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[R18][ShimaSen] ♡惚れ薬の副作用にご注意を♡

Author: 優

Link: https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=21195962

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⚠attention⚠

・腐向け、nmmnについて理解がある方のみお進み下さい。
・本人のお名前をお借りしているだけで、本人との関係は一切ございません。
・smsnとなっております。苦手な方はブラウザバックを推奨します。
・作者は関東住みなので、方言など見苦しい点多いと思いますが、暖かい目で見てやってください。

林檎様主催のヤンデレ企画
#ヤンデレとは究極の愛である
という企画に参加させていただきました。

こちらC.妄想型ヤンデレとなっております。

お誘いいただけて嬉しかったです!
他の参加者様が豪華すぎてビビり倒して、これでいいのか感に苛まれながらもなんとか完成させました。
毎日素敵な作品が上がっていくので、日々の潤いになってます。ライフワークにしたいです。

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「あ」

「どうした?センラ」

心配そうに俺の顔を覗き込んだのは、えらいかっこいい、タイプの顔。きゅって眉が下がって、むっちりとした唇が色気のある低い声を紡ぐ。

「好き」

「え?」

「好きや、俺、志麻くんのこと」

「え...」

あ、俺。志麻くんのこと好きやな。

そう自覚したのは、かなり濃度の薄いハイボールを喉に流し込み、空のグラスを机に置いた、その瞬間のことだった。

しーんとその場が静まり返り、失言してしまったと気が付いた俺は「あ、」だなんて歯切れの悪い言葉を落として、空気が悪くなるのを感じた。

優しい志麻くんなら、引くことはなさそう。でも、オッケーしてくれるなんて到底思われへんし、困らせるだけだ。あ。無理や。俺なんてこと言うてもうたんや。あぁ、むり、いやだ、嫌になる。ほんまに死にたなる!

もうあかん。取り返しがつかない。

「あ、あ!俺、ハイボールのおかわり作ってくる。志麻くんもおかわりいる?ビールでええ?」

「うん、あ、いや...俺もセンラと同じやつで」

「わかった、うん、俺と同じやったらだいぶうっすいと思うけど、まぁとりあえず作ってくるな!」

居た堪れなくなって、早口でその場を乗り切った。
ウイスキーのボトルの口にはポンプの口が取り付けられている。グラスに氷を入れてから何プッシュかして、炭酸水を注げばしゅわしゅわと涼しげな飛沫が飛ぶ。

あーあかん酔ってるとはいえ、余計なことまで口走ってしまった。でも、俺は志麻くんが好き。付き合いたい。引かれたくない。あぁ、この気持ち、どうすればいいんや。

「あ」

最近、人伝てであるが密かに流行っている代物がある。『惚れ薬』という単純なもので、誰もが貰い物だと口を揃えて言う。誰も仕入れ先を知らないとか。

胡散臭い、誰がそんなもん使うんやとセンラは思っていた。
薬品なんか使う気がしれない。それよりもっと建設的なできることがあるはずだし、あやしすぎる。そんなもんに縋るようになったら人間終わりやな、と得意の毒舌を発揮してさえいた。

「まぁ、試しに使ってみるかぁ」

そんな俺が、志麻くん用に濃い目に作ったハイボールを前に揺らいでしまった。
この薬自体は、メンバーであるうらたんから貰った。イタズラ目的というか、完全にネタ枠だったように思う。「俺が持っとくの怖ぇ」とも溢していたうらたんに、「使うなよ〜?」「使わへんし!」なんて声を荒らげつつ受け取ってしまっていた。

この薬は期限がある。効果は2週間ほどしか持続せず、また副作用がある。思い込みの激しい人だと、2週間経った後も恋心を引きずってしまうことがある。しかしかなり稀な話。よほどのことがない限り時間経過で効果は消える。

そして、恋心を操る関係上、人格に歪み...もとい、精神に異常が現れてしまう可能性があると言うこと。

ドクドクと心臓がうるさい。

だって、2週間だけやし。ライブも重なってないし、ちょっとくらい。こんなん効くとも限らへんし。使え、使ってしまえと俺の中の何かが甘言を吐く。

「まぁ、ちょっとだけやし?」

数滴ほど、透明な液体がグラスの中に吸い込まれる。マドラーでくるりとかき混ぜれば、何も違和感もなく馴染んでしまった。

「おまたせ〜!作ってきたで〜!」

「おっありがとうセンラ!」

「俺まじで薄めて飲んでるからさぁ。普段よりは濃い目にしてみたんやけど。どう?いい感じ?」

「ん?ん〜〜〜...」

ごくりごくりと喉仏が上下する様に目を奪われる。
一気にグラスの半分ほど飲み干した彼はゆっくり瞬きをして、食い入るように俺を見つめる。

「せんらぁ...」

「ん〜?志麻くん、どうしたん...?顔赤いで?もぉそんな一気飲みするからそんなんなるんやでぇ...?」

白々しくも距離を詰める。肩が触れそう。ゆったり顔を覗き込めば、そこにあるのは恋する男の顔。

不安と期待で目の前がチカチカがして、眩暈がする。

「なぁ志麻くん、俺な?さっきの告白したやんか、お返事、いま聞きたいなぁ」

断らないで。お願いやから。別にな?あんなあやしい薬なんて信じてへんけど、効いてても効いてなくてもええから。

「俺、俺は.........」

お願い、断られたらきっと、俺は、消えてしまいたくなる。


「俺も......センラが好きや」

どうやら、薬は本物だったみたいだ。歓喜のあまりに笑み溢れる。

「ふふっ、両思いや、ふは、ふふっ」

「センラ?」

「ごめん。ほんまに、嬉しすぎて...」

「そう。なぁ、センラ...」

「ん?」

「かわいい、センラ、好きや、かっこいい、ほんまに好き、愛してる...」

キャパオーバーになってしまったみたいに。愛の言葉を溢れさせながら彼に強く抱き締められた。愛情表現が控えめで自分から抱きつくイメージがない志麻くんから。
べたべたと頬を両手で包まれたかと思いきや、男前の眉が下がる。

