Truyen2U.Top - Tên miền mới của Truyen2U.Net. Hãy sử dụng ứng dụng 1.1.1.1 để đọc truyện nhé!

[R18][ShimaSen] 很甜。

Author: 干し芋

Link: https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=16373076

------------------------------------------------------------------

・nmmn、腐向け要素を含みます。苦手な方はブラウザバックをお願いします。

・ルールやマナーを守った上での閲覧をお願いします。

・SNSなどでの拡散等はおやめください。

・登場人物はお名前をお借りしておりますが、ご本人様とは一切関係はありません。

これらをご理解いただける方のみ閲覧をお願いします。

※作者が方言の理解があやふやなため作品内の方言がおかしいところがあると思います。

桃娘を題材としています。

死ネタ・カニバリズムの表現がございます。苦手な方はブラウザバックお願いします。

----------------------------------------------------------------

「御曹司、こちらが桃娘にございます。どうぞごゆっくり」

────初めて君に出会った日。

儚い。一目見てそう思ったのを覚えている。

────────────────────────

「志麻、話があるんだ」

真剣な面持ちの親父に呼び出されたのは、まだ少し肌寒い春の始めだったと思う。

都のあちこちで花のつぼみが膨らみ始める頃。城下町の商店街はいつものようにたくさんの人で賑わっていた。
商店街の真ん中にそびえ立つ、それはそれは大きな商店。家具から骨董、布や着物。国のあちこち、中には海外のものまで。様々なものが揃うその店は、代々我が一族が受け継いできたものだ。

様々な珍しいもので溢れる店の奥、父の部屋へと入る。仕事熱心な彼は、ここに入れてくれることはあまり多くない。

二人きりになったその部屋で、父がゆっくりと口を開いた。
「...お前もそのうちこの店を継いでもらうのはわかっているだろう」

「はい、お父様」

「それに関してだが...今度私の叔父がお前に贈り物をしてくださるそうだ。家業の繁栄と健康祈願を込めて、とおっしゃっていた。喜びなさい、とても貴重な桃娘を贈っていただけることになったよ」

「...とうにゃん?」

「そうか、知らないのか。まぁ、まだ子供だから仕方ない...あそこの建物は分かるだろう?」

そう言って父が背中の窓を指差した。
城下町からは少し離れた高い崖の上に建てられた、美しい屋根の建物。それは店のようでも、宿のようでもない不思議な形をしていた。

「あそこには、"桃娘"という麗しい娘たちがいるんだよ。叔父様はお前に、その子の一人を買ってくださるというわけだ。」

「......俺はなぜその子を頂くのですか?許嫁ということでしょうか」

「...あの子たちとの交わりは、不老長寿をもたらすんだ。お前がそろそろ大人になる証、そしてこれからのこの店を引き継いでもらうためにも、必要な事だよ」

まじわり。

酷く自分とはかけ離れたような、大人の言葉。
もうこの年なら、そんな言葉の意味なんかとっくにわかる。
でもそういうのは好きな人と、愛する人とするものだと思ってた。大人って変な生き物だ。
十四年ぽっち生きたくらいじゃ、お父様やお祖父様、周りの商人仲間の言ってることなんか一つだってわかりやしなかった。商売のために交わるだとか、消費される身体だとか。
もやもやした気持ちは口に出せないまま、その日は父の部屋から自室に戻った。

次の日、学校の帰り道の古ぼけた本屋に寄って一時間探して見つけ出した、桃娘に関する本たち。どれも俺には少し難しい本だった。それでも拾えるだけ拾った情報は、どれも曖昧なもので。

──その体液は妙薬となり、不老不死となる。それは汗から血液、尿に至るまで。桃娘たちは皆金持ちに買われ、性交渉を主に様々な欲望を満たすために扱われる。身体の弱いその娘たちはすぐに死んでしまい、そしてその肉すらも食べられる────

「...ぅ、ぇ」

読めば読むほど不憫なその子達の境涯に吐き気がした。自分とたいして歳の変わらない、いやもっと幼い子たちが、こんなにも不当な扱いを受けているなんて。こんなものを、父上は。

──私もこの店を継ぐ時に、お祖父様から頂いたことがあるんだ。

俺に貰われた子も、この本たちに書いてあるように命を落としてしまうのだろうか。一人の、まだ大人でも何でもない、こんな青二才のちょっとした祝い事のために。

いらない。いらない。こんなの。

それから毎日、どうしたら断れるだろうと考えた。
叔父にも一度「そんなものは受け取れません」と言ってみたが、大丈夫だ、お前には必要なものだと掛け合ってくれない。しまいには「体験してみれば気に入るさ」なんて言い出す叔父に吐き気すら覚えた。
人の命を、身体をなんだと思っているのか、ともやもやとした気持ちを抱えたまま時間は過ぎて、とうとう当日を迎えてしまったのだった。

