たちにとって、予定が合わない日の方が少ないんだけども。
金曜日、しっかり次の日に予定がない曜日を選んで、坂田の部屋でお泊まりのプランを組んだ。
...ほんと、生々しすぎて今考えても恥ずかしい。

まぁ坂田が万が一勃たなかった時用にって、ネットショッピングでディルドを購入したのが個人的にはいっちばん恥ずかしいけど。
お前はそれでいいのかよ、って真顔で言ったら、「俺は正直挿れらんでもうらさん気持ちよくできたらそれだけで満足やわ。好きな子自分の手でイかせるのって夢やんk」なんて言うので秒で殴っておいた。
俺、どっちみち突っ込まれることは確定してんのかよ。...別にいいけど、やっぱり願わくば坂田のがいいな、なんて絶対口には出せないことを思ったりして。


「えと......キス、してええ?」

「...そういうのって聞くだけ野暮だと思う」

「そ、そか...じゃあ失礼して...」

「ふは、会社員かよ。いつもふつーにしてんじゃん、ふふ」

そっと、いつも以上に優しく重ねられた唇に大人しく目を閉じる。
最初は唇同士をくっつけるだけ、お互いの呼吸音のみが微かに聞こえてくる唇の感触をゆっくり感じるような静かなキス。
そこから坂田が俺の後頭部に手のひらを回したら、深くなるよっていう合図。
俺も来て欲しい、っていう意味を込めて、坂田の首にゆっくり腕を回す。

「ん......ん...ぁん...ふ...、」
「ん...ン、」

ぬるりと入り込んできた舌に、引くんじゃなくて自分からも絡めに行く。
セックスで大事なのは、お互いの感触を確かめ合うこと。どちらか一方じゃダメ。お互いがお互いに、触れ合うこと。
これも、坂田と記事で学んだことだ。

くちゅ、くちゅ、水音が部屋に響き始めた。
口内で這い回る坂田の舌にだんだん追いつかなくなってきて、酸欠ではふはふと口の端から息が漏れる。
上顎を舌先で撫でられて体の力が抜けた拍子に、ゆっくりふかふかなベッドの上に押し倒された。
重力で腕が降りてしまったので、坂田の服の裾を力なく掴む。

「んッ......ふ、はぁ、......ふふ、さかた体ガチガチ。緊張してんの?」
「そりゃするに決まっとるやん......好きな子とスるのなんて、初めてやもん...」
「力抜こ?記事にも、緊張してると勃ちにくいって書いてあったでしょ。」

坂田の頬に手を当てると、すり、と擦り寄ってくるのが犬みたいで可愛い。
坂田も真似するみたいに俺の頬に手を当てて優しく撫でさすってきたので、擽ったさで笑いが零れた。

「...うらさん、脱がせていい?」
「ふふ、だからそういうの聞かなくていいってば。...さかたなら、何してもいーよ。」
「っ......も、ほんまこの人...っ、」

正直俺も、怖さとかでガチガチに緊張すると思ってた。
でも空調の効いたこの部屋で顔を真っ赤にして汗を流しながら必死に俺の伺いを立てる坂田を見ていたら、なんか怖がるのもバカバカしくなってきて。
今は、もたもたと俺のシャツのボタンを外している坂田への愛しいがいっぱいだ。

「ほぁ......ちくびかわいー...」
「...あんま見られると隠したくなっちゃうんだけど......ひぃあっ!?!?!?」

肌蹴た俺のシャツの間から覗いた桃色のそれをしばらくまじまじと眺めていたと思ったら、身を屈めてはむ、とそれを咥えられたので、つい悲鳴を上げる。
覆われた唇の中でチロ、チロ、と控えめに坂田の舌が乳首を舐るので、堪らなくなって身をよじった。

「ぁっ、!い、きなり舐めっ...、んんぅっ...」

ちゅぱちゅぱ、赤ちゃんがしゃぶるみたいな、まだ色気も全然無い舐め方なのに。坂田に舐められてるって考えるだけで、意味が分からないくらい顔が熱くなった。

「こし...」
「ん...、??」
「前、海で腰掴んじゃったときから思ってたんやけど...細くて折れちゃいそう」
「ふは、折れねーよ。...ほら、もっと強く掴んでいいから、」

片手でつ、と腰をなぞられる。
本当に壊れ物を扱うみたいな手つきにじれったくなって、もう片方の手を無理やり腰に誘導してやると、坂田は少し体を震わせた後、ごくりと唾を飲み込んでそっと俺の腰を両手で掴んだ。

