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[ShimaSen] 深淵に花笑む

Author: 椪珠‐ぽんず‐

Link: https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=19999363

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nmmn作品かつ腐向けとなります。
 
実在の人物の方とは一切関係がありません。
ご理解いただける方のみ、お進みください。

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この世界にはNormalと呼ばれる人間の他に、Dom、Sub、そして、Switchと呼ばれる人々が存在する。支配したいという欲求を持つDomと支配されたいと望むSub。そして、そのどちらにでもなれるSwitch。

その凹凸がぴったりと嵌まるとき、2人は真のパートナーとなる。

……しかし。

表面に見えているものだけが真実ではない。

本当に大切なものは、眼には見えない奥深くに眠っているのかもしれない。



~~~

「ごめ~ん、遅なった~~!!」

「おっ、まーしぃ、お疲れ!」

「お疲れ~!」

染めたての明るい髪の毛を揺らしながら、こちらを向いてそう声をかけてくれた坂田とうらたさん。
俺は、別の仕事があって合流が遅れたから、先に集まっていた2人に迎え入れられるように会議室に入った。

でも、あれ……?

きょろきょろと辺りを見渡してみるが、既に来ているはずのもう1人の姿がどこにも見当たらない。

___それは、俺がひっそりと叶わない恋心を抱く彼。
しっかりもので周りのことをよく見てて、いつも俺の隣にいてくれる人。

トイレとかなら、荷物を下ろしている間に戻ってくるだろうと思っていたけど、荷物を下ろして椅子に座り、一息ついたときもまだ会議室にその姿は見当たらなかった。

「……なぁ、センラは? 来とるんやろ?」

どうしても気になって、向かい側に座って髪の毛をいじいじし合っている(主にうらたさんが)うらたさんと坂田に声をかけた。

「あぁうん。来とるよ。なんか呼ばれてさ、別で打ち合わせしに行ったねん」

「え、1人で?」

「そうそう、ワンマンでお世話になったスタッフさんで、なんか親しいんやって」

「へぇー、そうなんや」

「なになに、センラのこと気になんの??」

いつの間にか俺の隣に来て、つんつんしながらそう声をかけてくるうらたさんに、そんなんちゃうわ、と軽く突っ込んでおく。
まぁ、2人には俺が抱く恋心なんて全部お見通しではあるんやけど。
ヒューヒューなんて言ってくるめんどくさい奴らを横目にスマホゲームを起動しようとしたそのとき、耳馴染みのいい優しい彼の声が俺の鼓膜を揺らした。

『うんうん、そんな感じで大丈夫やと思います。ここまで考えてくれてありがとう』

『良かったです! いつもセンラさんが丁寧に資料を作ってくださるおかげですよ。僕はそれを元に動いているだけなので!』

『それでもここまで実現してくれるんはほんまにありがたいよ。これからもよろしく』

『こちらこそです! 何かあればまた何でもおっしゃって下さいね!』

あ、来た。
話し込む声が段々大きく聞こえて、ノーセットの髪を隠す黒キャップがちらりと視界に映る。
スタッフの子と仲良さそうに歩く姿にちょっぴりもやもや、嫉妬心。
それでも、冷静に知らないふりを装って手元のスマホに視線を落とすと、横から、“まーしぃ、顔怖いよ”なんて、耳打ちされた。
俺だって、したくてこんな顔してるんとちゃうし。てか、そんなに怖ないやろ!

そんなことを思っていたのも束の間。

「お、まーしぃ、お仕事お疲れ様。お待たせしちゃってごめんね」

俺のことに気付いた軽やかな彼の一言に、一瞬にして頬が緩む。
センラのことを待っていたのは、俺だけじゃないのに。
俺の名前をわざわざ呼んで、俺に、声をかけてくれるなんて。

……あぁ、好き。

センラのことになると物凄い勢いでIQが下がる俺の脳。
ほんまに単純すぎて毎度自分でもびっくりする。

何とか、落ちそうなくらい緩んだ頬を持ち上げ、通常運転を装って返事をすると、

「ううん、センラこそお疲れ、俺は全然大丈夫。
言ってたよりちょっと早く来れたってだけやから」

「そっか、それならよかった」

ふわり、

可愛らしい笑顔を向けられて、危うく彼の頭に伸びそうになった右手を左手で抑えつけた。

“ええ子やね”

なんて、いつか言えたらいいのに、って一瞬妄想してみたり。
俺もセンラに髪の毛いじいじされたいし、あわよくば命令してみたりなんて……


でもなぁ、センラ、Dom、やもんなぁ。

彼に対してきゅんとした気持ちを感じるときにいつも脳裏をよぎるその事実。
そればっかりは抗えない。流石の俺だってそんなことは分かってる。
らしくもないような淡い恋心をを胸に秘めて、俺は……

「じゃあ、打ち合わせ始めよっか」

俺の隣の定位置に腰掛けて、そう声をかけてくれたセンラにはっと向き直ると、また俺の大好きな笑顔がぱっと咲いた。
やっぱりこの笑顔が守れたら、本望や。
そう思って俺は、椅子に深く座り直した。