桃娘を頂く、その日。

春の暖かい日差しが差し込む部屋で、いつもは着ないような特別な着物を着させられた。髪も綺麗に整えられ、完璧によそ行きの格好。

行きたくないと最後まで粘るもあっけなく、立派な馬車が俺を迎えに来た。

行ってらっしゃいと手を振る父と叔父に手を振り返す元気もなくて、窓の外を見やる。
長い坂道を登り、だんだんとあの建物が近づいてくるのと同時にだんだんと暗くなる気持ち。心配しなくても大丈夫ですよと御者が声をかけてくれたが、そうじゃないんや。

「到着しました」

そして下ろされたのは高く、美しい建物の大きな玄関前だった。全体的に桃色で統一された建造物には美しい赤の屋根が映え、細やかな金の装飾が散りばめられている。思わず息を飲むほど麗しい景色に足が止まる。

「いらっしゃいませ、志麻様。ご夕食の支度ができております」

玄関に入ると、しっかりとした布の服に身を包む使用人が出迎えてくれた。館内はどこかほんのりと桃の香りが漂い、淡い照明が甘い雰囲気を作り出していた。子供の俺には釣り合わない、大人の雰囲気。

広々とした部屋に通されると、そこにはすでに豪勢な食事が用意されていた。年の暮れや正月の祝い事でしか口にできないような、様々な料理。全部食べ切れるわけがないその量に呆気に取られた。

「お食事の後、湯殿に御案内いたします。その後、桃娘とのお時間をお楽しみくださいませ」

説明してくれた使用人が立ち去ると、部屋の前方の舞台に煌びやかな衣に身を包む踊り子たちが現れる。麗しい舞を眺めつつ、緊張でガチガチに肩を強張らせながら晩餐を食べ終えた。

だだっ広い浴場で入浴した後、広間で座って髪を乾かしていると、またあの使用人が近づいてくる。

「それでは、今宵のメインのお時間でございます、どうぞ」

とうとう、その時が来てしまった。

エレベーターで五階まで上がり、廊下を進んだ最奥の部屋に通される。ぼんやりと間接照明が足元を照らすその部屋は広く、伽羅と麝香の香がゆったりとした空間を作り出していた。少々お待ちください、と使用人が退出し、部屋に一人になる。

どうしよう、ここまで来てしまった。お茶だけいただいて帰るなんて許されないだろうか。
ぐるぐる、緊張と不安で回る思考を破ったのは、控えめなノック音。
使用人がゆっくりと入ってくる。

「御曹司、こちらが桃娘にございます」

男の後ろからひょこりと顔を出したのは、俺よりも小さな子供だった。身の丈にそぐわない露出の多い衣装を身に纏うその子はどうやら俺よりも緊張しているらしく、表情は固い。

「...はじめまして。センラといいます」

小さな声は鈴のように高く、鳥の囀りのようにスッと耳に届いた。
さらさらの金髪を控えめに伸ばし、ぷっくりとした唇とほっぺたは薄桃に染まり、俯いた前髪の隙間から覗く長いまつげは小さく震えていた。

儚い。そんな言葉がぴったりな子だった。

「では、どうぞごゆっくり」

男が退出し、二人っきりになる。

沈黙。

何をすべきなんだろう。いや本来の目的はわかっているのだが、俺はこの子とそういうことをするつもりもないし。

「...こんにちは、センラ?ちゃん」

「はい」

とりあえず立ちっぱもなんなので、とそういうことにお誂え向きな布団に腰を下ろす。

「こっち、おいで」

ぽんぽんと布団を叩いて隣に来るように呼んでみる。

「はい、ただ今...」

こちらへ歩み寄るその子は、本当に幼いように見える。いや幼いのだけれど。
そしてその幼い娘が布団の上に俺に対面するように腰を下ろす。うっとりとしたような大人っぽい表情を作り、俺に向かっておずおずと脚を開くから、もう頭の中はこんがらがって。
早すぎる展開についていけない俺の頭はもう真っ白。

「ん、どうぞ...っ」

「いやちょ早ない、てかセンラちゃん俺そういうのは、って......