「...くふ、やっぱ擽ったい」
「......」
「あ、こら、おへそはだめ...ぅ、」
「記事にも書いてあったやん、まずは恋人の体をたくさん触りましょう、って......。俺、うらさんの体なら腰でもおへそでもどこでもいっぱい触りたい」

強請るような視線と甘えるような声に、かぁっと体温が昇った。そうだ、こいつはこういうことは直接言ってくるタイプだった。

「...どこでも、触っていいから。そのぶん、俺もさかたに触るし」

脱いでほしい、の意を込めて、坂田の上の服の裾をくいくい小さく引っ張ると、一瞬怪訝な顔をしたあとすぐ意味を理解したのか、「ちょ、待ってな、」といそいそ服を脱ぎ始めた。
スウェットが雑に床に脱ぎ捨てられて、顕になった坂田の上半身にそっと手を伸ばす。
つつ、と指を辿らせて、腰の辺りをゆっくり撫でると、坂田は 「うらさん、」と熱っぽい視線と吐息と共に俺の名前を小さく呼んだ。

お互いの肌に触れ合って、だんだんと高まっていく感情。
正直俺はとても興奮しているし、坂田も多分興奮してくれてる。でも、やっぱり坂田の下半身は怖くて見れなかった。反応していない坂田を見たら、結局俺の独りよがりなんだって、勝手に落ち込んでしまいそうだったから。

「さかた...もっかいキスして......ンッ、」

強請ったらすぐに降ってくるキスに、思考が蕩ける。
性急に入り込んできた舌に必死になって応えながら腕を坂田の背中に回した。
...あ、さかた、背中に汗かいてる。

「ん...ん、は......ん゛ッ、!」

キスをしたままの状態で坂田が腕を下げて、するりと俺の下半身を撫でた。
ゆるゆると服の上から擦られて、鈍い快感ともうすっかり元気になっている自身が恥ずかしくて、坂田の手首を弱々しく掴んだ。
それが制止の意味じゃないって分かってるから、坂田は動きを止めずに触れ続ける。

「ん......うらさ、腰、ちょっとあげて、」
「は、ふ......ン、」

唇が少し離れて、つーと伸びた唾液の糸をそのままにして坂田が囁いた。
言われるままに少し腰に力を入れて浮かすと、するすると簡単に下ろされてしまった俺のズボンと下着。
一気に全部脱がされると思ってなくて、羞恥心で慌てて太ももを擦り合わせる。

「ぁ......は、ずかし、」
「あっ、ごめん一気におろしてもた...」
「謝りながらまじまじ眺めんなぁっ!!へんたい!」
「えぇっ!?見るやろそりゃ!!!!」

もーほんとアホ、おまえ、って涙目でうわ言みたいに洩らしながら力の入っていない手で坂田の胸を叩く。
3回くらい叩いたところで、パシッと手首を掴まれてそのままベッドに縫い付けられてしまった。

「かわええ、うらさん」
「っ、」
「すき、肌きれいやね、かわいいね、」
「っ、も、いいってぇ...」

こんな拙い睦言でも、簡単に嬉しくなってしまう自分が恥ずかしい。
なんだか坂田の顔を見ていられなくなって顔を横に向けると、そっぽを向くなと言わんばかりに優しく性器を握られて嬌声を上げてしまった。

「ぁ、あ......!ん、んん...!♡」
「唇噛まんで、もっと声聞かせて...、」

しゅこ、しゅこ、ゆっくり坂田の手が上下に動き始める。部屋に響く水音がだんだん大きくなってきて、先走りが坂田の手の平を汚していくのが視界の端に見えてしまって、快感やら恥ずかしさやら申し訳なさやらで心臓が破裂しそうだ。

「ぅあ...あ...!!♡ぁ、だめ、もうイっちゃう...♡いっかい、1回、手とめて...、ね、」
「なんで?イッてやうらさん、イッて...!♡」
「はぁぅっ、!♡は、早くしないでぇ...!♡んぁぁ...ぁあむり、むりイく...!♡」