「なぁ、ちゅーしたい。してい?いいよな?センラも、俺のこと好きなんやもんな」

「ん」

「ハハッ...かわい」

無言で唇を突き出して了承する。そんなんいくらでもしてええし、さすがにこれ以上野暮なことは言わへんよな?
瞼を徐々に閉じていく。早い段階で半開きの唇の間から舌が侵入し、ゆるく絡ませあった。

甘ったるい吐息が鼻を抜け、薄らと目を開ければうっとりと半目を開けていた志麻くんの熱い視線と合致した。



♡惚れ薬の副作用にご注意を♡



薬の効き目は半信半疑だったがもはや疑ってはいなかった。効果は抜群だった。

午後からリハがあるその日は彼と一緒にタクシーに揺られスタジオに向かった。会場に着くまでも着いてからも、俺の腰あたりに手を回しベタベタとスキンシップが激しいし、顔の距離も近い。

スキンシップは苦手だったが、俺は満更でもなく彼に肩を押し付ける。
うらさかの二人に近くね?と指摘されても、本格的にリハが始まるまでそうして身体を密着させていた。

「なぁセンラ、距離近くない?うらたさんとか、坂田と」

「え?別に、普通やと思うけど...?」

「近いって、さっき手が触れてたやろ。坂田に身体触られてたし。なぁ、浮気なん?」

「浮気ちゃうって、坂田がくすぐってきただけやし。俺も嫌やってん。そういうまーしぃやって、うらたんに抱き付かれてたやんけ」

「いやいやいや俺抵抗してたやろ、センラに勘違いさせたらあかんと思って。助けてくれてもよかったやんか」

「それとこれとは別や。うらたんのあの勢いやもん、俺がどうこうできるわけないやろ」

「確かに」

一途なまーしぃは嫉妬の感情まで芽生えているらしい。独占欲が強いんやなぁと思いつつ同じ熱量で返して冗談のような雰囲気で会話を終わらせた。

「センラ〜、帰ろ。志麻のお家で宅飲みしようや」

「ええなぁ〜!」

その日も飲みに誘われ、若干前のめりになりながらも返事をした。潔癖らしくあまり人を家に呼びたがらない彼だが、タクシーを呼ぶと迷いなく自宅の住所を伝えていた。

「え、お前ら飲むの?!ずるいずるい!」と着いてきたがった坂田と、冗談なのかガチなのかごく当たり前の顔でタクシーに乗り込もうとするうらたんに苦笑いしたが、志麻くんが「ごめんな、2人で飲みたいねん」ときっぱり断っていた。

「はぁ〜?お前ら2人で何話すねん。気になるんやけど」

「脱ぐなよ。絶対に...脱ぐなよ」

「脱がへんよ〜!それに、脱いだとしてもまーしぃの家やから平気や」

「そういう問題じゃねぇ。逆に危ないだろ」

「エェ!?あぶっ...逆に危ないって、どういうことぉ?!」

最後までぶすくれている坂田と、ジト目のうらたん。挙動不審な志麻くんが余計に怪しいと問い詰められて一悶着あったりしたが、関係性を怪しまれるとうより冗談の雰囲気が強かった印象だ。

ふたりして都内のマンションの一室に入り込むと、いそいそとコンビニで買ったお酒の缶を冷蔵庫にしまい込んだ。

おつまみ用に買い込んだお惣菜とお刺身を広げたらしません居酒屋の開店だ。志麻くんはお酒に関しては本格的にしたい性なのか大ぶりな氷をアイスピックで砕いていた。

「お酒は冷えてるし、いいやろ。あと、これも温めた方がええかな...」

「よっしゃ、飲も飲も、まーしぃもはよ座りぃや〜!そんなん後で温めればええやろ!」

「そうやな。飲みますかぁ」

張り切って準備しようとお惣菜を片手にキッチンとリビングを往復している彼を引き留めて、乾杯を急かす。
乾杯の言葉を合図に俺たちのテンションは最高潮までぶち上がる。

「くぅぅ〜〜ッ!五臓六腑に染み渡るゥ」

「出たぁ!ごぞしみや!」

「最っ高やなまーしぃ!ほんまに染みるわぁ〜」

一杯目は無難に。缶のぶつかる音。爽快なプルタブの音がして、開幕を告げる。

「志麻くんって姿勢いいよね。ご飯食べるときとかも、背筋伸ばして胸張ってて、横から見るとすごい綺麗やねん」

「まじ?自分じゃ意識したことなかったな...反り腰やし、俺。変に体に力入れすぎてもうてるのかも」

自然体で、ゆっくり移り変わる話題についてゆるゆる話しながらお酒の缶が転がっていく。
期間限定という言葉に惹かれて買った甘いお酒が飲みやすくて、スイスイ杯が進んでしまう。
1人で飲むのは、それなりに楽しい。けど人と飲むと比べようもなく楽しいのは当たり前のこと。

ハイボールに切り替えてからも飲む手は止まらない。
宅飲みであるのも相まって、やらかしてしまっても迷惑をかける相手は最小限......もとい志麻くんのみで済む。

その肝心な志麻くんが「迷惑とか思わんから。我慢しなくてええよ」とか言って気持ちよく酔わせようとしてくる。聞き上手な彼に愚痴の一つでも引き出されたら喋る口が、飲む口が止まらなくなる。