~~~

でも、最近。

「センラ! 今日も早いなぁ」

「おはよう、まーしぃ。
……そやねん、今日も打ち合わせしたいって連絡来てて。ごめん、もう行くな」

「あ、そうか、頑張って、」

「うん、ありがとう!」

昨日だって。

「センラ、今日……」

「あぁ~~、ごめん。今日は、ちょっと打ち合わせがてらご飯行こうって話になっちゃって」

「そうか……」

「言ってなかったんやけど、あのスタッフさん、地元の後輩なんよね。それで、なんか話も合うし。また、今度埋め合わせするからっ、ごめん!」

「……うん、気を付けて」

センラは打ち合わせの度に、時間が空くといつものスタッフに呼ばれて別で話をすることが多くなり、俺らは3人でセンラを待つという時間が増えた。
帰りに飲みに行こうと誘った日も全敗。
今度のライブはちょうどセンラがおおよそを担当してくれていたから、会議が人一倍多いのは特別変という訳でもない。後輩なら一緒にご飯も行くやろうし。
だけど、何だか、“何かが違う”。ただの後輩と先輩の枠にはとどまらないような。
本能的な勘みたいなものがそう訴えてくる。
それは、2人も同じだったようで。

「最近ずっと2人で打ち合わせしてるよね」

まぁあのスタッフさんよく働いてくれてるし、センラを特別扱いするとかもないからいいんだけどさ。
愛犬の写真を眺めながら、うらたさんがそう呟いた。

「うらたさんもそう思う?」

「う~ん。それに、な~んか、ちょっとだけ違和感があるんだよなぁ……。
まーしぃ、分かるでしょ? あのスタッフさんSubだしさ」

「うん……なんかセンラの地元の後輩やとは聞いたけど、なんかなぁ……」

だんっ、

「んええっ!! あのスタッフさんって、やっぱSubっっっ!?」

ほんでもって、センラの後輩なん!!?

今度録る曲が覚えられへん!って言いながら、真剣にイヤホンで音楽を聴いていたはずの坂田が突然大きな声をあげた。

……あ。坂田、やったな。

さっきまで楽しそうにしていたうらたさんがびくっと大きく肩を震わせる。
顔を一気に顰めて、うらたさんが坂田を睨みつけると、さっきよりも一回り小さくなった坂田はぼそぼそと言葉を続けた。

「いや、だってさ……、俺でも感じるくらいって相当やろ?
それやったらセンラも分かってるはずやんか。それに長い付き合いなんやったら尚更」

ごめん、うらさんをびっくりさせるつもりはなかったんよ。
申し訳なさそうにそう言う坂田に、知らねっ、の一言で片づけたうらたさん。
どうすんねん。お前のせいでうちのリーダー様がぷんすかしてるやないか。
ごめんね、と何度も謝る坂田の頭を、とりゃっとりゃっ、なんて可愛い効果音付きで叩きながら、

「このあほ坂田でも気付くぐらいだし、最初っからセンラも分かってるだろうな。
まぁでも、センラはどっかのあほとは違うから、そういうところきちんとしてるだろうけどー?」

うらたさんはそう口にした。

「まぁね、それやといいんやけど」

俺が返すと、

待って、そんな言う!?俺、うらさん一筋やし、ちゃんとしてるで!!?
てか、まーしぃも流石にちょっとくらい否定して!??まず、俺にも触れて!!?

必死に言い返す坂田さん。
でも、うらたさんは完全に意地悪モードやし、俺がしてやれることはないわ、ごめんな。

わいわいと仲良さそう(?)に喧嘩を続ける2人を横目に、俺はまた黄色の彼について思考をぐるぐると巡らせた。

全員がそろって感じている違和感。その正体は、センラに近づくスタッフがSubであることと、それをセンラが気づいてるはずなのに、いつものように距離を置こうとしないところだ。