耳元でイッて、イッてって繰り返し囁かれながら、一気に扱く速度を速められてぞわぞわと全身に強い快感の並が押し寄せる。
腰が無意識に浮いて、足の指先に力が入る。

「ぁ、ぁ、イ゛っく...!!!♡♡」

ビクン!と体が跳ねて、あっという間に絶頂を迎えた。ぴゅくぴゅくと精液が飛び出て、ベッドのシーツに垂れる。
坂田は性器を握ったままはぁはぁと息を整える俺の首元にちゅ、ちゅ、とキスを落とした。

「ぅ、ごめ...汚しちゃった、」
「ええよ、いっぱい汚して...んふ、イってくれて嬉し、」
「...ニヤケんな、ばか」

だらしなく緩んだ坂田の頬を抓ったあと、やっと絶頂後の余韻が引いてきたのでティッシュを取ろうと少し上体を起こした。
坂田の手のひらが俺の精液にまみれているのがあまりにも目に毒すぎて、耐えられなかったから。

「さかた手ベタベタでしょ、1回拭こ、」
「あ、別にええのに...ありがとぉ。」
「ばか、俺が良くない......の............え??」
「?」

ベッド脇のスツールにあったティッシュを1枚取って、坂田に向き直った、瞬間。
視界に驚愕の光景が飛び込んできて、俺は思わず素っ頓狂な声を上げて口を開けて固まってしまった。
わけも分からず首を傾げる坂田に、無言で近寄る。

「さ、かた、コレ.........」
「え?コレ、って......ッ!!!」

坂田の股にそっと触れてみると、ゴリっと確かに感じる固い感触。服越しに、手のひら越しにもどくどくと熱く脈打つのを感じるソレは。

「「た、勃ってる!!!」」

なんで?なんで?
坂田は行為の時勃たない体質のはずで...
加えて俺は男だし、正直今日は勃ってくれないだろうなって思ってたのに。
疑問と、それ以上の嬉しさで思わずすりすりと坂田のモノを撫でさすると、坂田は熱い吐息を漏らして俺の肩を掴んだ。

「ぅ、うらさ、...あんま触んないで...」
「あっ...ご、ごめん」

ぽすん、と肩を押されてベッドに逆戻り。
シーツに体を沈めた俺に、坂田は被せるように抱きついてきた。

「はぁぁ良かったぁ、これでうらさんと繋がれる......あかんどうしよ、嬉しすぎてなんか泣けそうなんやけどぉ...」
「ふ、なんかもうムードぶち壊しで萎えちゃいそうだけど」
「いや大丈夫、なんか全然萎える気せぇへん。なんや勃ってるって自覚した途端痛なってきた...ふぅ...うらさ、触るね...」
「ぇっ、ちょっと待っ、ひゃあっ!!!」

いそいそとローションを手に纏わせた坂田が、俺の両足をガバッと大きく開脚させてきたので反射で前を隠すように手を出す。
その手をそっと退かした坂田は、俺の後孔の周りを、シワを伸ばすようにくるくるとヌルついた指で撫で始めた。

「っ、......!!」

元彼にもされたことない、未知の領域。

(どうしよう、やっぱり痛いかも。でもまだ指だし...いや、でも、)

忘れたはずの恐怖感がじわじわ戻ってきて、体が少し震える。坂田の指先が、ぴと、と穴の入口に宛てがわれた。
訪れるであろう刺激に備えるようにぎゅっと固く目を閉じたところで、坂田の反対の手が頬を撫ぜた。

「大丈夫、大丈夫よ。ぜぇーったい痛いことはせぇへんからね」
「...ん、」
「...うらさんが無理そうやったらすぐやめるよ?」
「大丈夫。...でも、ゆっくり、して」

俺の言葉に笑ってもちろん、と答えた坂田は、頬にあった手を俺の手と絡ませた。
手のひらから坂田の体温が伝わってきて、安心感で少し力が抜けた。

「うらさん、息吐いて...」

言われるままにふぅー、とゆっくり息を吐くと、ぬぷぬぷゆっくり侵入してくる細長い指。
...1本だけなら、思ったより、違和感無いかも。
ふぅふぅと必死に力を抜いていたら、いつの間にか坂田の中指が全部俺のナカに飲み込まれてしまった。

「すご、ナカ熱い...うらさん、痛くない?大丈夫?」
「ん、へーき......」

うごうごとナカで坂田の指が蠢くのを感じる。
痛くはない、けど。やっぱりこんな所で気持ちよくなれる気もしない。
やがてゆっくり抜き挿ししていただけの坂田の指が、お腹側を抉るような動きに変わった。