そうしたらもう、「出来上がって」しまうのは決定事項だ。

「センラ顔色やばいな、真っ赤や」

「ん...そらもう、酔ってるからぁ...しゃあない、せいりげんしょうや」

「おめめとろとろやし。かわい...ちゅーしたい」

閉じかかっていたまぶたをゆっくり持ち上げれば、独り言のつもりだったのか俺の返事を待たずに顔が近付いて。

「酒くさぁ。なんか苦い...」

「ビール飲んでたからかなぁ」

とても自然体で、悪態をつきながらも唇が触れた。そっとほおに添えられた手が輪郭をなぞり、俺の耳たぶをくすぐるように動く。
落ち着かなくてたじろぐ俺の唇に再度唇が重ねられた。

「ん...」

「んぅ」

「...ハハッ、センラもう目ぇ閉じかけてる。眠そうやな」

「ん、ねむいねん、おれいま2秒でねれる...」

「2秒て。ほとんど寝てるやん」

男らしく少しカサついた親指のはらでまぶたをすり、と優しく撫でる。くすぐったくも気持ちよくて、体の力を少しだけ抜いて甘え下手なりに精一杯に心を、体を許す。

「寝た?」「んは、寝息聞こえるんやけどぉ」「寝付くのはやいなぁ」と悠長な彼の独り言。

起きてるよと返事する気力もないくらい、俺の意識は半分以上飛んでいて、眠りかけ。
そのまましばらくまどろんでいれば、服のポケットに入れていた携帯が震えて、意識が一気に引き上げられた。

「センラ...?」

「ん......電話や。ごめん出る、もしもしぃ〜」

相手もろくに見ずに出て、相手の声を聞いて一気に覚醒した。夜間に珍しい相手からの通話で、事故にでもあったんじゃないか。急ぎで用があるなんてよっぽどのことやと焦る。

「どうした?何かあった?急に電話してくるから、びっくりしたわぁ。え?いや、まぁ、家やし大丈夫なんやけど。何があったん?......あっ」

電話に出ながら、片手を顔の前に立ててごめんとジェスチャーしながら退室しようとしたが、唇をぐっと引き結びいつになく真剣な顔をした志麻くんに腕を掴まれ、ぐんっとつんのめる。

いていいってことなんか。申し訳ないと思いつつ、電話の相手に意識を向ける。うんうんと相槌を打っていれば、志麻くんと目があって「...女か」と低い声で呟いていた。

「そう、今度こっちくるんや。いつ?来週はなぁ、しばらくライブもないし予定空けられそうやなって感じで。もぉ、当然かけてくるからびっくりしたやろ!......そっかぁ。んふふ、元気そうでよかったわぁ。」

電話先の相手の話を聞くと、家族の事故でもなんでもなかった。
変な時間帯の電話は、俺がライブの予定もなく配信もしていなくて、確実に起きて家にいるであろう時間帯を見計らって電話をかけてくれたみたいだった。

声の主が元気そうでホッとして、つい笑みがこぼれる。にこにこしたまま、相棒の視線にも気が付かずしばらく会話を続けた。

「...センラ」

「ごめん、もう切るね。またな...うん、おやすみ」

ぽつりと呟かれた俺の名前。ふと力強い双眼と目があった。
電話を切った瞬間、ぐっと腕を引かれ手首を掴まれたままだったことに気がついた。

「志麻くん、ごめんなぁ水さしてもうて」

「なぁセンラ、いまの電話の相手、誰」

「え...?」

「女の声だったけど。ずいぶん親しそうな感じやったけど、どんな関係?」

ぶっきらぼうに質問だけぶつけると、腕を強く掴んだまま俺はソファーに押し付けられた。
膝を立てたまま倒れ込むが、腰に手が添えられていたらしく強い衝撃はない。
眉が吊り上がり、整った顔が近づいて。いまにも噛み付かれそうな迫力に狼狽する。

「え、や、待って?電話の相手って...普通に、お姉さんやって。志麻くんも知ってるやろ?」

「......センラのお姉さん?」

「そう。俺の姉。信じられへんなら履歴見てくれてもええし...」

やばい、と思った。

やましいことは何もなくても、疑われている。その事実に焦りを感じる。パッと反射的に履歴を見せれば、姉の名前が本名で登録されていた。

「へぇ...」

「滅多に通話とかしぃひんのに、急に電話がかかってきて。ほんまもぉビビったわぁ〜〜」

場の空気を読まず明るく振る舞うが、少しだけ眉間の皺が浅くなるが、疑惑が晴れない。

「スマホのパスワード、教えて?」

「え?」

「俺のも教えるから。なんなら、パスワードお揃いにしよや?」

「や...別に教えてもええんやけど、でも、お互いに見られたくないものってあるやん?志麻くんも照れ臭いやろ、こんな...」

「なんやねん見られたくないものって。浮気してるんか?!他に相手がいるんやろ、女?それとも男?俺の知らんところで男好きするヤツになってるんとちゃうやろな?!」

「そんなんちゃうって!」

剣幕に、怒鳴り立てる志麻くんに驚きと、それから。信頼している相棒の気が触れたような様子に何をされるかわからない恐怖を感じることになるなんて。

「なら、なんで携帯俺に見せられないんや!!!見せろよ、何か隠してるんやろ?!なぁ?センラ!!」

観念して、そっとスマホを渡した。なにもやましいことはないのだ。本当に、気恥ずかしいだけで。

俺が使った惚れ薬は、人格を歪めてしまうことがある。志麻くんのこの異様なほどの執着は、副作用なのだろうと思った。

本来ならなかったはずの恋心だ。
突然愛なんて植え付けられれば、脳の回路に不和が生じることになる。これは、信頼とか、メンバー愛だったものを無理矢理恋情に変換した代償なのだ。