え"ーーーーーッッ!!!」

ビックリしてむちゃくちゃデカい声で叫んでしまった気がする。いやだってしょうがないもん目の前の可愛らしい女の子がそっと持ち上げた布の下は布一枚履いてないし、そこについてるんだもの。何がってナニが。

「は、え、お、お前男...!?」

「...あ、そ、なんです...ごめんなさ、...っ」

「...え"」

センラ、と言ったその子は、蜂蜜色の大きな瞳からボロボロと大粒の涙を零して泣き始めたのだ。

「...や、やっぱりいたいのやだ、う、ぅ"っ」

「ちょ、俺なにもせんて」

「やだぁぁ...しにたくないよぉ...!」

「聞けってば!!」

わんわんと泣きだすセンラと、どうにもできずオロオロしてるだけの俺。なにこれ。俺、今日何しに来たんやっけ。

涙でビショビショに濡れた白くて細い指をそっと包み込んでやって、サラサラの髪を撫でてやる。

「ね、センラ、俺志麻っていうんやけど。ほんまに俺、あんたにどうこうしようってつもりないから...!泣かんといてや、な?」

「う"、...ひく、ほんとに、なんもせんの?」

「せーへんよぉ」

まだグズグズと鼻を啜るセンラを抱きかかえるようにしてぽんぽんと背中を撫でてやれば、安心したらしい。真っ赤にした目元はメイクも落ちてしまってだいぶ大変なことに。

「顔洗っといで。志麻今日はセンラとお話しするつもりで来たんよ」

「...ここに来る人は、みんな身体目当てなんとちがうの」

ようやく泣きやんだセンラは俺の隣でずず、と鼻を啜った。メイクを落とした顔は最初に見たよりも幼くて、目元とほっぺた、耳までも真っ赤だ。

「んー、そうかもしれんけど、俺はそのつもりないからなぁ」

仲良く二人で布団の上に並んで喋る絵面は、淫靡な雰囲気を醸す部屋にはおよそ似つかわしくない。

「センラはなんで男の子なのに、こんな所におるの」

「僕もよくわからん...けど、親に売られたのはみんなそうやから。顔が女々しいから女と間違えられたって、男のお前を買う奴は誰もいないんだって、ずっと言われてた」

そこまで口にすると、また蜂蜜の瞳に涙が浮かぶ。
慌てて頭を撫でてやって、抱きしめる。

「ずっとお客さんがとれなくて、でもついこの前、若い客だからお前でもいいだろうって、言われて...」

話を聞くに、センラはこの可愛らしい見た目のせいで間違えてここに入れられ、そのまま育てられたらしい。店側としては男色の需要もあるかも、と渋々養ってきたようだが元々女限定のサービス、やはり彼を指名する客はおらず。指名もなしで若くて何も分かってなさそうな俺に当てられたというわけだ。

歳の近さもあってか、しまくん、と名前を呼んで話しながら腕にぎゅっとしがみついてくるセンラは懐いてくれたようで、可愛らしい。

...いやでもこんな可愛くても男相手に突っ込むのは若いとか以前に常識的に無理やって。

「志麻くんは、なんで僕のこと...」

そう、彼が口を開いた時だった。

────────────────────────

トン、トン、廊下から足音が響く。

「...!」

「やべ」

────気付けば彼が来てから結構な時間が経っていた。本来の仕事をほっといてこんなおしゃべりしていたのでは、あの人達に怒られてしまう。
どうやら不安げな顔になっていた僕を見て察したらしい志麻くんは、急いで服を脱ぎ出した。

「ちょ、あんたも脱ぎや」

「え、っや」

「とろいなあ、もう」

肩を押されて布団の上に倒れこみ、身につけていた薄っぺらい布をぺろんと胸の上まで捲られた。
ほぼ何も身につけていない志麻くんが脚の間に割り込んできて、グッと身を寄せられる。
志麻くんは僕よりあったかいな、とぼんやりした頭で考えた。

...コンコン。

「失礼します。...初めにお持ちする予定でしたお茶の在庫が切れておりまして、代わりのものをご用意いたしました。それと追加の潤滑剤と、手拭いも。遅くなってしまい申し訳ありません」

「...ぁ?あぁ、すいません、ありがとうございます」

「こちらに置いておきますね。お邪魔して誠に申し訳ございません、失礼しました」

「......びっくりしたぁ」

沈黙。ほぼ裸で身を寄せ合う二人の間には異様な空気が流れた。

そして沈黙を破ったのは、異変に気付いたセンラだった。

「......志麻くん、た、たってる...」

「...えっ!?や、これはしょうがないやろ!!その、そういう雰囲気、なってたし...」

いくらその気がなくたって、所詮若い男の子。裸で抱き合ってそれっぽい雰囲気が出るだけでも、身体は本能には逆らえない。ましてや初めての経験、男とはいえついてるだけで真っ白な肌にふっくらとした胸まで見せつけられて、緊張と合わせてドキドキは最高潮。が故に。