この世界のDomとSubにはその性の強さによって上からS,A,B,Cといった階級がある。
より高い階級に位置する人間であればあるほど、周りの人間の性を察知する能力も優れており、DomのGlareの強さやSubの欲求の強さもこれに比例する。
うちのグループは、リーダーであるうらたさんが、A階級のSub性の持ち主で、残りの3人がDom。その中でも、最高のS階級にいるのが、俺志麻。その次のA階級がセンラ。そして、1番低いC階級に位置するのが坂田だ。
別にこの階級制度によって何か差別があるわけでも何でもなく、自分のことを、相手のことを、より深く知るためにある程度の目安として医師たちが設けたものらしい。
パートナーを持つことでこの階級に変化があることもあるし、あえて言葉にしなくても大体は関わっていく上で見えてくるようなものだけど、俺たちは仕事上、4人含め近しい人とは診断結果をきちんと共有するようにしているのだ。
特に、うらたさんと坂田がパートナーとなってから、坂田の階級がCからBに上がりそうなのだという話をしたのは記憶に新しい。自分よりも高い階級にいる人と深い関係になるってことの影響力というか、いい意味で相手を変えてしまえるということに何だか、すてきだなぁ、なんて思ったり。

と、そんなことはさておいて。

とりあえず、A階級にいるセンラは、ある程度の強さと能力を持ち合わせており、パートナーも持っていないことから、普通なら相手をSubと認識したら、2人っきりのときに距離を詰めるようなことはしないはず。それに俺ら3人の見立て上は、センラの隣に立つスタッフさんはSかA階級のSub。常識的にもある程度の理性を持って接するべきやし、特にセンラなんかはそこの線引きをしっかりしているタイプやのに。

ていうか、だからこそ。

「もしかしてセンラって、あの人のこと好きなんかな……」

「は、まーしぃ、何言って、」

ぽつりと漏れた俺の一言で、まだじゃれ合いを続けていた2人の動きがピタリと止まった。

「だってそうかもしれんやろ? センラが近しい人以外でSubとあの距離感やったことなんてこれまでにないやんか」

「いやまぁそうだけどさ……」

「センラも嫌がってる感じせんし。向こうから来られてうっとおしかったらもっと早くに言うやろ」

「うーん……」

頭を抱えるうらたさんの向こうで、知らない間にぼさぼさになった髪を抑えながら坂田が呟く。

「でも、それは流石にないと思うで?」

「……なんでそんな言いきれるん」

「え? センラに限ってそんなことはないっていうか、
それに、センラってそんなに昔のこと話したがるタイプでもないし、あんまりこういう再会とか好きじゃないと思うけど」

正直、申し訳ないけれど坂田の言葉は何も入ってこなかった。
それよりも最近仲良さそうにしている2人の姿がありありと浮かんでくる。
後輩ってことは、俺よりも前からセンラのこと知ってるんよな。
だからって。今のセンラの隣は俺の場所やのに。でも、

「ええよ、俺への気遣いなんて。分かってるから、俺」

「いや、まーしぃ、ちょ……」

センラだって俺と過ごしてる時間が心地よくて好きやって言ってくれてたやんか。
それでもやっぱりSubがええってこと?
可愛い後輩ちゃんの方が、俺らよりも大切?
でも、そっか。そうやんな。

「センラもDomなんやから可愛いSubの子に惹かれるのは不可抗力やしさ。
俺みたいな奴と一緒に居るよりも、センラにとって幸せやろ」

「っ、まーしぃ、そんなこと言ってるわけじゃ、」

やっぱり、俺じゃ……あかんねん。
坂田やうらたさんが俺のことを気遣うように声をかけてくれるけど、センラがあのスタッフさんとよく打ち合わせをするようになってから、めっきり俺と関わらなくなってしまったのは事実やし。
前は、俺、まーしぃのこと1番頼りにしてるから、とか言ってくれてたけど、今は……。
隣に座ってもどこか居心地悪そうな。志麻セン曲録ろうって話をしてからどれだけ経った?

そうか。俺、センラに嫌われてるんか。

「志麻くん?考えすぎないで? センラはそんな奴じゃないって、志麻くんが1番良く知ってるでしょ?」

「そうやで、俺たちは2人のこと、応援してるんやから、だから……」

『……ええからっ、ほっといてくれ!』

「、ぁ……」

色んなことを思い出して、自分で自分の地雷を踏んでしまった。
はっとして、目の前の2人に視線を向けると、気まずそうにこちらを見つめる坂田。
Domの大きな声が苦手なうらたさんは、本日2回目の大声に、坂田の腕の中でふるふると震えていた。

「ごめん。頭冷やしてくる」

……まーしぃ、おれは大丈夫だから。

それに、ずっと応援してるから。まーしぃのこと。

部屋を出る直前、背後から微かに聞こえたうらたさんの声に重なるように、

“はっ……”