携帯を奪われ、連絡先を確認された俺は一人一人これは誰?どういう関係?と問い詰められた。
マネージャーさん、学生のころの友人...というように説明しては疑いの目を向けられる始末。

そんなことよりさぁと滅多にしないスキンシップで意識を逸らしたが一歩間違えれば連絡先を全て消されている勢いだった。

翌日には、ダンスレッスンがあった。

ツアーを組めば、前もって準備を始める事になるのでその期間中は一緒にいる時間が必然と増える。

酔っ払っていた俺は志麻くんが片付けをしてくれている最中に寝落ちてしまったようだった。
志麻くんの家からオーバーサイズの着替えを借り、借りてきた猫のように居心地が悪そうに襟を引っ張るのをやめられない。
人の家の柔軟剤の匂いがこんなに落ち着かへんとは。

「おはよう、うわ、なんやねんお前ら。もしかして一緒に来たん?」

「せやで」

「おはよ。まじかよ仲良すぎかよ。てか待って。ねぇ。その服見たことあるんだけど。志麻くんのじゃない?」

「そうやねん、この服な?志麻くん家の匂いがして全然落ち着かへんねん。」

「お前ら......え、手も繋いでるんやけどぉ!!きもいんやけどなんなん?!」

「ええやんけ、外が寒いから仕方なくや。手ぐらい繋ぐやろ、中学生ちゃうんやから」

「いやいや俺おかしくないやろ!ほんまもう...どういう関係?」

責任転嫁して、矛先を坂田に向けて。冗談の雰囲気を作ってはぐらかせば笑いに変わった。練習着に着替え、レッスンが始まれば後はいつも通り。休憩を挟みつつ、新曲の振り付けを反復する。

練習が終われば私服に着替えて解散の流れだ。

「センラさん。練習着預かりますね」

「あぁ。ほんまいつもすみません、お願いします」

冬にしては薄着の俺は着替えが誰よりも早く、衣装の洗濯をしてくれているマネージャーさんに練習着を手渡しした。

その流れで話していれば、肩を強めに掴まれた。
振り返れば練習着を片手に持った志麻くんが俺の後ろに立っていた。

「センラ」

「すみません、志麻くんが呼んでるみたいやから行きますね。ほんますみません、今度まだ話聞かせてくださいね」

有無を言わさぬ瞳には、嫉妬が滲んでいた。そっと俺の手を取り、指を絡める。俺はごくりと唾を飲む。

「お疲れ。何の話してたん?」

「普通に日常会話やで。俺が汗っかきやから、洗濯も大変そうやなーって思ってん」

「そうなんや」

細められた冷たい瞳。被っていた帽子のつばを持ち上げると、黒のマスクを下げた彼の顔が早急に近付いてきて反射的に彼の胸を押した。

こんなとこでキスするつもりなん...?!

「まーしぃ...流石にな?ここだと人目もあるし、変な目で見られそうで、嫌なんやけど」

「なんで、俺のこと好きなんやろ?」

「好きよ。それはもちろん。好きなんやけど...」

彼とキスをしたいという気持ちより、社会的な目が気になってしまった。チラチラと周りを気にする俺に痺れを切らしたのか、舌打ちする音が聞こえた。

「待って、どこいくつもりなん?!」

「人目気にならんとこ」

彼に腕を引かれて、近場のトイレに連れ込まれた。

「ここなら人目も気にならんよ」

「いや、男2人でトイレ入るとか、バレたらやばいやんけ」

「バレなければええ話やろ」

「そういう問題ちゃうって、もぉほんまに...ンンッ」

俺が強く拒めないでいる間に俺のマスクもとられてしまって。狭い個室の中、俺を見上げた彼に唇を奪われた。

また、このあまったるい瞳だ。

「センラが志麻以外によそ見してるから悪いんやろ?」

エアリズムの下、脇腹を撫でた彼の指先がおへその辺りに手を当てる。

「もぉ、ほんまにあかんって...!」

スキニー越しにお尻を揉まれ、驚いて便座に座り込んだ。俺を昂らせようと必死に、股間に指を這わせながら、耳元で囁かれる。

「かわいい、抱きたい...センラ...!」

「ん...っ、あかん、だめやって、まーしぃ...」

この場所では、どうしても嫌だ。俺が薬を盛ったとはいえ、彼の肉欲の対象がすぐ俺に向くなんて想定していなかった。
やんわり接触を拒みつつ、時間を稼いでいれば志麻くんの態度に異変が訪れる。

「なんで...なんで拒むんや!俺のことが、嫌いになったんか!!」

「ちゃうよ、俺まーしぃのこと好きや!」

「信じられへん、なんでっ...センラ、本当は俺に触られるのが嫌なんやろ?!なぁ!!」

俺の釣れない態度で嫌な予感がしたのか、声を荒げた彼は髪を振り乱して混乱していた。

泣き出してしまいそうなほど、不安定で危うい様子の彼が痛々しくて、「嫌いなわけじゃない」「好きだから」と伝えたが遅かった。
ギリギリと唇を噛み締めた彼の唇から、一筋の血液が垂れて、ギョッとした。

彼を落ち着かせるように、そっと背中に腕を回して、背中をさする。

「ここの場所が嫌ってだけやから。志麻くん家か、俺の家でもええけど。はよ、誰も邪魔せんところ行こうや。な?」

彼をこんな風にしたのは俺だ。俺が責任持って相手をしなければ、と内心で焦燥感と言いしれぬ高揚感に駆られていた。


「お前らもう帰んの?」

「うん、帰ろうかなって」

「しかもさぁ、また同じタクシーで帰んの。仲良すぎじゃね?」

「そらもぉ、相棒やからな」

「センラ...」

「ごめんごめん。ほな帰ろか〜」

目敏いうらたんに怪しい目で見られながらも、タクシーを呼ぶ。志麻くんは俺の手を握ったまま視線を俺から外そうとしない。
落ち着かないながらもタクシーに乗り込み、俺なりに見つめ返せばすりすり指先で手の甲を撫でられる。