「......、??さ、かた、なんかそこ...」
「ん?ここ...?痛い?」
「んぅ...、痛くないけど...なんかぞわぞわする...」

最初は平気だったのに、繰り返し引っ掻くように擦られたらだんだんとぞわぞわ変な感覚が背筋を駆け巡って、腰がずんと重くなってきた。
な、にこれ。なんか変。

「ぁ...確かにここちょっとぷっくりしてる。大丈夫よ、うらさんが気持ちよくなれるとこやで。力抜いて?」
「ぅん...」

感じたことのない感覚への恐怖を紛らわせるように息を吐いた。
頭の横で握られた坂田の手をぎゅっと力強く握り直す。

「ぁ......あぅ......んん...!!」

俺が慣れてきたのを感じ取ったのか、だんだんと坂田の指の動きが大きく、大胆になっていく。
ぷちゅ、ぷちゅ、とローションがナカで掻き回されて空気を含んで大きな水音を立てる。
圧迫感が若干増したから、指が増やされたのだろう。今、何本入ってるのか分からないけど。

「ぅ...うぅ...、も、いいよぉ、」
「なんで?痛い?」
「ちが......もう、入る、からぁ...」
「うーん、でももうちょい解しとかんと...。な、もう少しだけ頑張ろな」

ずっと、ずっとぞわぞわしてる。坂田が指を捏ねるように動かす度に腰が浮く。
......でももどかしい。決定的な、刺激が足りない。

「あ...ナカ、切な...っ、イけな、い、さかたぁっ、!!イけないぃ、」
「っ......、!!、はぁっ、くそ、かわえぇ、」
「んぁっっ!!♡ぁっ、前きもちっ...♡ぅあ゛、早いぃい♡」

ゆっくり押し寄せる感覚は絶頂のそれと似ているのに、まったくイける気配がしない。あまりのもどかしさに坂田の腕を縋るように掴むと、顔を歪ませて俺の性器を素早く扱き始めたので背中が仰け反った。

「ふふ、うらさん、今指三本入っとるよっ...えらいなぁ、じょーずやね、」
「ぁあ...あ♡ぅあ、下半身壊れちゃ...♡♡ん゛、♡」

性器を挿入している時みたいに、ナカを三本の指で抉りながら手のひらでパンパン音を立ててと肌に打ち付けられる。
同時進行でちゅこちゅこと前を擦られて、下半身に集中するあまりの快楽にガクガク揺れる腰を抑えられない。

「あ゛ぁっ、♡いぐ、さかたぁ、!♡イっちゃ、ぁ、♡♡」
「ええやん、イこイこ♡♡ほら、イってっ!♡」
「んぁぁ゛っ、♡ぁ、きもち...っ、きもち...っ、いく、いくいくっ......〜〜〜っっ♡♡♡」

反っていた背中が、ビクン!と跳ねて丸まる。
ちゅぽん、と抜かれた坂田の指のスペースを開けるかのように自身の穴がひくひく痙攣しているのが分かる。

せっくす、すごい.........こんな気持ちいいんだ。...あれ?まだ挿れてないんだっけ。

息を整えながら、ぼーっとそんなアホみたいなことを考えていると、そっと涙で滲んだ目尻にキスを落とされた。

「うらさん、大丈夫そう...?続き、できる...?」

至近距離にあるさらさらの髪をそっと撫で付ける。
心配そうにこちらを伺う瞳の中に、確かな情欲と興奮が滲んでいるのが見えて胸がキュンと鳴った。...欲情、してくれてる。

「...ん、へーき...来ていいよ、」

やんわり微笑むと、また優しく唇を重ねられた。
舌は入れない、短めのキス。
軽いリップ音を立てて唇を離したら、なんだか坂田が惚けたような表情をしていた。

「...何考えてんの?」
「なんか...夢みたいやなって...」
「...ゆめぇ?」
「俺こういうことできない体質やと思ってたし、そもそもうらさんと付き合えてるのもなんか...夢みたい...」

坂田の頬に手を伸ばす。
すり、と目を細めて擦り寄ってくるのがやっぱり犬みたいで。

「...夢にされちゃ困るんだけど。」
「...んふ、せやね。」

ちゅ、ひとつキスを落とした後、坂田は1回体を起こしてタンスからゴムを取り出した。
ズボンをおろす坂田がいつになく扇情的で、見ていられなくて目を逸らした。

「...うらさん、もう一度聞くけど、ほんまに平気?怖くない?」
「...全然怖くないわけじゃ、ない......でもそれ以上にさかたとシたいから...」
「ん゛ん......そかぁ、ありがとぉ...」