誰か俺のよく知る人が息を飲む声が聞こえたような気がした。

~~~

その日の帰り、1人、最後まで残っていた俺は、最近よく聞く声をちらっと廊下の隅で聞いた。
どうやら、いつもセンラと話をしているスタッフさんが別の男と話をしているらしい。
俺は、そのまま通り過ぎようかと思ったが、相方の名前が出た瞬間、足を止め、2人の会話に耳を傾けた。

「どうだ、上手くいきそうか」

「結構、近づけてるんちゃうかな。センラさん、昔から警戒心強い人だから、無理かもしれないって思ってたけど、やっぱり1番狙いやすいかも」

「そうか、よくやったな」

「へへ、ありがとう」

「じゃあ、これ、言ってたやつ」

「おお、いい出来やんか。これならきっと」

「うん、最後まで頼んだぞ。俺たちのゴールはまだまだなんだから」

「分かっとるよ。

“人気歌い手が…………に、……、した”

このために、どれだけ動いてきたと思ってるん」

「うん。お前ならできる」

「任せて」

センラと同じ京都弁がやたらと鼻につく。
なんや此奴ら。何を企んでるんや。
大事なところがきちんと聞こえなかったけれど、何か悪いことが起きるように予感させるそんな出来事やった。

~~~

この日を境に、更にスタッフとセンラとの距離が近づいたのは言うまでもなかった。
俺が前よりも気にするようになったっていうのは一理あるのかもしれないけれど、明らかに2人の距離は日に日に縮まっている。

人との距離感の取り方が人一倍上手で、ファンやこの活動を何よりも大切にしているセンラが、今みたいな距離感でスタッフといるなんて、改めて前までは考えられなかったな、と思う。

「センラ~、」

って、またか……

今だって打ち合わせが終わったというのに、また別で残って話をしているみたいやし。
あれから2人でご飯に行く回数も増えているようで、この間は休みの日まで2人で会っていたなんて話も聞いた。

そんなことも諸々含めて、今日こそは久しぶりに飲みに誘おうと声をかけたつもりやったけど、どうやら俺の声は届いていないらしい。
もやもやした気持ちで話している2人の後ろ姿を見つめていると。

とんとんっ、

軽く肩を叩かれて振り返ると、そこには見たこともないほど眉をへの字に曲げた坂田が。

「どうしたん、そんな顔して」

「ちょっと相談乗ってほしいんやけど、この後って空いてる?」

「ん? あぁー空いとるよ」

「そんなに遅くはならんから! ごめんねまーしぃ、ありがとう」

いつも俺らの空気を明るくしてくれる末っ子の困った表情なんて久しぶりに見た。
センラとの飲みのために空けていた今晩が、まさか彼のものになるなんて思ってもみなかったけれど、あんな顔で話しかけられたら、断れない。
内容は……、用事があると言って、先に帰ってしまったリーダー様のことやろうか。