「志麻くんも僕にそういうことしようとしてるんや...っ」

「せんって言うとるやろ!!...ちょっとそっち行ってて、どうにかするから」

ふいっと横を向いてしまった志麻くんは、布団の端っこで一人で慰め始めた。
くち、くち。静かな部屋に、粘液質な音だけが響く。

「...ふ、」

たまに吐息を漏らす志麻くんは、僕に見えないように向こうを向いている。
寂しそうな背中に居た堪れなくなって、そっと背中に寄り掛かる。じっとりと汗ばんでいて、あつい背中。

「...なに」

「...ごめんなさい...僕、困らせてばっかり...やっぱり、していいから、っ」

「いらんよ」

時折長めの吐息を吐き出して一人で慰める志麻くんの顔は見えなくて、表情は読み取れない。
怒らせてしまったかな。がっかりしたかな。そうだ、たくさんのお金を払ってここに来たのに、僕が拒んだから。
バッと立ち上がって、志麻くんの横から覗き込む。腫れたそれの慰め方は知ってる。触れようと手を伸ばした、その時。

「ねぇ、ほんまに...ッ」

「いらんって言うとるやろ」

パシ、と空いた手で伸ばした手を退けられた。
上気した顔で汗ばむ彼の表情は、予想に反して冷静で、真剣で。

「...俺、ほんまにあんたにそういうことさせる気無いねん。...は、ッここに来る前から、あんたをもらうって聞いた時から...ぅ、あ」

長い睫毛を震わせて白濁を手のひらに吐き出した彼に慌てて手拭いを渡す。

「...俺は、あんたらがこういうことさせられてるのがどうしても許せん。あんたが喜んでやってたとしてもな」

「、僕は...っ」

「ん、眠くなってきた...もう寝よ、センラ」

布団に潜り込んだ志麻くんは、本当にそのまま何もせずに眠りについてしまった。

「あ...」

仕方なく僕もそっと隣に横になって、くっつくようにして目を閉じた。

「──わざわざお越しいただいたのに、ご迷惑をお掛けして誠に申し訳ございません...はぁ」

あの日、結局センラには手を出さず、二人で布団で眠りそのまま帰った。帰り際、おずおずと手を振るセンラに「またな」と頭を撫でたらポッと顔を赤らめたのは記憶に新しい。

きっと部屋の状態やセンラの姿から使用人が気づいたのだろう、謝罪の手紙と次回の利用の割引券が封入されていた。

「俺はもう行く気ないんやけどなぁ...」

...でも。

「俺が行かんかったらセンラが暇してまうか」

客一人につき一人が当てられる桃娘は、他の客に流用されることはまずない。つまり、センラは俺が通わない限り、永遠にあそこで待ちぼうけを食わされるだけになってしまうのだ。それに。

「"またな"って、言ってもうたしな」

薄っぺらい紙切れを握り締めて立ち上がる。

「今度は何を話そうかな」

こうして、センラと俺は度々会う仲になったのだった。

────────────────────────

あれから夏が過ぎ、秋が過ぎ、冬が過ぎた。
外に出られないセンラに会うたび、俺は町のことを、外のことを、教えてやった。
センラは特に、食べ物に興味を持った。今まで桃しか食べたことがないセンラは、しょっぱいだとか、辛いだとか、そういう味が気になるようだった。

「大人になったら俺がここから連れ出して、美味しいものいっぱい食べさせたる」

「ほんまに!?」

子供同士の頼りない約束。指切りげんまんをしてはしゃぐセンラの姿に、守ってあげなければと幼いながらに使命感を持った。

センラはセンラで、桃の綺麗な剥き方や髪がサラサラになるケアなんかを教えてくれて、それはもう可愛らしく俺に説明してくれた。

彼の満開の花のようなはしゃぐ顔を見るたび、春風のような柔らい声を聞くたび、とろけるような瞳に見つめられるたび、胸が締め付けられると気付いたのはいつだったか。
一年も経った頃、ようやくセンラに対するこの愛しさに答えを見つけた俺は、初めて会った日と同じ暖かい春の日に告白をした。

「センラ」

「はぁい」

きょとんとするセンラは、一年のうちにだいぶ大きくなった。身長は俺と同じくらいに、声も少しだけ低く。それでもその女性的な可憐さは減ることはなく、なんならさらに艶麗でたおやかな美人に育ったようにすら感じる。