「んぅ...くすぐ、たいんやけと?」

「かわい...。なぁ、センラって結構敏感っていうか、感じやすいタイプ?」

「そんなこと、ないと思うんやけど?なぁほんま恥ずいから...」

俺がお預けしたとはいえ、志麻くんはすっかりその気。太ももに触れられ、タクシーの運転手さんに聞こえないように耳元で喋られて俺の体の熱も上がっていく。

タクシーが自宅付近に停まったときには、2人して息が上がっていた。

「ハァッ、センラ、ふたりきり...」

「まだあかんよ、お部屋、着いてへんから...っ」

「センラ...センラァッ」

エレベーターに乗り込んだ瞬間、奥の壁に体を押し付けられた。俺を頭のてっぺんから足元まで視線を滑らせて、舌なめずりする彼の熱を肌で感じ取って、腰が抜けそう。

ギリギリのところで押し留めて、俺の部屋に2人してなだれ込む。

「まーしぃ、そこ、スリッパある、から...」

「センラ...」

「ンンッ」

バタンと扉が閉まった瞬間。後ろ手に鍵をかけながら、腰を引き寄せられてキスされた。
玄関の壁に押し付けられ、身長差をものともしない。
舌先を吸われ、膝ががくんと曲がり、俺が腰砕けになったことをいい事に体が密着する。
腰に添えられた手が尻の方へ下がっていく。

「あぁ、ん...もぉ、激しすぎ...力も全然入らへんし、恥ずいってぇ」

「やっぱり感じやすいんや。腰抜けてもうてる」

俺のお腹に感じる硬度のある塊は彼が俺に興奮してくれている確証でしかなくて、愛おしくてたまらなかった。
正直、自分が抱かれる側になるだとか想像もつかなかった。ただ、自分のデカくてごつい体にも興奮してくれて、抱きたいって言ってくれる彼の気持ちに、報いたかった。

「俺のこと、抱いてや。まーしぃ」

「まぁじ!ほんまにええの」

「うん。俺もな?まーしぃと繋がりたいし...」

「センラァ...!」

俺が逃げ出したら、きっとこの人は泣いて叫んで、心を病んでしまう。俺がいいよと許可を出せば、嬉しそうに再度唇を奪われた。

あまりにとんとん拍子に話が進んでしまう。

結論から言うと、俺はその日。

彼に抱かれて純潔を散らした。

激しくも優しく抱き潰された。志麻くんは薬の影響か俺に新底夢中らしく、情熱をもってして俺の大きな体を愛してくれた。
触ってない箇所はないほど全身を撫でさすられて舌を這わされ、ねちっこく何度も絶頂に導かれた。

「俺前戯好きやねん、センラがとろとろになってるの見てるだけで興奮する...」

「でも、まーしぃも、そろそろ限界やろ...?」

「や、全然。いつまでもこうしてられる」

「もぉええから、そこばっか、しんどいってぇ...!」

何なら、志麻くんが上下で服を着たままなのに俺だけが素っ裸にされて何度もイカされて、後半ははよ挿れて!と半ギレだった気がする。

「いやや、ほんまに嫌、もぉ、しんどい、はよ挿れて...!俺ばっか、しんどいねんて...!」

「駄々こねんといてぇ?もうちょっとやから」

しんどいもどかしいとムカムカしてる俺が志麻くんの目には「駄々こねてる、かわいい」とかそんな風に見えてるらしい。
相当末期やと心の中で毒付きつつも、俺の身を案じて長いことかけて慣らしてくれる志麻くんは優しい。

「挿れるで...っ」

「ん...んァッ、あ...やばい、入ってもうてるぅ...」

「ハハッ、センラみて、すごいな、入ってるで」

「ぁ、待って?ほんまえぐい、イキそう...っ」

「ええよ。キスしながらイこうな」

「ん、する...ぁ、出る、ほんまに出るぅ...っ!」

前戯で散々体の熱を高められ、前を扱かれながら挿入されれば間髪入れずイく。
ゴシゴシ俺の手とは違う太くてゴツゴツした男らしい手。普段自分のものもこうして扱いているのか、荒々しい手付き。

「なぁ、それやめて...!前も後ろも触られたら、ほんまに...すぐイく、からぁ...っ」

「や...だって、センラ初めてやから、後ろだけで感じるの難しいやろし萎えないようにと思って」

「そんなん、せんでも大丈夫やし...!」

「ん...?ごめんセンラ!聞こえんかったから、もう一回言って欲しいんやけ、どッ」

「あぁっ!あっ、ぁ、あああ゛ッ!いく、ほんまにいく!あかんよぉ、腰っ、とめてぇ゛...ッ!」

少しだけ鈍感で察しの悪いところがあるので、意思疎通が難しく何度か余分にイかされている気がする。
間が悪く耳が遠いのか、聞こえないフリをしているのか。どっちもかな。

「ありがとう」「俺も気持ちいい」志麻くんがそう言ってくれるだけで、俺の心は満たされるのだ。
おまけどころか過分に体も満たされて、夜王の称号があながち間違ってないことを身を待って感じた。