その後すぐ、打ち合わせを続けるセンラに一言だけかけて俺たちは会議室を後にした。

~~~

「ごめんね、まーしぃ、急に誘っちゃって」

「ううん、全然ええけど、どうしたん。なんか悩み事?」

近くの居酒屋に入って、とりあえず乾杯までしたところで、困り顔の坂田に本題を振る。
さっきから浮かべる困った表情もそうやし、わざわざ俺をこうやってこの場に呼んだのも含めて、異常事態であることは明らかやったから。

目の前の坂田は少し言い淀むような仕草を見せながら、一度深呼吸をして、

「……いや、それがさ。

ほんまはまーしぃに言うの、うらさんに止められたんやけど……」

「え?」

「俺は、まーしぃが1番知っとくべきやと思うから」

俺でも、うらさんでもない。
まーしぃが1番、知っとくべきやと思うから。

だから、聞いてほしい。

彼は、俺をまっすぐ見つめ、そう口にした。

「この間、俺とうらさんが志麻センと別で待機してたときあったやん?
あのとき俺ら、最近センラと一緒にいるスタッフの人が別の人と話してるの聞いたんよ。
話の中身がどう考えても、歌い手界隈を悪く言うような内容やったから、ちょっと気になってさ。
そしたらそのときに、

“人気歌い手がパートナー持ちのSubに手を出した”

って書いた記事の原稿みたいな紙を持ってるのが見えて」

「え。それって……」

「いや、でも俺らはそのとき、流石に見間違いやろ、くらいな感じで話してたんよ。
なんやけど……、知らんうちにうらさん、直接あのスタッフに、あれはどういうことなんやって言いに行ったみたいで。
Sub同士やから大丈夫やと思ってたらしいんやけど、突然強いDomがやってきて、Glare浴びさせられたって」

Dropしそうな真っ青な顔で帰ってくるんやから、ほんまに……

「坂田……」

「うらさん曰く、相手のDomはまーしぃに匹敵するくらい強いかもって。Glareも本気で出してきたというより、大声出されたのと軽く睨まれただけやったらしいけど結構くらってたから」

「でもなんで秘密になんて、」

「うらさんが逃げようとしたときに、相手のDomが、“他のメンバーに今回のことを話したら、浦島坂田船を滅茶苦茶にしてやる。お前のせいで浦島坂田船は終わるんだ”って言ってきたんやって。
最初俺にも秘密にしようとしてたから、流石にCommand使って無理やり聞きだしたんやけど……
うちのグループはうらさん以外みんなDomやから誰でも記事の標的になり得るし。
うらさんなりにメンバーを守りたかったんやと思う。
やから、分かってあげてほしい……」

ごめん、まーしぃ。
そう言って深く頭を下げる坂田。

「……そんな、そこまでされてんのに。
黙ってて良いこととあかんことがあるやんか、」

突然見知らぬDomにGlareを浴びさせられて、脅されて、Dropしそうなところまで追い詰められたのに、大好きなDomのCommandにすら上手く従えないことがどれだけ辛かったか。
自分のSubが1人で危険なところに飛び込んでいって、Dropしかけで家に帰ってくることがどれだけ怖かったか。
大事なことを黙っていたうらたさんと坂田に、全く怒りを覚えなかったかと言われるとそんなことはないかもしれないけれど、それでも。
苦しいことを1人で抱えてくれたうらたさんにも、同じDomとして、苦しそうに頭を下げる坂田にも、怒る気になんてなれなかった。

「センラにはまだこのこと伝えてないんやろ?」

「うん、うらさんは最後まで秘密で解決しようとしてるみたいやから」

俺が今まーしぃに話してるのも俺が勝手にしたことで、うらさんは知らんよ。
帰ったらちゃんと怒られる覚悟はしてきてる。

さっきまでの歪んだ表情が少しずつ解けて、苦笑いを浮かべる坂田。
DomやSubも個性の1つとして、対等に生きられる世の中やのに、こんなことがあってたまるかよ。
大事なメンバー、大切な人がこれ以上傷つく前に、俺は食い止めなければならない。

「そうか……
ありがとう、坂田。俺に話してくれて。

それ聞いて、俺も1つ思い出したことがある。
聞いてくれる?」

先日廊下の角で盗み聞きしたあの話。まさかこんなところで繋がってくるなんて。
坂田の話を聞いたことで、俺が聞こえていなかった部分がはっきりした。
あのときは怪しいな、くらいだったものが、確信に変わって、沸々と怒りが燃え上がってくる。
俺は、ぬるくなったビールを一気に煽ってから、この間のことを坂田に告げた。

「えっと……つまり、センラは、あのスタッフにターゲットにされてる、ってこと?」

「2人が見たことと俺が聞いた話がほんまなら、そういうことになると思う。
多分やけど、スタッフと話してたもう1人のDomっていうのも俺が聞いたときの話してた人と同じなんちゃうかな」

「そうか……
でも、どうしよ? 証拠もないし、食い止めるって言ってもあんまり大きなことはできひんやんか。
うらさんはみんなに言ったらあかんって脅されてるし、センラはスタッフと簡単には縁切られへんやろうし」

「そうなんよな、どうにかして最悪の事態になるまでに止めなあかんねんけど、変に俺たちが干渉しすぎたら、バレるからな」

うーーーん。

そんなこんなで、色々話し合った俺たちの作戦会議の結果はこれだ。

とりあえず、センラにスタッフと距離を置かせよう。
決定的な瞬間を撮らせないようにすればいいってことは、4人で一緒に過ごす時間を強制的に増やせばええんやから。
あと、もしも何か怪しいことがあったときは、俺たちが率先して動くように。

そうと決まれば、作戦はすぐに実行に移された。

打ち合わせでセンラが呼ばれる度に、こちらから何かと声をかけて呼び戻す。
実際話さなあかんことは色々あるから、この作戦は案外上手くいった。

この日はセンラがスタッフに呼ばれて、別室へ。
数分様子を見てから、坂田が立ち上がった。

「センラ~、打ち合わせどんな感じ?
ちょっと見てほしいもんあるんやけど、こっち来れへん~??」

今度皆でやるゲーム配信の候補のゲームを見てもらうことに。
俺たちに呼ばれたら何か重大な話し合いをしていない限り、こっちに来てくれるっていうのは、関係上分かっていることやから、それを利用させてもらう。
少し悔しそうな表情を浮かべるスタッフにしめしめと思いながら、できるだけ2人を引き離すように振る舞った。

はたまた別の日は、今度皆で録る曲の歌詞分けについて。
いつもは担当を決めたら、その人に一任する形やけど、今回は上手く言って、俺とセンラですることにした。俺がおおよそを考えて、ライブを担当するセンラに確認をしてもらう。

「センラ~~、こっち来れたりする?」

「ん? どうしたん、まーしぃ」

「今度の曲の歌詞分けのことなんやけど、ライブの演出にも関係するし、確認してほしくって! できるだけ早く完成させて、皆に共有したいしさ」

「そうか……おっけ、すぐ行くわ!」

俺には見える。
ふわふわの尻尾とお耳。

ヒマワリみたいにぱっと輝く彼の笑顔はやっぱり俺の宝物。

って、ちゃうねん。あかんあかん。
まだ俺はそんなこと考えてるんか。諦めたんちゃうんかい。

「……まーしぃ? おーーい。大丈夫?」

「あぁ、ごめんごめん。ここが、えっと、」

「そこちゃうって、も~まーしぃまたゲームしすぎで寝不足なんちゃうん」

「ちゃうって、ちゃうよ。ちゃうから!!」

「はいはい。そーですかぁ、まーしぃって意外と頑固なん忘れてたわ」

「ほんまにちゃうねんって!」

「分かったから、はよやるよ」

「はぁい、」

そんな調子で順調に引き離し作戦が成功していたあるとき。
事件は起こった。