「好きや、センラ」

「...僕のこと?」

「うん、センラのこと。好き、大好き。俺と、ずっと一緒にいてほしい」

ずっと、なんて自分勝手な言葉。
二人ともわかってはいる。センラが俺と同じくらい生きられる確率はかなり低いこと。二人の関係は、とんでもなく薄っぺらくて頼りないこと。それでも。

「僕も、大好き」

ふわりと微笑むセンラは、俺だけを信じてくれた。
堪らない愛しさに、思わず口付けをする。
ちゅ、と幼い口付け。子供の俺たちには、これが精一杯。

「...んふふ、嬉しい」

その日は二人でギュッと手を繋いで、まだ肌寒い春の夜に身を寄せ合って、眠りについた。

いつまで、君と一緒にいられるだろうか。
君と一緒にこれからを歩めたら。そんなのは我儘だってわかってはいるけれど、でもやっぱり許してほしい。俺が生きてきた中で初めて心から好きだって、守りたいって、思えたんや。

うららかな春の日に、志麻くんに告白されてから一年と少し。
家の仕事を継ぎ忙しくなったらしい志麻くんは前よりかは来てくれる頻度は減ったものの、月に二、三回は必ず会いに来てくれる。

「今日は踊ってくれんの」

「んー、ちゅうしてくれたら踊る」

「はいはい」

「...んむ」

「はい、ちゅう」

唇を重ねるだけの軽いキス。
もう十六になるのに、それだけなの。

「もっとしてくれなきゃ嫌」

「...じゃあ舌出して」

ちゅる、と舌を吸われる。志麻くんの厚い舌が絡められて、ゾクゾクした。

「...ん、ふ」

燃えそうな口内を蠢く舌が歯列をなぞり、唾液が絡む。
うっすらと目を開けたらばっちり志麻くんと目が合って、慌てて目を閉じた。
夢中で熱い舌を追いかけながら、そっと志麻くんの服に手をかけてみる。そしたらすっと志麻くんが離れていって、つぅ、と銀の糸が引いて切れた。

「はい、もうおしまい」

「...なんで」

「これ以上はあかんって言うたやろ」

「むぅ」

志麻くんはいつもこうだ。僕だってもう年頃の男の子。好きな人としたいことはひとつやふたつじゃない。もっと狂熱的な触れ合いだって、したいのに。
いつ抱かれてもいいように、後ろの洗浄は初めて会った日以来一度たりとも欠かしていないのに。

志麻くんの臆病者。

言われた通りに扇子を手に取り、ゆっくりと舞う。彼は盃を持ったまま僕を眺める。今日は月も綺麗に出ているから、少しは見栄え良く踊れているだろうか。

「綺麗や」

志麻くんは呟く。

彼は綺麗な僕に夢を見ているんだ、と思う。
僕はこんなにも欲望に塗れて、汚い人間なのに。
何度だって桃娘であることを恨んだ。こんな身体でなければきっと、普通の若者のように本能に任せた情交も、彼は許してくれたはず。

あぁもう、また別れの時間が近づいている。いつまでも彼の視界で踊っていられたらいいのに。

「じゃあ、また来るな」

今日もまた彼に触れてもらうことは叶わず、彼は帰っていった。

────────────────────────

志麻くん、志麻くん。ねぇ、いつになったら僕と契りを結んでくれるの。

桃娘は街の売春婦たちとは違って、一人につきお客は一人しか取らない。否、取れないのだ。その短命さ故に。
しかし、志麻くんは僕との交わりを拒み続けている。この二年間、ずっと。それだけ僕は生き長らえていて、だんだんと背も伸びて。あんなに大きく見えた志麻くんをとっくに越してしまう程には大きくなった。

「...ぁ、だめ、だめ、そこ...ッ」

だから僕は一人、こうして自室で彼の優しい顔を思い浮かべながら、禁忌を破っていた。

一度の性行為ですら命を奪うような、貧弱な身体。
そんな身体は自慰すら許されることはなく、使用人たちにもきつく禁止されていた。何よりも、桃娘は身体も精神も純潔を保て、という事らしい。

身体を売って死ぬだけの汚らしい仕事なのに、皮肉なものだ。

「あ、んッ、やだ、ァ...っそこ、もっと...!」

こないだ覚えた、気持ちがいいところ。男の僕でも、女みたいに声が出て、情けないくらいに脚が震える。

「しまくん、しまくん、ぁ、ぅ、っあァ...ッ!」

がくがく、と腰が痙攣して、布団に崩れ落ちた。
必死に中を掻き回した腕はつってしまって使い物にならなくて、そばにあった手拭いに震える手を伸ばした。前をずっと擦り付けていた布団はぐしょぐしょに濡れていて、気持ち悪い。