文字通り、愛のある交わりだった。

朝が来ても彼の愛情は冷めやらず、俺のことを介抱してくれた。体を清めて、寝具を整えて身の回りのことを手伝ってくれた優しい人。

言葉通り俺を恋人として受け入れて労わってくれた。

その日以降、志麻くんは俺と長い間離れることを嫌がるようになった。


「嫌や、センラと離れたくない!」

「...じゃあ、俺の家くる?」

人目を気にせず声を張り上げる彼に根負けして、最初の数日以降も互いの家に泊まり合うようになった。

1週間ほど経過しようとしていた最中、志麻くんは俺と少しでも離れるだけで禁断症状が出始めるようになってしまった。

扉一枚隔てただけでも、「どこ行ったん」「センラ!!なんで俺のこと置いてったんや、なぁ」と声を張り上げる。そんな状態で、長いこと離れるわけにはいかない。

見ていられなくて、寝食どころかトイレまで連れ添うようになった。個室のトイレに2人で入って、ベルトを外すのを手伝ってくれたりする。
そこまでして何も起こらないはずがなく、俺の小便に興奮する彼のそれを咥えて抜いてあげたり。毎晩クタクタになるまで体を暴かれた。

2人きりになった瞬間に唇を合わせて、俺と志麻くんの間だけで収まっていた行為が日常生活にも影響するようになるのは時間の問題だった。

「嫌や!!センラ、なんで行くん、俺のことを嫌いになったんか!嫌やぁ、まって、なんで、センラ、センラ......!」

俺が離れて行くたびにこの反応だ。どうやら彼は薬の副作用が効きやすい性だったらしい。情緒が不安定になってしまっているみたいだ。

そのころには、メンバーや活動の関係者の方に隠し通すことも難しくなっていた。

「何お前ら、なんでそんなくっついてんの」

「なぁ俺も思ってた!!きもいんやけど、どしたん。まーしーはともかく、センラお前そういうの許すタイプだったん?」

「いや...それがな?ちょっと色々あって」

「なんやねん色々て」

「...なぁ。俺言おうか迷ったんだけどさ。志麻くん、まじで様子おかしくね?」

ずっと隠し通せるとは思わなかった。俺と志麻くんがやけに一緒にいること、トイレまで連れ添っていることもすでに疑われていた。

いっそのこと、俺も志麻くんも被害者の顔をして仕舞えばいいのかもしれない。

志麻くんの腕から抜け出して、2人に話があるからと念押しした上でふたりを連れ出した。廊下に人がいないことを確認して、事情を話す。

「なんかな?この間、うらたんに惚れ薬貰ったやん?」

「うん」

「あれをな、お酒作ってるときに間違えて入れてもうたみたいで。俺も酔ってたし、後から気付いたんやけど。それからまーしぃの様子が変やねん...」

「お前...それ間違いなく効いてるじゃねぇか!!」

「えぇ...かわいい女の子ならともかく志麻くんに間違って惚れ薬盛るって、なんやねん。センラお前欲求不満なん?」

「ちゃうって!俺もあんまり覚えてへんねん。なんか変やな?って思ったら、キッチンに惚れ薬が転がっとって」

「イタズラのつもりだったのかもしれないけど、お前...割とシャレにならんぞ。2週間で効果が切れるらしいしまだいいけど...ハァ」

うらたさんは怒りと心配と呆れ、少しずつ入ったような冷たい声色をしていた。坂田はまだ意味がよく分かってなさそうで、「にしてもお前もさぁ、なんで満更でもなさそうな顔してんねん。きもいんやけど」とヘラっとしていて、その明るさに助けられる。

「俺が志麻くんを変にしちゃったから。責任とるって言うのは変かもしれへんけど、一方的に惚れ薬盛っといて放置って言うのは酷い話やんか」

「それは確かにそうだけどさぁ」

「けど、お前は事の重要性を分かってない。生憎今週ファンと対面するイベントがないから良かったけど、要らぬ誤解を招いたりしたらどうすんだよ」

「ごめん、うらたん...」

「酒の勢いがあったとはいえ、冗談じゃすまねぇからな!まじでシャレにならねぇことになったら...」

「ほんまに...ごめんなさい。ちょっと、自覚が足りへんかったみたいや」

うらたんの説教スイッチが入ってしまったようで、小さな口からつらつらとお小言が飛び出てくる。
反論出来ず、足元のスニーカーを凝視して謝罪の言葉を口にする。
落ち着きなく指先を弄っていれば、「なぁ、聞いてんのかよ」と追い討ちをかけられる。

ぐっと唇を噛み締めれば、俺の背後の扉が開いて、唐突に廊下に光が差し込まれた。

「センラ!!!」

力強い声色で名を呼ばれて、ビクッと肩を跳ねさせれば、ここ数日ですっかり慣れた温もりが俺の体ごと包み込む。あぁ、まーしぃの匂いや。

「おまえらなにセンラのこと虐めてんねん!!」

「ま、まーしぃ?」

「絶対に許さん、俺のセンラにこんなことして...!!」

「待て待て、別に、俺...っていうか、俺ら別にセンラのこと虐めてたわけじゃねぇ。そんなことする訳ねぇだろ!」

「こんな、俯いて身体硬くして...怖かったな。大丈夫やからな、センラ」

声を荒げ、俺を庇おうとする志麻くんが信じられない。後ろを振り向けば、見たことがないくらい剣幕な様子で。俺と目が合うと、目尻を柔らかく下げて腕の拘束を強めた。

「まーしぃ、俺は、ほんまに大丈夫やから」

「大丈夫、分かってるからな。顔色悪いし、手だってこんなに冷えてる。お前ら、俺のセンラを廊下に連れ出して、こんな...最低や!!」

「いやいやいやまーしぃほんま変やって!!俺らそんなんちゃうもん!!」

「そんなの信じられる訳ないやろ!!」

がるがると狼が威嚇するように。一歩も引く様子がなく2人を睨み付ける志麻くんの様子に俺も2人も呆気に取られて、強く言い返せない。
坂田も噛み付くが、うらたんが唇を引き結んでしまったのを見て坂田も黙り込む。