~~~

「センラ~~、打ち合わせ始まるd、」

資料の準備が済んで、会議が始まる時間になったから、いつものように外で話し込んでいるセンラを呼びに廊下へ出たときやった。

ちょうど廊下の角で、カメラを構える1人の男。
その視線の先には、Collerをつけたあのスタッフとセンラの姿が見えた。

仲良さそうに話す、スタッフとセンラ。
スタッフが自慢気に見せつけるCollerにセンラが手を伸ばしたその瞬間。

反射のように俺の身体は動いていた。

「おい、何してんねん」

カメラのシャッターにかかった指が下がるのが見えて、目の前から思いっきりカメラを掴んだ。
そのまま、目の前の男に視線を合わせて、強く強く睨んでいく。
久方ぶりのこの感覚。
俺のGlareを感知した坂田がここにやってくるまで。
それまでに此奴を負かしておかなければならない。

「何してんだよ、どけよ」

「はぁ? お前の方こそどういうつもりやねん、」

「お前らみたいな奴らが1番嫌いなんだよ。
良い顔だけしやがって」

「……こうやって俺らの邪魔をするのもなかなか姑息な手やと思うけどなぁ」

「所詮、歌い手だろ? それに俺はなぁ、知ってんだよ。お前らがどんなに汚いことしてるのか」

「……」

「あれ? もう言い返せなくなったのかな? Glareも段々弱くなってるし、いきなり吹っ掛けてきたにしては弱すぎなんじゃないの?」

「…………お前なぁ、これ以上俺たちのこと、悪く言うたら、殺すぞ」

ここから坂田に名前を呼ばれるまでの記憶は殆どない。
彼に名前を呼ばれて我に返ったときには、目の前は酷い惨状だった。

「……しぃ、まーしぃ!!!」

「さかた、」

「こっちはもうええから、早くセンラのところに」

「え……?」

「まーしぃ! しっかりして!!! 」

あっち!!!
と、坂田に指差された方向に視線を向けると、スタッフを守るように俺に向けて弱いGlareを出しながら立つセンラと、そのセンラの腕を引っ張るうらたさん。
なんで、なんでそいつのこと……? 守ってるん……?

「お願いや……まーしぃ」

「まーしぃ、! センちゃんを!!」

相変わらず苦しそうな表情で、センラの手を引くうらたさん。

まーしぃ、頼んだ。まーしぃにしか、できないことだから。

そう訴えるような必死な眼差しに、俺は覚悟を決める他なかった。
思ったよりも重い足を引き摺って、センラの元へ。

「センラ、行こう」

「待って、勝手なことしんといてや」

「ええから、ほらっ、早く」

抵抗するセンラの腕を取って。空いていた部屋に連れ込んだ。
あれだけあからさまな行動を取られて、センラが気づいていないはずがない。
それなのに、助けに入った俺に感謝するどころか、今にもさっきの奴らの元へ走っていってしまいそうな勢いで、俺の手を振り払おうとしてくる。
何やねん。そんなに彼奴のことが……?
見たもの、聞いたもの、触れたもの、全てが俺の感情を刺激して、もう止められない。
感情を振りほどくように部屋の扉を勢いよく閉めると、センラは正面から俺の肩を掴んで堰が外れたかのように話し始めた。

「なんでっ、なんであんな勝手なことしたんよ。まーしぃが本気であんなことしたら、お互い辛いだけやんか。何にもいいことない。それに、今回は俺でも十分対処できた。まーしぃが強いことはよく知ってるけど、俺だってDomなんやから。まーしぃに守ってもらうような人間やないのに」