「...っは、はぁ、...げほ、...ぁ」

息が切れる。胸が苦しい。身体が強張って上手く動けない。
こんなことで動けなくなる程に自分に体力が無いのを痛感して、悲しみが溢れてくる。

──僕と同い年の子供はきっと、外で元気にはしゃぎ回って、美味しいものを食べて。これから先、何十年と生きていくのに。

どうして、どうして、僕はこんな籠に閉じ込められているんだろう。

「...はぁ、...あかん」

気がついたら、ボロボロと涙が零れていた。さっきまであんなに気持ちが良くて、幸せな気持ちだったのに、今はどん底にいるようだ。
ごめんなさい、ごめんなさい、って口から溢れ出して涙が止まらない。こんな僕でごめんなさい。ちゃんと気持ち良くしてあげられなくてごめんなさい。こんな身分で、幸せを求めてしまってごめんなさい。

苦しい気持ちは消えなくて、枕に顔を押し付けて泣き続けて、そのまま僕は深い眠りに落ちた。

桃園の木から甘い香りが漂い始める初夏、僕はついに志麻くんに伝える決心をした。
伝えずに幸せなままできる限りの時間を彼と一緒にいられたら、と思っていたけれど、やっぱり無理だったみたい。

もう、僕の命が尽きる時が近いということ。

いつものように会いに来てくれた志麻くんの膝の上に座り、ぎゅうと抱きしめる。彼はそっと背中に腕を回してくれた。

「......なぁ志麻くん、いつになったら抱いてくれるん?」

「...あんたが大人になったら」

「...ねぇ志麻くん、僕は桃娘なんです。娼婦なんですよ。抱いてくれなきゃ困る」

「俺はあんたが桃娘だから好きになったわけじゃ、!!」

「...でも僕はこの身体のおかげで志麻くんと出会えたんですよ。それに今のこの、美しくて完成された身体で、抱かれたい」

「......それに、もう手遅れやから」

ぽつりぽつりと言葉を紡ぐ。

「...え」

「ただの運動不足やって思うようにしてたけど、やっぱり最近手足が思うように動かんし、目も悪なってきた。志麻くんの顔が見えんくなる前に、お願い」

「...でも、身体はなんともないって、俺がセンラと交わらなきゃ大丈夫だって、俺...ッ」

「ううん、僕はどうやっても長くは生きられんの。これが運命なんや」

同い年の友達だったあの娘たちは、僕を除いてみんな遠いところへ行ってしまった。そして例外なく、僕も、これから。

「う、そだ...ッ」

「ごめんね、心配かけたくなくてずっと言えんかった」

志麻くんは開いた口が塞がらないという風で、呆気にとられたという顔だった。その瞳には、驚きと悲しみとが渦巻いていて。

「だからもう一度言います」

────志麻くんに、抱いてほしい。

「...嫌や、そんな身体のセンラになんか、俺」

「言っときますけどね、桃娘だからってそんな脆くないんですよ。男のタフさ舐めんといてください。桃娘としての役割はきちんと果たしたいんです。この仕事に、この身体に、プライドがあるから」