しばらく、沈黙が訪れた。

「俺とセンラの邪魔せんで」

「...おう。なんか、すまん」

我が強いはずのうらたんが、志麻くんの勢いに押し負けてしまった。
「ほら、戻ろう。な?」と優しい声がして、志麻くんはうらさかの2人にそれ以上興味を失ったように顔を背けると、俺の肩を抱いて楽屋の中に誘導した。

「う、うらさん...?」

「ハァ。だめだ。俺からは何も言えねぇ。まーしぃ、目がマジだった」

彼の異常性が片鱗を見せ始めていたことは、本人を除いた船内での共通認識だった。
それから、練習後にうらたんや坂田が物言いたげに俺の方を見ていたが、そのたびに志麻くんが立ちはだかって俺を庇おうとする。
俺以外の者には全方面に警戒心を研ぎ澄ませているようだった。

『このままじゃ練習にならねぇ』

『俺たちだけならともかく、人間関係に支障が出かねない』

『センラから、離れるように言ってくれ』

苦肉の策なのか、その日の夜にリーダーから個人的なメッセージが届いていた。
俺にすっかり惚れ込んで夢中になった志麻くんは、独占欲が異様なまでに強くなっていた。メンバーだけでなくスタッフさんにも牽制して高圧的な態度をとる瞬間があった。そして、俺の腰を抱き肩を抱き、一時も離れようとしない。

たしかに、うらたんの言い分には一理あるし分かるねんけど。

「帰るで、センラ」

「うん、帰ろかまーしぃ」

俺も、満更でも無いねん。

ごめんなぁ、うらたん。


「センラァ、どこ見てるん。こっち見て、なぁ」

「ん、なに?まぁーしぃ...」

「なぁ、こっち。見ろ、見ろって」

「ごめんなぁよそ見してて。今日の晩ご飯何にしようかなって、考えててん」

うらたさんと坂田が遠巻きにしていることに気がつきながら、俺たちは2人の世界を作る。
視線を一度逸らしただけでも、志麻くんは癇癪を起こすようになってしまった。

「センラの唇ぷるぷるなんやけど、ピンク色しててかわいい」

「あぁ、さっきな?色付きのリップ塗ってん。ていうか...見てたやろ?」

「見てたけど。色付きリップ似合うな。かわい...ちゅーしていい?」

「ええけど、リップ取れへん?」

「そしたら志麻が塗り直しちゃる」

「そういう問題ちゃうやろ...」

もはや隠そうともしない。その日は船の予定が入っていたが、仕事になるはずもない。
スタッフさんも最小限で、身内だけでの話し合いの予定だったので、うらたんに厳しい視線を向けられながらもその日は何も決まらないまま解散。

後日に先延ばしになった。

志麻くんの重たい愛情を一身に受けて、俺は歓喜する。それと同時に、薬が切れる瞬間のことが怖くなった。
こんなに俺のことを好いてくれてるのに。これが薬だけの効果なはずないよな?

「なぁ、まーしぃ。俺のこと好き?」

「もちろん、ずっと大好きや」

愛の言葉を受け取りながらも、心の中でモヤモヤが消えてくれない。2週間後、薬が消えた瞬間に嫌われたらどうしよう。いままで何してたんやって我に返って、冷たい目で俺を見て。
触れることもなくなってしまう。

「なぁ、ほんまに俺のこと好き?ずっとって、いつまで?」

「ほんまにずーっと好き。一生、センラのこと好きやと思う。だから、安心してな」

「うん...」

全然、安心できひんよ。

俺はしばらくの間、何度も何度も、好き?と聞き返す茶番を続けた。


一刻一刻と期限が近づいて来ている。2週間と決められた恋人ごっこは終わりが見え始めていた。

俺が薬を盛ったのは、2週間前の夜。期限は数時間を切り、センラは気が気ではなかった。

「あ、あっ...ああああああああああ!!!!!」

「センラ?」

「嫌や、俺の志麻くんなのに、俺のこと、ずっと好きって言ってくれたのに...嘘や、嘘嘘......志麻くんは、元々、俺のこと好きなんや、大丈夫...」

「どうしたん、センラ...?」

「あぁぁもぉあかん、どないしよ...っ、俺、俺ぇ...ほんまにしんどい、無理、志麻くんが、好きやのに」

この2週間で。体と心に彼の存在をかたくさん刻み付けられた。愛と、肉欲に溺れた怠惰な生活。その全てが愛おしくて。いまさら放り出されるのか。無理だ。全て投げ出して、消えてしまいたくなる。

ガシガシと頭を掻きむしっていれば、手首を掴まれて止められる。心配そうな瞳と目があって、たまらなくなった。

「なぁ、志麻くんは変わらへんよな?俺のことを好きやろ?そもそも、薬とか、効いてなかったやろ?俺のこと元から好きやろ?なぁ、そうやろ俺わかるんやから」

「......うん」

「俺っ、いまさら志麻くんと別れるの嫌や。志麻くんが好き。別れたない、なぁ、ええやろ?相棒も恋人も変わらへんから。俺と一緒に...」

「別れへん。俺はずっとセンラが好きやで?」

その言葉が、本当に志麻くんの本心によるものなのか、俺が薬で捏造してしまったものなのか判断がつかなかった。きっと後者なのだろう。
愛を知ってしまった後で、自分自身で首を絞めてしまっていたことに気が付いてももう遅い。