ぴと、と入口に宛てがわれた熱い坂田のモノ。
あんなこと言ってもやっぱり体はあの貫くような痛みを覚えていて、恐怖で咄嗟に足を閉じてしまった。
坂田に優しく足を撫でられて、震えながらゆっくり足を開く。
大丈夫、怖くない。相手は大好きな坂田だし、いっぱい解してもらったし、あの時とは違う。
ふぅ、と息を吐いたところで、ずぷ...とナカに侵入してきた熱い質量。

「ぁ...あ......ぅう、」
「大丈夫、息吐いて...そう、じょうず...、」

ちょっと痛くて苦しいけど、あの時ほどじゃない。
俺の狭いナカをいっぱいに満たしながら進んでくる坂田のモノは、萎えることもなくしっかりした熱量を持ったまま。坂田、俺に興奮してくれてるんだって嬉しくなる。

「入っ、た...、うらさ、痛くない...?」

自分だって苦しいはずなのに、眉根を寄せながら俺の事を気遣う坂田にキュンとした。
坂田の下生えが臀部に触れて、ホントに今坂田と繋がってるんだって実感して全身が熱くなった。
大丈夫の意を込めてコクコク頷くと、安心したように坂田がホッと息を吐く。

「んっ、!ぁ......っ、」
「ごめ、待ってあげたいんやけど...っ、うらさんのナカ気持ちよすぎて耐えられんっ...」

苦々しげにそう呟いた坂田が、ぱちゅ、ぱちゅ、いつの間にか小さく腰を振り始めた。
腰が勝手に動いちゃうくらい、坂田を気持ちよくできてるんだ、俺。 嬉しい、嬉しい。
顔がニヤけそうになったその時、どちゅ!と今までより強めにナカを穿たれて「ひぁ!!!」と悲鳴のような声が漏れた。

「あ゛っ♡きゅ、うにそんなっ、...♡♡ナカくるしっ...、あ、早、んん!♡♡」
「んッ、ふぅっ......、きもち、うらさ、」
「あぁあっ...〜!!なに、これぇ、!おなか溶けちゃうぅ、♡♡」

だんだん大胆になっていくピストンに比例するようにぱん!ぱん!と肌のぶつかり合う乾いた音が部屋中に響く。
もう、過去のことなんて考える余裕もないくらい坂田にナカを掻き回されて堪らない。
時折カリが前立腺を抉ってビクン!と腰が震える。

「はぁ、すき、うらさ、好き、」
「ん、ん、おれもすきっ...さかたすき...!♡すき、んぅ...♡」

うわ言のように言い合う好きの言葉に、カラダもココロも一気に満たされていく。
もっと言おうとした"好き"は、上半身を倒してきた坂田からの甘いキスで塞がれてしまった。

「ンむぅ...!♡はふ、ん、ん、!♡♡」
「ん、...ふ、」

舌をねっとり絡め合う最中も坂田は腰の動きを止めないから、打ち付けに合わせて漏れ出てしまう声が坂田の口内に溶けていく。
ぎゅ、と縋るように坂田の背中に手を回すと、坂田も俺の頭に腕を回して覆い込むようにして掻き抱いた。

「ンっ!!♡...ぁ、むり、くるぅ、!♡♡いく、いっちゃ...♡♡」
「んっ、お、れもっ...♡ふ、うらさっ、!」
「あ゛ぁ、はやぃぃ、!!♡♡ぁ、だめ、いくいく゛、いぐ...〜〜〜〜ッッッッ!!!♡♡♡♡」
「ッ......、、!!!」

ぎゅううう、キツく収縮したナカで、どくんと坂田のモノが脈打つのを感じながら、ぼーっとした頭で天井を眺めた。


あぁ、そういえば、買ったディルドどうしよう。




【セックスで勃たない!?どんな理由があるの?】

『勃起に必要な条件は、リラックス、脳の性的興奮、快感の3つです。どれか1つでも当てはまらなければ勃起できません。もし行為で勃たないのであれば、この3つを満たしていないということ。その理由はなぜか、相手を見てしっかり考えてみて。勃たなくても焦らないで、きっと貴方にもいつかしっかり勃起させてくれる相手が見つかるはずですよ。』

Bạn đang đọc truyện trên: Truyen2U.Top

#kntrtmemo