「...でも」

「あんたも男なら、恋人の言うことくらい聞いてください」

「ねぇ、初めての続き、しましょう?」

あの日。僕が買われて、初めて彼と出会った日。
幼いながらに先輩たちが消えていく事実に気がついて、志麻くんに泣いて縋ったあの日。

死にたくないと泣き喚いたあの日から、随分と時間が経った。

僕は今、もう死にたくないなんて泣いたりしないよ。

あなたに抱かれて死ねるなら、本望だ。

「...わかった」

「やった」

難しい顔をしたままの志麻くんをそのまま布団に押し倒す。
ちゅ、と瞼に口付けを落として着物を脱がしていく、と。

「その代わり、俺にやらせて。全部」

肩を掴まれ、形勢逆転。身長は足らずとも僕よりも体格のがっしりした志麻くんに、呆気なく布団に転がされる。

「あんたが死なんくらい、優しく抱くから」

────覚悟して。

ああ、その言葉をずっと待ってた。

────────────────────────

「ん、ぅ、ふ...っ」

優しい口付けを全身に受け止め、彼のゆるゆるとした柔らかい手つきで前を刺激される。優しく上下に扱かれるたび、くぷくぷと先走りが溢れて恥ずかしい。

「...すご、期待しとるみたい」

「してる、してるぅ、...っあぁ」

前だけなのに、いつもよりも声が出る。恥ずかしくて、気持ち良くて、接吻の雨を降らせる彼にしがみついた。

「ほら深呼吸して、息止めんの。苦しいやろ」

「...はぁ、う、きもちぃ、ぅあぁ...っ」

自分より高い体温に包まれ、快楽に弱い僕は呆気なく果てた。
手のひらに吐き出された白濁を眺めた志麻くんは僕に尋ねる。

「精通、いつしたん」

「...覚えてないです...でも志麻くんと初めて会った時はまだしてへんかった」

「...一人でした?」

「ほんまは禁止されてたんですけどね、志麻くんがしてたの思い出したら我慢できなくて」

「それは申し訳ないことしたわ」

志麻くんはハハ、と笑ってそっとそれに顔を近づける。

「味は?」

「自分のもん舐めるかアホ」

「...にが」

「っちょ...!そんなもん舐めんといて!!」

「あっでもほんのり甘いような...さっぱりしとるね、おいし」

「おかわりすんな!!あぁもう志麻くんのバカ!!」

ケラケラと笑う志麻くん。僕はもう早く抱かれたくて堪らないのに、こっちの気も知らないで。

「ね、早く、中も」

彼の手を掴んで、脚の間へと招く。期待でいっぱいの身体は、解してもいないのにきゅんと欲しがっている。

「はいはい...指、入れるね」

「...ッあ、志麻くんの指、ゴツゴツして、...んっ」

「ゆっくりするから」

「いやや、よくしてるから平気やもん...はやく、ねぇ」

「...は、誰と」

ピタリと指が止まる。眉間に皺を寄せた志麻くんは一瞬にして不機嫌に。

「僕の指とに決まっとるやろがばーか!!うるさいねんはよして!!」

何度も何度も、あんたに抱かれることを考えて自分で自分を慰めた。必死に中に指を押し込んで、きっと指よりもっとすごいであろう本物の質量に思いを馳せていたというのに。

「僕の処女はあんたの、あんただけのもんや」

「......ッそういうの、ほんま、あかんて...」

顔を真っ赤にして視線を逸らす志麻くんはちょっぴり子供っぽくて、初めて会った日の彼を思い出させる。

潤滑剤と先走りでぐしょぐしょに濡れたソコは、すでに彼の指をぱっくりと咥えている。中でバラバラに動かされて、ビクビクと腰が揺れてしまう。ああ、指だけでもこんななのに。はやく、はやく、欲しい。

「ね、もうええから...っ」

体を少し起こして、彼の下半身に手を伸ばす。主張を始めるそれは布の上からでもわかって、指先でそっとなぞると志麻くんは肩を揺らす。

「...よくない」

伸ばされた僕の手を引っぺがすと、もう一度入り口を広げだす。中の肉が指に引っ張られ、空気が音を立てるから顔から火が出そう。
ほんまに、どこまでも大事にしてくるんやから。そういうところも好きなんだけれど、絶対言ってやらない。

さらに潤滑剤を足してしばらくグチグチと弄ると、やっと満足したようで下の服に手をかけた。

「...キツ、」

下着ごと志麻くんが下を脱げば、二人は生まれたままの姿になる。不健康に白くて細い僕とは対象的な、男らしくて筋肉質な彼の身体にちょっぴりドキドキした。

「...わ」

「...だから嫌やったんや。あんたに負担かけてまう」

主張する彼の性器は彼が一人でしたあの時よりもずっと大きくて、雄のそれで。今からこれを受け入れるんだと考えるだけで、身体が期待に震えた。

喉がゴクリと鳴る。頭は情欲でいっぱい。
志麻くんので、埋めて。
この寂しさも、足りないナカも。

「深呼吸な」

「ん、」

ず、ず。押し当てられたそれを、確かめるようにゆっくりと。
あんなに解したのに締め付けてしまう中はキツくて、頭を撫でてくれる志麻くんの腕に縋り付いた。

「あっつ...」

「しまくん、しまくん...ッあ、大好き...っ」

「...俺も、愛してる」

初めて受け入れた質量は思っていたよりもずっとずっと大きくて、熱くて、苦しさに思わず吐息が漏れた。

「...しあわせや」

「...うん、あったかい。ちゅう、して」

初めて会ったあの日から、3年の時を経て。ついに二人は契りを結んだ。



あれから3ヶ月。
肌寒い秋風が吹くある日の朝。

あんなにも元気だったセンラは、呆気なく死んだ。

あの行為のせいか、元々の持病のせいかと問われれば、今となってはわからないけれど。いや、センラもきっと、俺が自分のせいだって自分を責めないように、死ぬ間際に求めたんだろうな。

だんだん身体が動かせなくなるセンラに、部屋を貸切で取って付きっきりでそばにいてやった。
最期はほとんど目も見えなくなり、近くにいるのに俺を手探りで探し始めた時は思わず涙が溢れた。