気が狂ったように叫んだかと思えば、「志麻くんは俺が好き...そうに決まってる...」とボソボソ呟いて自身を肯定して。

「うん。俺はセンラが好き」当たり前に落とされるあまりに軽い愛の言葉に、どんどんと俺の心がどん底に落とされていくのを感じた。


















「なぁ坂田」

「なにー?うらさん」

「志麻くんの影に隠れてたけどさ。あいつもここ2週間ぐらい、様子がおかしくなかったか?」

「あいつがおかしいのはいつものことやろ」

「だとしても。志麻くんがセンラにベタベタなのは惚れ薬の影響だとしてもさ。あれをさ、平然とした顔で受け入れるセンラも相当やべぇだろ」

「まぁ...たしかに。そういえばさ、最近とか、ほんまに2人でキスしてたの俺見ちゃったんやけど!」

「俺も見た。確かに、俺はセンラに惚れ薬を渡したけどさ。そもそも、俺と坂田で一緒に惚れ薬譲ってもらったじゃん。」

「うん」

「坂田お前はさ、たしか......」


志麻くんに、あげたんだろ?


その言葉を聞いて、ある仮説が立つ。
坂田も気が付いたらしく目を見開いていた。










「ごめんなさい、ほんまにごめん、でも好きや、お願い志麻くん、別れたないの、好き、好きやから」

あれからしばらくの間。センラはメンタルをやられ、ぼろぼろと滅多に流さない涙を流して薬が切れる瞬間のことを嘆いていた。

薬で、俺に恋心なんて植え付けてごめんなさい。
お願いだから、これからも俺のことを好きでいて。

相棒への罪悪感を感じながらも、自分本位な俺は我儘な男だ。捨てられて、嫌われてしまっても仕方がない。

「うん、うん。大丈夫やからな、パニックになっちゃったんやな、センラ」

そんな俺を見捨てることなく、志麻くんは何度も瞼にハンカチを押し当てて涙を吸わせて、抱きしめてくれる。
この体温が失われた瞬間、俺はどうなってしまうのだろう。想像したくないもない。

「変わらへんよ。センラが何のこと言ってるか分からんけど。俺はセンラが好きだし、この気持ちは変わらんよ。」

「嘘や...明日には、返事も変わってくる」

「いや。俺は、付き合うようになった2週間前よりずっとずっと前からセンラが好きなんや。だから揺らがんよ。」

「...ほんまに?」

2週間前から好き。不意をついたその言葉に、涙が引っ込む。その言葉さえ、惚れ薬による勘違いやリップサービスの可能性もある。
とはいえ、精神的に不安定になっていたセンラの心に響くには十分すぎた。

「そっかぁ......うれしい、ほんまに嬉しい!」

「ハハ、センラ...かわええな。まさか、こんな状態になるなんて思わんかった」

惚れ薬の効能。
それは、数滴ほど使って効果がわかった。

「...センラは、副作用が強く出るタイプなんやね、」

「ん?」

「や、なんでもない」

志麻は、何でもない顔でセンラを見つめた。
涙でまぶたが腫れ、いつも以上に細くなっている瞳。腫れぼったい唇。志麻の本物の愛を求めた結果の痛々しいその姿に、愉悦。

俺の振る舞いに気を取られて他のメンバーは気が付いていない様子だったが、しっかり者で誠実で明るいセンラはここ2週間ほど精神に異常が現れていた。

俺の前でだけ感傷的になって滅多に見せない涙を見せたり。そもそも、「女の子がすき」「男とか有り得へん」「きしょい」とか辛口なセンラが、ここまで俺を好きになって求めていること自体が異様だ。

俺の愛情表現を当たり前の顔で受け入れること、それは素面のセンラでは無理だったはずだ。

様子がおかしくなった2週間前、俺とセンラは一緒に飲んでいた。トイレに行った隙を突いて薬を数滴ほどグラスに垂らして素知らぬ顔をしていれば、センラが帰って来て何も気が付かないままグラスの中身を飲み干した。

空のグラスを机に置いた時、センラの瞳は酔いだけでない甘さで蕩けていて。

「好き」

「え?」

「好きや、俺、志麻くんのこと」

俺に告白をした。こんなに早く効果が出るのか。返事に困っていれば、何を勘違いしたのかパニックになったセンラが「お酒作ってくる!」とかなんとか言い残して部屋を出ていった。

「ふは、かわい」

突然志麻への恋心が溢れてパニックになってもうたんやろな。ふたつ分グラスを持って帰って来た彼は分かりやすくきょろきょろ視線を動かして、俺のグラスをじっと見つめる。

ん...?なんか、おかしいな。どうしたんやろ。

とはいえ、センラお手製のハイボールに口を付ければ、その口当たりに驚く。グラスを置けば、期待したような瞳をしたセンラがいて、ぶわっといままでの比ではないほどセンラへの愛おしさが頭の中に溢れて来た。とはいえ、俺がセンラに抱いている気持ちに変化はない。

さては、センラ。俺に惚れ薬盛ったな?

「......かぁわいい」

もう、逃さんからな。効果がなくなって、志麻のことを好きじゃなくなっても。また薬漬けにして俺のものにする。センラは副作用が出やすいみたいやから、志麻のことを完全に好きだと思い込むまで早そうやけど。
感情も揺れやすくなるみたいやから俺がそばにいてあげないとな。

「いっぱい泣いて喉乾いたやろ、これ飲みや?」

「うん、ありがとぉ、まーしぃ」

俺がこれほど執着を見せて束縛しているというのに不安になって涙を溢すんやから。俺に冷たい態度取られたらセンラ、どうなってたんやろな。

そんなことを試すことはしないけど。

惚れ薬が効いたセンラに、溺れるほど重たい愛情をぶつけて。文字通り、それは溺愛。

いままで志麻が吐いた愛の言葉に、何一つ誇張も誤りもなかった。

「俺はセンラが好き。一生離さんからな」

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