「あんな状況で何もせんなんてできひんやろ。仮にも俺はセンラと一緒に活動してるメンバーで、相棒なんやから。うらたさんと坂田だって、センラのこと心配して、」

「俺は何もされてへんし、3人には関係ない。あれは俺自身の問題で、俺が対処せなあかんし、対処できたことやった。

……それに、なんで。
よりにもよってまーしぃに助けられなあかんの」

そう呟いた声は、これまで聴いたこともないほど儚く、不謹慎だけど美しかった。
ずっと怒りを浮かべて睨みつけるようだった視線が急に緩んで、その瞳には涙を浮かべている。そしてそのまま俺の方を打ち靡くように見つめる彼。

「なんで……? 俺は、恋を叶えることも、諦めて先に進むこともできひんの? やっと、前を向けるかもしれへんって。人生でこれほど、誰かを好きになるなんてことなかった。それでも、叶わへん恋やからって、何とか諦めようって。なのに、それすら邪魔されて、上手くいかんくて、挙句の果てにまーしぃに助けられて。

俺は、一生まともなDomとして生きていかれへんのや」

「センラ……、?」

「うらたんと坂田のことも、おめでとうって思ったのは本心やった。ずっと仲良かったし、1番近くで2人のこと見てきたつもりやから。でも、羨ましいなって思っちゃった。本当に大好きな人と、唯一無二の関係になれること。そのことがどれだけ幸せなことか」

ぽつり、ぽつりとセンラの口から紡がれる心からの悲痛な叫び。

「2人が眩しくて、羨ましくて。
それでなんかな。俺、今、これまでほど上手くGlare出せへんの。
前に会議室で3人が話してたとき、ちょっと言い合いになってたこと、あったやろ?
俺がちょうど部屋に入ろうとしたら、まーしぃが怒鳴ったのが聞こえて。
そしたら、いきなり心臓がバクバク動き出して、上手く立てへんくなったんよ。

そのときに思ったんや、あぁ、これが限界なんかな、って」

「限界?」

「Domやのに、Domのことを好きで居続けることの限界。
Subの真似して、CommandのCDとか聞いてみたりしてたんよな、俺。
そんなんでSubになんてなれるわけないのに。
ただただ虚しくて辛いだけやった。
だから今度は、無理やりSubのこと好きになろうって、まーしぃのこと断って、後輩とわざわざ予定決めてご飯にも行ったんよ。少なくともちゃんとしたDomとしてまーしぃの隣にいたいって思って。
でも、全部、全部無駄やったんよ。

俺は……。
俺はずっとまーしぃのこと……」

好きやった。いや。今も、ほんまは大好きやねん。
志麻くんとパートナーになりたかった。
やのに。全部、上手くいかんくてっ……

好きになってごめんなさい。

ぼろぼろと涙を流しながら訴える彼。
その姿に俺は、支配欲がむくむく湧いて。

もしかして、これって。

運命が変わる音がした。







snr side

もう、何を言っているのかなんて、分からない。
取り繕う余裕も無くて、多分全部口走ってしまったんやと思う。
目の前にはかっこいい顔を歪めて、俺を見つめる志麻くんがいて、俺の両手は小刻みに震えていた。
もうこれで、俺は志麻くんの相棒でもいられないし、Domとしても不良品。
あぁ、俺ももうこれでおしまいか。
そう思ったそのとき。

「センラ」

彼が俺の名前を呼ぶ。
そして、その刹那、俺を初めての感覚が襲った。

「……っ、なん、で」

「センラは、俺の“Sub”、やから」

『Switch』

彼の低くて強い声が体内を響いて、足の力が抜ける。
そのまま、すとんっ、と床に落ちるように座ると、一気に視界が逆転した。
待って、俺……

「初めてやのに、上手に“Kneel”できとる」

『ええ子やね、センラ』

ぞわぞわぞわ、っと体中の細胞が震えた。
その初めての感覚が怖くて怖くて、でも、嬉しくて。
頭がぽやぽやするし、今、何が起こってるのかなんて分からない。
分からないけど、でも、

「まぁ、し、」

「ん? どうしたん?」

「お、れ、」

目の前の彼に問いかけたくて、言葉を発そうと試みるけれど、さっきまですらすらと言葉を発していたはずの喉が、上手に機能しなくて、空気だけが抜けていくような感じがする。
まぁし、おれ、上手に話せへんくなっちゃった、よ?
助けてって気持ちを込めて、彼の顔を見上げると、全部お見通しだとでも言うように優しく微笑んだ彼はこう呟いた。

「話せへんくなっちゃったん?
大丈夫やで、センラ。落ち着いて。
“Speak” 言ってごらん 」

“Speak”