結局、彼の重度の病は治ることなく、彼は穏やかにこの世を去った。

冷たくなったセンラにずっと寄り添う俺に、館の使用人たちは「桃娘の肉を食べれば不老不死になると言われています。ぜひご賞味ください」だなんて提案をしてきた。
恋人が死んですぐの俺に彼らは当然というかのように勧めてきて、心底気持ち悪くて、何度も吐いた。

そんなのでっちあげで、嘘っぱちだ。汚い大人たちが商売のために考えた、都市伝説でしかない。
たとえ本当だったとしても、センラがいないこの世で生き長らえる必要はどこにもなくて。いっそのこと、後を追ってしまおうかとすら考えた。

しかし、嫌がる俺に使用人がこっそりとそれを渡してくれた。
センラが書いた遺書。

俺は震える手でそれを開いた。

────志麻くんへ。僕はもう長くないというのは、もう伝えたと思います。最近胸が苦しくてたまらないのは、多分志麻くんのせいやけど。

きっと、僕が死んだ後にはこっちから僕の身体を食べるか、と連絡が行くと思います。志麻くんは多分嫌がるやろね。アホみたいに僕のこと大事にしてくれましたから。そのせいで僕がどれだけ待ちくたびれたか、わかっとる?いや、なんでもない、忘れて。

僕は志麻くんに食べてほしいと思ってます。人間の肉を食べるなんて嫌やろうけど、僕は土の中で腐るより、志麻くんと一緒に居たい。これから先、何年何十年と生きていく志麻くんと一緒に居たい、それが叶わないならせめて一緒になれたらってずっと思ってた。

ああでも僕以外の子とお付き合いする時に思い出しちゃったらあれやな。でも志麻くん、どうせ僕のこと一生忘れられないでしょう?大人になったら買い取って家に連れて帰る、って言ってたくらいやもんね。それまで生きられなくて、ほんまにごめん。
重たくなっちゃってごめんね。でも僕は志麻くんにはこんなものしか残せないから。

あの日、初めて会った日に僕との交わりを拒んだ罪です。人に惚れる資格のない僕に恋を、愛を教えてしまった罪です。どうか、ずっと背負っていて。

僕をこんな地獄から掬い上げてくれてありがとう。あの日の客が、志麻くんで良かった。

愛しています。さようなら。ずっと元気で。

最後の方は視界が歪んで読めなかった。ぼたぼたと手紙を掴む手に雫が落ちて、膝から崩れ落ちた。

「...ぅ、あぁ"...ッ!ぁあ"あ"...っ...」

彼をこんなにも苦しめたのは俺だ。
何も知らないうちにこの世から消えた方が、きっと彼にとっては幸せなんだって、なぜあの日の俺は気付けなかったんだろう。
センラのためと距離を置いて、別れを先延ばしにしたのは俺の自分勝手。きっとどこかで気付いていたのだ、彼が自分と同じようには生きられない事など。それを見て見ぬふりをして過ごしてきて、結局何もかも手遅れだった。

「...ごめん、ごめん...っ」

──もっとしてくれなきゃ、嫌や。

──ねぇ、いつになったら抱いてくれるん。

寂しそうな顔で俺に触れ合いを強請ったセンラの顔が浮かぶ。彼はこうなることを分かって、ずっと俺を求めてくれていたのに。

「なにが愛してる、や...なにが幸せにする、や...ッ!」

俺はなにも応えてやれなかった。彼といつかここを抜け出して、末永く一緒に暮らせるだなんて幻想を押し付けたばかりに。

「...志麻様」

「...ください、俺に...センラの肉、食べさせてください」

「承知いたしました」

使用人が下がる。
...そうだ、これでいい。これが俺の使命だ。

運ばれてきたのは、とても小さな、柔らかそうな肉の塊だった。

白い皿に乗せられ、食べやすいようさっぱりとした桃のソースがかけられた"それ"は、皮肉なことに死んでも尚、その役目からは解放されないらしい。

「......ありがとう」

センラ、俺はあんたを一生、死ぬまでこの身体に背負おう。

桃娘と禁断の恋をした俺の罪を。
幸せにしきれなかった罪を。
救えなかった罪を。

幸福を掴めるはずもなかった、二人の運命を。

これから先何十年、あんたが外の世界を知れるように。
様々な景色を見て、美味しいものを食べられるように。

俺と同じ道を、歩んでゆけるように。







あぁ、センラ、あんたの味は──────

Bạn đang đọc truyện trên: Truyen2U.Top

#kntrtmemo