彼のCommandを受けた瞬間。
喉につっかえていた何かが一気に無くなった。

「は、なんで……」

立ったまま俺のことを見下ろしていたまーしぃが俺に目線を合わせるようにしゃがんでくれた。そのまま彼の右手が俺の髪を揺らす。
ふわふわ、気持ちいい。

「センラ、ほんまはSwitchやったんやろ?」

「……いや、おれは、ずっとDomで、そのはずなんやけど」

「そっか、じゃあ、俺のためにSubになってくれたんや」

「え?」

「俺さ、1回だけ聞いたことがあったんよね。
時々、DomやSubのどっちかが強く出すぎてて、検査で判明しない隠れSwitchがいるって」

「なにそれ、どっかの夢の国のねずみ、みたいな」

「ははっ、そうやねん。俺も初めて聞いたときそう思ったよ。

……でも、ほんまにおったなんて」

まーしぃは俺の頭を撫でる手を止めず、優しい声で話してくれた。

そのときに聞いたんよね。
Sub性が強い隠れSwitchはSubよりもSubdropへの耐性があるから意外と早い段階で気付くことが多い。
でも、階級の高いDom性を持つ隠れSwitchはなかなか気付かれないし、気付かない。
そんな中で唯一、分かる方法があるんやって。

それは、自分より階級の高いDomのCommandが聞けるかどうか。

「じゃあ単純に検査項目にDomからのCommandを入れたらええんちゃうん」

「それが、そう簡単やないらしいねん」

今もそうやけど、センラは自分の意思でDomに戻ることができひんやろ?
このままやったら、ずっとDomに戻れずにSubのままになってしまう。
Domのときの階級が高ければ高いほど、Subになったときの階級も高くなる。
それを上手く操作できるのは、

「「パートナー」」

「そう、パートナーじゃないとあかんってこと。
今だって、センラが俺に心を許してくれてるから、俺のCommandが効いてるんよ」

「お、俺、今、Subなん、? ほんまに?」

「うん、上手にSubになれとるよ」

「……あ、あの、志麻くん、1つだけお願いしてもいいですか」

うん、彼が頷くのが見えた。

「もう一回、こまんど出してください」

"笑って"

「えっ、」

こくりともう一度頷いて、俺に命令した目の前の彼の顔はこれまでに見たことがないほど、輝いて見えた。
俺を見つめる暖かい眼差し、頭を撫でる柔らかい手、Commandを発したときの優しい声。
彼のCommandでSubになれたという事実、彼の命令に従えることへの喜び。

全部が幸せで、俺は。

思いっきり、彼に笑いかけた。







==========

ここまで読んでいただきありがとうございました!
今回、素敵なリレーに参加させていただけて本当に光栄です。
私の好み盛りだくさんで好きなように書かせていただきました。

志麻さんしか、センラさんをSubにできない。

唯一無二の2人の関係が大好き過ぎるっ。
こんなお話がまた増えたらいいななんて思ったりしております。

また、このお話は色々中途半端な部分もあるので、裏話はTwitterの方でできたらな~とも思ってます。

今回、快く企画に参加させてくれた企画者のたう餅様、他リレーの参加者様、本当にありがとうございました!

椪珠

ほんの少しだけおまけ↓




~~~

「センラ~」

「ん?」

「こっち来て~~」

「はぁ~い」

「今日は予定ある?」

「ううん、今日はね。まーしぃと過ごすために空けてま~す!」

「なんやそれ!! そんなこと言われたら、今日は離されへんで?」

「だって、そろそろcareしてほしいな~、とか思ってたし?」

「いや~~~、ほんまにうちのセンラさんは可愛すぎて困ってしまいますね~」

「ふふ~。
ね、ね、しまくん。俺のこと、“Subにして?”」

「何。そんな可愛いことまで覚えたん? 俺に命令するなんて。
じゃあ、いくで?」

“Switch”

「わっ」

「やっぱりまだ慣れへんよなぁ」

「ん~、一気にまーしぃがものすんごくDomに見える」

「そんな感覚なんや」

「そう。従いたいなぁ~かっこいいなぁ~って思うんよ」

「ほへ~」

「そろそろ俺も自分でSubになれたりしぃひんかなぁ……」

「センラは自分でなりたいって思ってるんや?
俺は案外、今のままでも良いなって思うんやけど?」

「え~、なんで?」

「だって、センラのことSubにできて、Spaceに入れられるのは、世界で俺だけなんて、なんかロマンチックじゃない?」

「……まーしぃ、そんなこと言うタイプやったっけ?」

「言いたくなったんやからええやろ! もー。早く“こっちおいで”」

「はぁ~い」

(あいつら、何なんだ)

(俺らまだおるんやけど、っていうかまだここリハ室やし?)

(いちゃいちゃするなら帰ってやれ~~~)

((俺らの前だからって、調子乗るな!!!))

本当のおしまい。

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